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初詣

「お正月も終わったっていうのに人多いですねぇ」


「わりと有名なお寺だからね。三ヵ日はもっと凄かったらしいよ。たぶんそのとき来られなかった人が今日来たって感じじゃない? 土日だし」


「これでも少ないほうですか。っと、お賽銭投げようと思ったら五円玉がありません。十円玉半分にちぎっちゃダメですかね?」


「そんなことができる時点で不動明王あたりの加護がついてるよ。貨幣を意図的に傷つけるのは犯罪だぞ」


「まさかおサイフケータイに対応してないとは思ってもみませんでした」


「電子貨幣で賽銭とか情緒もへったくれもないだろ。僕の五円玉あげるから早く済ませろ」


「ナンマンダブナンマンダブ……。何をお願いしましたか?」


「今年も無事暮らせますようにって」


「普通ですね。せっかくですから今年は冒険してみても良かったのでは? 世界救済の旅に行けますようにとか」


「行けよ勝手に。無難に過ごせれば僕はそれでいいんだよ。君は何をお願いしたの?」


「あなたがもっと積極的になるようにと」


「悪かったな消極的で」


「あなたが童貞卒業できますようにと」


「大きなお世話っていうか周りに人いるからそういう発言やめてくんない?」


「それから既成事実が作れますようにと」


「僕もう一回参拝してきていいかな?」


「それから」


「多い! 五円でどれだけ恩寵賜ろうとしてるんだ!」


「私は神に愛されている女ですから」


「ここお寺だから神はいないぞ。そういう自信だけは無駄にあるよね君」


「ではそれを証明するべく、くじ引きしましょう。と思ったら百円も五百円もありませんでした。あなただけでも引いてきてください」


「それじゃ証明にならないだろ。百円あげるから一緒に引こう」


「ではお言葉に甘えて……大吉! 運気これより大いに吉。悦び事多し。縁談吉。待ち人なし。望み事成就すべし。訴訟あらそい事すべて勝ち!」


「うわ、大凶……。運気大いに悪し。悦び事なし。縁談悪し。待ち人来たらず……」


「さすが神に愛されている女といったところですか。あなたは残念でしたね。早く結びつけて祓っちゃいましょう」


「君のも一緒に結びつけさせてもらえないかな? でないと祓えない気がする。むしろ君ごと祓う必要がある気がする」


「馬鹿なこと言ってないで、せっかくですから絵馬も二人で一枚買いましょう。と思ったらお財布がありませんね」


「仕方ないなぁ……じゃないよ! 五円ないとか百円ないとか以前に最初から金持ってきてなかったんじゃないか!」


「スーパーの五百円割引券ならあるので、代わりにあげます」


「……ありがとう」


「さて、なんと書きますか。さっきと同じお願い事だと芸がありませんね」


「僕は同じでいいや」


「そんなことだから大凶なんですよ。もっと神々を喜ばせないと」


「なんで願い事でボケかまさなきゃいけないんだ。他人も見るんだぞこれ」


「あなたの性欲が回復しますように、と」


「祈願を装った中傷はやめろ!」

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