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麗しき髪の女神(1/2)

『指先で送るキミへのメッセージ』


「ぶう、ぶう、ぶう」仔豚が言った。ナオのズボンを引っ張りながら、「ぶぶぅ、ぶうぶぅ」と。


 しかし肝心の山岸ナオは――彼女は豚語を解さなかったしミスターの自動翻訳機『バベル』もいまはここにはなかったので――「シーッ。静かにして」と普通の日本語で彼に返すだけであった。「あの女に気付かれちゃうでしょ」と。


 ここは、例によって例のごとく、時間的空間的座標は彼らの向かう地球とまったく同じだが、確率的座標はかなり違う、別の宇宙の地球――のどこかの島? 半島? である。


 そこの森は深く、岩の突き出た山がふたつあり、その片方の岩の上に立って眺めれば南にはひろい草原が、北にはこちらもどこか半島のようなものが海の向こうに見えただろう。


 山岸ナオとミスターは、例の機械種族FUYU12000たちのいた地球を出、その後もいくつかのすったもんだ――ミスターが12人の男女に婚約を迫られたうえ食べられそうになるだとか、キメラ的合成生物を戦わせる夏休み子ども大会でナオが三位入賞するだとか――をくり返したのち、もう幾度目となるか分からないマルチバース・ジャンプを実行。結果、この島というか半島というか地球へとたどり着いたのであった。であったが――、


「ぶぶぅ、ぶぅぶぅ、ぶぶう」ふたたび仔豚が言った。ひき続きナオのズボンを引っ張りながら、「ぶー、ぶぶぶっぶぶー」と必死で彼女を止めながら。


 というのも彼女が単身、ある美しくも恐ろしい女神の屋敷に乗り込もうとしていたからである。


「だから、シーッだってば、ピーちゃん」ナオは言った。声をひそめて、「そんなに騒いだら、先にライオンに見付かっちゃうじゃないの」


 というのも、問題の女神の屋敷は、山間の見通しのよい場所に建てられていたのだが、その周りには何匹もの獅子やオオカミや巨大なボルゾイなどがたむろしていたからである。


 そのためナオは、どうにかして仔豚の口をふさぐと彼を抱き上げ、改めてそれら獣やその中心にある女神の屋敷を観察した。真っ直ぐ向かうにはあまりに危険であり、どうにか獣たちに見付からぬよう中へと入り込めないかと考えたからである。とそこに、


 パタン。


 と不意に二階のガラス窓がひらき、問題の女神がベランダへと出て来た。ながく豊かな黄金髪に雪のように白い肌をし、どんな男をも――あの赤毛のすっとこどっこいですら――狂わすであろう豊満な肉体には、麗しくも見事な薄物の布地がひとつまとわれているだけであった。


「まったく、あのすっとこどっこい」ナオが言った。女神のその美しさに目を奪われ、且つそのナイスボディを大変うらやましく想いながら、「きっと、あの女の色香にたぶらかされたのね」と。


 何故なら、このいくらか前、そのすっとこどっこいが、あの屋敷に入ったと想ったら、そのまま全く戻って来なくなったからである――うん。すこし時間を戻してみよう。


     *


「あそこだ」と赤毛のすっとこどっこいことミスターは言った。問題の屋敷をいつものレンチで指しながら、「あそこの屋敷の中心? 裏庭? その辺の時空が妙なくんにゃらがりかたをしている」


 ナオは訊き返した。「くんにゃ……なんですって?」


 ここは、先ほど彼女がいたのとほとんど同じ場所で、時間は4~5時間ほど前。仔豚はまだおらず、屋敷のまわりのトラやライオンやアメリカヘラジカなども未だ姿を見せてはいなかった。


「“くんにゃらがり”ね」ミスターは答えた。腰の四次元ポーチを探りつつ、「地球言語に丁度いいのがないんだけど、“タイミー・ワイミー”とか“不定的時間的的”とかなら分かるかい?」


 が、もちろんそんなSFオタク的フレーズを出されてもナオにはまったく分からない。更に不思議な顔をしているとミスター、


「要は――」と続けてポーチから双眼鏡を取り出し、屋敷の中を覗き始める、「僕らが使っているジャンプ用のポータルなんだけど」


 その発生時に作られる次元振動、それによく似た波? 粒? 重力値異常? みたいなもの、


「それのより複雑なもの……が?」と首を傾げるミスター。「うーん。いくつか重なっているのかなあ……」


 と、どうやらその“くんにゃらがり”が、問題の屋敷から感じられるそうなのであるが、とここで、


「あっ!」と驚くミスター。一歩うしろに飛び退いて、「アキピテルの女神だ……」


 とどうやら、前述の女神を双眼鏡の先に認めた様子であった。



(続く)

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