82.ロックはそういうものだ
サリは意外というか納得というか演歌だった。
サリ以外誰一人として知らない曲だ。
「これって歌手が着物着て歌う奴よね?」
「そうとは限らんが、まあそんなもんだな」
「歌詞が古いような」
「60年くらい前からほとんど変わってないからな」
そんな曲もあるんだ。
レイナは日本文化の奥深さに戦慄した。
ナオは英語曲ばかり歌っていた。
「これは聞いたことがある」
「当然でしょう。
ビートルズだし」
「趣味はロックじゃなかった?」
「ビートルズはロックバンドだぞ?
当時は何でもロックだったからな」
演歌しか歌わないのになぜ詳しいんだサリ。
「でもいい曲よね。
歌詞の意味は判らないけど」
「ルーシーという少女がダイヤモンドを持って空中に浮かんでいるという歌詞だ」
「何それ。
狂ってない?」
「ロックはそういうものだ」
違うような気がする。
レスリーは順当というか意外というか英語曲だった。
ヲタク趣味だからてっきりアニソンだと思っていたのに。
「推しとは適切な距離を保ちたいので」
意味が判らない言い訳をされた。
「あ、これ知ってる。
山のてっぺんに登る話よね?」
リンが叫ぶがナオに否定された。
「Top of the worldは山登りの歌じゃないわよ?
ロックだし」
みんなロックなのか。
レイナには違いが判らないのだが、ロックってもっと激しくなかった?
演奏しながらギターやピアノを壊したり燃やしたりとか。
「そういうのは一部ね。
そもそもどこからどこまでがロックとか、そういう区分は無意味だから。
極端に言えばアイドル曲でも歌い方によってはロックになる。」
「そう。
ロックは生き方だ」
演歌しか歌わないくせにサリが主張した。
「私は演歌もロックだと考えている」
「そうなのかな。
私はこぶしを効かせた歌い方にあると思っていたけど」
「ヨナ抜き音階もね」
「ビブラートも」
何気にみんな詳しくない?
特にナオが。
「仕事柄ね。
お客様に付き合って演歌歌うこともあるから調べた」
プロだ。
「ま、どうでもいいんだよ。
好きな風に歌えばいい」
「でも得点が出るよね」
リンが言うとおり、歌い終わると画面に点数が出る。
ごちゃごちゃして邪魔なので消していたけどリンがあっさり復活させた。
「ここからは勝負だ!」
リンが言ってステージに立った。
曲が始まると歌いながら踊り出す。
アニメで見たことがあるけど、本当にやる人がいるんだ。
感心しながら見ているとリンは最後まで歌いきってポーズをとった。
息、弾んでない?
「どうだ!」
「78点ね」
「イマイチだな」
「結構いい点数じゃない?」
レイナが「よく判らない」と言うとナオが説明してくれた。
「歌が上手いとか下手とかじゃなくて、どれだけ歌手の歌い方に合わせられるかという評価なのよ。
減点法ね。
パーフェクトなら百点」
「上手すぎるとかえって高得点が出ない場合もあるぞ。
歌手より上手かったら減点だ」
そうなのか。
「そう!
私はオリジナルを超えた」
リンが主張するが失笑された。
「単に音程がズレていただけだろう」
「まあ、踊りながら歌いきるだけでも大したものだけど」




