85.奇跡を起こす力です
「いえ、別に世界征服を企んでいるとかではありません。
どっちかという生き残るための互助組合みたいなもので」
「生き残るって?」
「始祖が生きた時代は群雄割拠というんですか、争いが絶えなかったそうです。
少しでも油断すると攻め滅ぼされるのが当たり前で、だから有力な者が徒党を組んで戦っていたと聞いています」
「つまりレスリーの言う始祖って貴族のこと?」
「正確には現在の拠点になっている街の支配者だったみたいです。
街自体は昔からあったのですが、始祖が配下を集めて要塞都市化したと記録にあります。
それからその地方を管理している貴族の配下というか協力者として勢力を伸ばしたと」
「貴族じゃないんだ」
「違います。
あれは血統と王族との結びつきが必要なのですが、始祖は敢えて避けたみたいです。
あくまで地方の有力な勢力として貴族に雇われる形をとったと」
知らなかった。
でもなるほど。
貴族って国王が叙任するんだっけ。
アニメによれば、貴族は国王の臣下だから命令されたら否応なく従わなければならない。
命令に背いたら反逆だ。
それを嫌ったんだろうな。
「それでそのまま?」
「はい。
私の家は代々その都市の首長としてその地方を支配する貴族に従っていたらしいのですが、もちろん貴族が没落すると寝返ったりして」
「あくまで生き残りを優先させたわけね」
面白い。
名を上げて中央に出て行こうとか出世しようとかは思わなかったんだろうな。
「それってやっぱり始祖さんの指示で?」
「というよりは始祖が残した預言書のせいですね。
将来国がどうなるか判っていれば、わざわざ面倒事に巻き込まれることはないという考え方だったそうです。
勝つ方につけばいいので」
ちゃっかりしているというか。
でも生き残るためにはそれが一番なのかもしれない。
しかし不思議だ。
今のところ、レスリーの話では始祖は預言書を残しただけだ。
ミルガンテとは関係なさそう。
「話は変わるけど、レスリーの言う神力って何?」
そう、始祖が聖力で何かしたという話ではないのだ。
レスリーは少しためらってから言った。
「それについては箝口令が敷かれているのですが……レイナ様、いえレイナさんは当事者ですので構わないでしょう。
実は、始祖ご自身は神力をあまり使えなかったようです。
神力を振るったのは始祖の奥方であったと記録にあります」
ありゃ。
そうか、なるほど。
始祖さんってミルガンテの人じゃなかったわけか。
その奥さんがそうだったんだろうな。
「最初から聞きたいんだけど、そもそも神力ってどういうものなの?」
そう、それも曖昧だ。
シンが指先に炎を出した時はタイロン氏がそれだけで納得していたから、多分神力も聖力のことなのだろうけれど。
「奇跡を起こす力です」
レスリーがあっさり言った。
「あの日にシン様が指先から炎を出しましたでしょう。
あれをもっと大規模にしたものだと記録にあります」
「つまりシンはレスリーの言う神力を持っているってこと?」
「はい。
ですよね?」
問いかけられてレイナは沈黙した。
その通りです、とは言えない。
もっとも既にバレバレなんだけど。
でもシンに無断で情報を漏らすわけにはいかない。
「……それについてはちょっと」
「はい。
すみません。
でもレイナ様はもっと凄いのでしょう?」
「何で判るの?」
「そもそも私が派遣されたのはレイナ様が色々やったからだと聞いていますよ?
結構大規模に」
あれか。
都市伝説になってしまったレイナの夜間実験&訓練だ。
あんなものはどうせ戯れ言だと片付けられると思っていたけど駄目だったようだ。
レイナが黙っているとレスリーが自分の頭をコツンと叩いた。
「申し訳ありません。
言えないことを聞くってルール違反ですよね。
今日はそんなお話をするつもりじゃなくてですね、レイナ様の疑問にお答えしようと思っているんです」
「それは有り難いけど『様』は本当に止めて。
変に思われる」
「あ、すみません。
ではレイナさんでいいですか?」
「それで」




