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魔法使いの弟子。


 『神よ、願わくば私に、

  変えることの出来ないものを、

  受け入れるための落ち着きと、

  変えることの出来るものを、

  変えて行くためのゆうきと、

  そうしてなにより、

  変えられぬものと、

  変えるべきものを、

  常に見分けられる賢明さを、

  どうか、どうかお与えください。』



「あら、お嬢ちゃん、どちらの子?」大柄の女性が彼女に訊いた。レモン・カラーのパーティー・ドレスでなんだかはしゃぎながら。「どこかで見たような気もするけれど、金原さんとこのお嬢さんだったかしら」


 彼女は首を横に振った。ここは八月の東京で街は暑く、通りはうるさく、そうしてなんだか埃っぽかった。今年は雨の降らない八月だそうだった。


「だったら中谷さんとこのお嬢さん? まぶたのあたりがよく似てるわ」


 パーティー・ドレスの女性曰く、彼女はこのお誕生日会の主役の母親の義理の姉のパートナーの元恋人で、いまは主役の子の妹のピアノ教師をやっているとのことだった。


「そんな太い指で?」と彼女は想ったが、そんなことは口には出さず、女性が問い続けるいくつもの家族の名前に、あいまいなまま首をふり続けていた。


「あそこの」彼女は言った。それでも遠慮深げに、女性が気に入るだろう身ぶり手ぶりで、「あそこのお菓子や飲みもの、もらってもいいやつですか?」


「え? あらやだ、ごめんなさい」女性は言うと彼女の手を取り、彼女をケータリングのテーブルまで運んでやった。「そうよね、目の前にお菓子があるのに食べられないのはつまらないわよね」が、それでも結局、女性が彼女の名字を言い当てることはなかったのだが。


 この日のパーティーは盛況で、二十三人の男の子と十七人の女の子、それに彼らの保護者や関係者らも同席していて、テーブルには食べきれないほどのゼリーやケーキやポテトチップス、それにひと口サイズのサンドイッチなんかがずらりと並べられていた。きっと、九才の女の子がひとり増えたくらい、どうってことはないだろう。


 ピッ、キィー。


 とここで、会場マイクの耳ざわりな音が響き、司会役の男性がなにやらこんなことを話し始めた。


「大っ変、お待たせしております」と、とても恐縮した感じで。「本日出演を予定しておりました大人気お笑いグループ《ワンダと永野とおかしな奴ら》の皆さまなのですが――」


 とどうやら、その中堅お笑いグループのメンバー全員が突然の食中毒でダウン、メインの出し物がなくなってしまう危険性もあったのだが、


「まるで神のおぼし召しのように――」代わりの芸人が突如あらわれ、手品を披露してくれるというのであった。


「手品?」本日の主役は言った。まるまる太ったまん丸顔で、「手品なんか見たくないよ」と、まるで秦の始皇帝かジャバ・ザ・ハットとでもいうような身ぶり口ぶりで。


 が、しかし、この小皇帝も、いざその芸人――タキシードに蝶ネクタイのミスターなんとか――が舞台に現れるや否や言葉につまり、口をポカンと開けたまま、彼の奇術に目を奪われることになるのであった。と言うのも、


「さあて、ちいさなちいさな紳士淑女の皆さま方、たったいま、私が取り出だしましたるこちらのシルクハット、この古くさいシルクハット――って本当に古くさいな。師匠に借りてそのままのヤツだっけ?――って、まあ、それはさておき」


 と、この手品師、本来なら出せてもハトやネズミやウサギ程度であろうそのシルクハットから、


「さあ! 元気なウォンバットくんですぞ!」


 と、体長1mちょいの双前歯目有袋類を取り出したかと想えば、


「それでは次に、この布を持ち上げましたならば、なにが消えて無くなっていると想いますかな?」


 と、消せてもせいぜいテーブルとか花瓶とか近所のおばさんくらいだろうとこちらがたかを括っていると、


「じゃっじゃーーーーーーん!」


 と、隣の家の大きな楡の木を消してしまうものだから、主役の小皇帝はもちろん、その場にいた大人たち、そうして、このお話の主人公のひとりである九才の彼女の度肝すら抜くことになるのであった。


「あ、あれ、い、いったい、ど、どうやってやったのかしら?」


 と、パーティー・ドレスの女性は訊いたが、もちろん九才の彼女にもなにがなんだか分からない。目を見開き口をポカンとさせていると、続いてこの手品師、その赤い髪と丸い笑顔で「それでは最後に!」と言って、皆の注意をさらに引いた。


「それでは最後にご披露するは、我が星秘伝の読心術。ここに居られる方々の、こころの秘密を読み解きましょう」他人に秘密を知られたくない方、どうぞまぶたは伏せていて、そうしてそれから、「自分も知らない自分のこころ、行き先、希望、望むべき場所、等などなどが知りたいお方は――」どうぞ後ほど、直接声をかけて欲しい、と。



(続く)

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