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103/2024

妄想

「年賀状がたくさん届いてますね。ほとんどあなたのですけど」


「未だに中学時代の友人とも親交あるからね。高校は言わずもがな。君は……いやなんでもない」


「はい、友達と呼べるほど仲の良い知り合いなんてほとんどいませんでしたから。こんな悪しき風習早く廃れればいいのに」


「君の性格にも問題あるんじゃ……。奇特な言動して周囲をドン引きさせてたとか」


「それは中学時代までです」


「してたんだ」


「クラスメートに対しても敬語で話していたせいか、良い子ぶっていると思われて疎外されてました」


「あー……ゴメン。もういいから、そんな悲しい思い出は早く忘れなよ」


「休み時間は机に突っ伏して妄想のみに時間を費やしてました。グループワークではいつも」


「もうやめるんだ! わかったから! よく頑張ったね!」


「頑張りましたよ。我ながらよく皆勤賞なんて取れたものです」


「それは地味に凄いな。その頃からメンタルだけは強かったんだ」


「負けず嫌いだっただけです。徹底的に良い子を演じて、先生方からの評判は上々でした。この頃に百八の人格の一つ、後輩位が形成されたのです」


「ここで多重人格設定出てくるのか」


「おかげで地元の進学校に推薦で入れました。そして高校からは私も心を入れ替え、近寄ってくる人間には竹刀を振り回すことに」


「文字通り心入れ替えてどうする。え、推薦で高校入っておいて初日にグレたの?」


「入学式の代表挨拶は母校の伝説として今も語り継がれています」


「何したの。いや聞きたくもないけど」


「おかげで同級生からの人気はうなぎ登りでしたが、教師陣からの評判は散々でした」


「だろうね。でも人気があったなら友達もいたんじゃないの?」


「一匹狼がカッコいいと思っていたので一緒に遊ぶような子はいませんでした。この頃に百八の人格の一つ、気丈位が形成されました」


「着々と設定を回収していってるけど、これ系のエピソードあと百人分以上やる気なの?」


「それでも受験競争が本格的になると気丈位は成りを潜め、代わりに超頭脳派の考査位や英語特化型のTHE位が形成されていきました」


「今僕の目の前にはとんでもないサイコパス女がいるんじゃないだろうか」


「大学に入ってからは私の多重人格をめぐって何度か騒動がありました。集合的無意識の被験体にさせられたり、新興宗教の御神体として干物にされそうになったり、人類の進化形態として第七プロトコルに組み込まれそうになったり、大変でしたね」


「……波乱万丈な人生過ごしてきたんだね」


「そんな妄想をずっとしてたせいで友達ができませんでした」


「妄想かよ! たたむの遅いんだよ!」


「やっぱり私宛ての年賀状は数枚だけですか。ほとんど広告ハガキですし……あら、これは」


「ああ、それ僕から君に出しといたやつだ。一枚だけでも増えると違うだろ?」


「……ありがとうございます。すぐにお返事書きますね」


「律儀だね。楽しみにしとくよ」


「百八人分書きますね」


「そんな律儀さはいらない」

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