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転生者たち~時空の終わりとソウルフルネス・ワンダーランド~  作者: 樫山泰士
第五話「もしも、間違いに気がつくことがなかったのなら?」
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その2


「高校の文化祭?」と山岸まひろは訊き返していた。ひき続き時の止まったエレベーターの中で、天井の救出口から顔だけ出してる男に向かって、「そこでまことちゃんが殺されるんですか?」


 と、さすがにそろそろその体勢(逆さ吊り状態)キツクないですか? と、丸顔男の顔をながめながら。


「いや、だから、その子は五才なんだろ?」男は答えた。言われてみればたしかに、なんだかすこし、頭がふらふらするようだけれど……、「君が……、救けないといけないのは……」うん。これ、確実に頭に血がのぼっちゃってるな、「高校生の……ごめん。一旦そっちに下りてもいい?」


「はあ」


 どったん。


 と、言うことで。


 こちらふたたび場面もどって、問題の時が止まったエレベーターの中。のぼせて天井から落ちて来た赤毛男と山岸まひろの会話の続きである。であるが――、


「それで?」赤毛男は訊いた。どうやら頭を打ったのか、「行政書士さんの名刺はもらってるんだよね?」と言いつつ頭にこぶが出来ていないかを確認する。「猪熊先生のところに行ったってことは」


「え? あ、はい」まひろは応えた。床に座る男の頭をのぞき込みながら、「あなたも一緒でしたよね?」


「え? あ、たぶんね。そうだろうね」男も応えた。どうやらこぶは出来てないらしく、「そしたらそうだなあ」と続けて、ゆっくり立ち上がる。「あのひとに訊いた方がはやいかも知れないなあ、ぼくよりしっかり“観てる”だろうし、同じ地球人だから見分けもつくだろうし」


「“観てる”?」まひろは訊き返した。改めて男の顔を確認し、「そのひとも、その姪っ子? 高校生? を知ってるってことですか?」たしかに昨日出会った男と同じ男だが、なんだかどこか奇妙な違和感があった。


「知ってるっていうか、“観てる”ってことだけどね」男は続けた。服に付いたほこりを払いながら、「詳しくは名刺の住所に行って聞いてみてよ」


 が、しかし、ここでまひろは、「あ、」とふたつのことに想い至った。「す、すみません。実は――」


 ひとつは、男の服装が、今朝別れたときよりずいぶんボロボロに――と言うか、何週間も着古したみたいにヨレヨレに――なっていた点で、それが、彼女が感じた奇妙な違和感へと繋がっていた――たった一日でこんなヨレヨレになるの? そうしてもうひとつは――物語的にはこちらの方がより重要なのだが、


「名刺をなくした? なんで?」と男もおどろき訊き返すとおり、猪熊先生から受け取った、石橋伊礼へと繋がる彼の名刺をどこかに落として失くしてしまったという点であった。であったが、しかしこれは、


「す、すみません。なんだか今日は、朝からボーっとすることが多くて――」


「うーん? そう言えばさっきも似たようなこと言ってたね。やはり、時空不連続帯の乱れとキャブランチからの逆流時間漏れが――」


 と彼らも言うとおり、時間とか空間とか、その辺のものの乱れが強まっているからであるし、もっと言うと、あの時まひろは、小紫かおるの“能力”のせいで、自身の意思、集中力と言ったようなものを殺がされていたからでもあった。もちろん。後者については、男はもとより、まひろもほとんどそれを認識出来ていないわけだが。


「うーん。でも困ったなあ」男は続けた。「姪御さんのこともそうだけど、君には彼にも会っておいてもらわないと――」


「あ、だったら」まひろも続けた。「一緒に、その先生のところに行ってもらえませんか?」突然知らない人間が押しかけて時間だ世界だと言い出すよりは、「あなたの口から話して頂いた方が、きっとスムーズでしょうし」


「うん?」男は応えた。うでを組み、片方の眉毛を吊り上げて、「おー」と初めてそのアイディアに想い当たったかのように、「うん。たしかにそうだな、えらいぞ、まひろくん」


 がしかし、ここで突然、


 ピッ

 ピッ

 ピッ

 ピッ


 と男の左腕から、ふっるいタイプのアラーム音が聴こえて来た。どうやら彼の、だっさい感じのデジタル時計が鳴っているようである。


「え? なに? もうかい?」


「なんですか? このアラーム」


 ピピッ

 ピピッ

 ピピピピピッ


「ごめん、まひろくん。どうやら次に行かないといけないらしい」


「え? でも、そしたら、その先生のとこには?」


 ピピッ

 ピピッ

 ピピピピピッ


「ごめんだけど、やっぱり君ひとりで行ってもらえってことらしい」


「え? で、でも、名刺が――」


 ピピッ

 ピピッ

 ピッ


「あ、ああ、そうだな。じゃ、じゃあ、もういちど名前を教えるから、それで調べて、自分で探してみてくれ」


「え? み、見付かりますかね?」


 ピピッ

 ピピッ

 ピッ


「この町のひとだから、探せば簡単に見つかると想う」


「ほんとに?」


 ピッ

 ピッ

 ピッ

 ピッ


「いいから、探すだけ探してみてくれ」


「じゃ、じゃあ、」


 ピッ

 ピッ

 ピッ

 ピッ


「いいかい? イレイ。イシバシ・イレイ。行政書士のイシバシ・イレイさんだ。かならず彼に会――」


 ピッ

 ピーーーーー。


 と、こうして男はいなくなり、止まっていた時間とエレベーターも、


 ガッコン。


 と、とつぜん動き出すことになるのであった。そうして――


     *


「高校の文化祭?」と樫山ヤスコも訊き返していた。ひき続き、時の止まった橋というか境界線の上で、自分の肩をむんずっつかむ赤毛男に向かって、「そこで私の姪っ子? が殺されるの?」


 よくよく見るとこの人、鼻毛が一本出てるわねえ。とか、そんなことを想いながら、


「時間は? 時間は間違えてたりしない?」と。「あなた平気で何年も間違えるじゃない、時間」


「え?」鼻毛の赤毛は訊き返した。それでもすこし考えてから、「……そうだっけ?」


「そうよ」ヤスコは応えた。腹を立てるのにも飽きているのか、「牛乳買いに出て行って、半年経って戻って来るとか」


「あー、でもあれは、麟太郎くんが知恵を貸して欲しいって仕方なく――」


「自由に時間を行き来出来るのに、なんでもと居た時間に戻れないのよ?」


     *


 さて。


 と言うことで。


 ただでさえ奇妙な男の話が、さらに奇妙な感じになって来たので、すこしばかりの補足をしておくと――って言っても皆さん、すでにお気づきのことかとは想いますが――この男の名前はミスター。本名は我々の惑星の言葉ではとうてい表せないので割愛するが、要は、時空を旅するタイムトラベラーである。というか、異星人である。というか、地球や宇宙や練馬区を滅亡の危機から何度も何度も何度も何度も救ってくれた、結構すごいヤツである。であるが、


「なんだけど……、だーれもホメてくれないんだよね、これが」


 とご本人もおっしゃるとおり、なんだかんだで、地球や宇宙や木の上から降りられなくなったネコちゃんを助けるのに忙し過ぎるのか、その辺の自己アピールはかなりおろそかになっているらしく――、


     *


「おじさーん! どこ行ったのー? おじさーん!!」とか、


「あの方は? このノイシュヴァンシュタイン城を虚無から救ってくれたあのお方はどこへ行かれたのですか?」とか、


「あ、ながれ星!」


「なにかお願いごと出来た? サム」


「うん。ジョン兄ちゃんとミスターが、はやく帰って来れますようにって――エリーお姉ちゃんは?」


「そう。そうね、わたし、わたしも……(涙で言葉につまるエリー)」


 ガサッ(森の茂みから何者かが出て来る)


「エリー……、サム……、」


「えっ?」


「わあい! ジョン兄ちゃんだ!」


「ただいま……」


「ジョン?! 本当にあなたなの」


「なに言ってんだよ、お姉ちゃん! どこからどう見たって、僕らの大好きなジョン兄ちゃんじゃないか!」


「で、でも、あの大爆発の中どうやって?」


「うん。実は――(*すっごい長い説明ゼリフが入るので中略)――そうして彼、ミスターはひとり残って、僕だけを地上に転送してくれたんだ……」


「え? じゃ、じゃあミスターさんは?」


「あの爆発では……、おそらく……」


「ウソだ! そんなのウソだろ? ジョン兄ちゃん!」


「すまない。サム……」


「なんでだよ! なんでミスターだけ残して来たんだよ! ジョン兄ちゃんのバカ、バカ、バカァ!(泣きながらジョンを叩くサム)」


「おやめなさい! サム!(サムをジョンから引き離すエリー)」


「だって、だって、だって、かならず戻るって、また一緒にクリケットの練習するって言ってたのに! 言ってたのに! わぁああぁあーーーーん(エリーに泣きつくサム)」


「サム……(サムを抱き締めるエリー)」


「ごめんな、エリー、サム……(ふたりを抱き締めるジョン)。でも、彼のおかげで、この惑星、いやこの太陽系、いやこの宇宙は救われたんだ。感謝しないとな」


「でも……、そのことを、彼のことを知っているのは、私たち三人だけなのよね……」


「ぼ、ぼく、約束するよ! ジョン兄ちゃん、エリーお姉ちゃん。ぼく、ぼくはぜったい、ぜったい、ぜったい! ミスターのことを忘れないからね!」


     *


 みたいな?


 なんて言うか、最後のヤツなんかはもうちょっと世間にその偉業が知られていてもよさそうなもんなんだけど、微妙に時代が古いこともあってか(西暦1778年)、サムくんの必死のアピールもむなしく、結局、米国ニューヨーク州サラトガ辺りでのみ流布された荒唐無稽なおとぎ話のひとつとしてしか残されていないらしいんですよね。きっと時間移動やテレポート、宇宙人の侵略ってのは、その時代の人にはなかなか理解出来なかったんだろうね……、やれやれ。


 と、まあ、そんな感じで。


 こちらの間抜けな赤毛の紳士ことミスターが、この地球や宇宙や多元宇宙を、何度も何度も何度も何度も何度も救ったって事実は、ひと握りの関係者を除いては、世間一般にはまったく知られていなかったりするし、仮に言っても信じてもらえないと言うか気でも触れたのかと想われたりもするだろうし、で、ああ、そう、それで、ただ、まあ、その「ひと握りの関係者」の中には、こちらの樫山ヤスコ先生や、例のカトリーヌ・ド・猪熊大先生なんかも入っているのだが…………って、なんかやたらと脱線話が長くなったので、続きは次回更新分で。



(続く)

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