57.まあ、アメコミだから
なし崩し的に始まった映画はとても面白かった。
何でも女だけの島の女王の娘が戦士になりたくて島を飛び出して活躍する話らしい。
「アマゾネスって言うんだ」
呟いたらナオが反応した。
「どこかで読んだけどアマゾーンはギリシャ神話に出てくる女性だけの種族のことだったと思う。
今の黒海地方に実在した種族で、女性の地位が高くて女戦士が普通にいたとか」
「本当にいたの?」
「もちろん超人的な能力とかはないし、女性しかいないってのも誇張だけどね。
神話に寄れば子供を産むためによそから男を攫ってきて結ばれて、生まれた子供が男だったら殺すとか追い出すとか」
ひえーっ、と叫ぶリン。
「もちろん神話だから」
「でもこの映画、そっちを下敷きにしているみたいね」
「まあ、アメコミだから」
ナオが何気に詳しかった。
「アメコミ?」
よく知らないレイナが呟くと返された。
「アメリカンコミックスといってね。
日本の漫画とはちょっと違っていて、スーパーヒーローが活躍するの。
スーパーマンとかバットマンとか」
「あ、知ってる。
確かマーベルだったっけ」
「そうね。
元々はコミックスというか漫画なんだけど、古いアメリカのヒーロー物の総称ね。
スーパーマンが代表だけど」
「古いって?」
「1938年に登場したというから、第二次大戦前。
90年近いくらい昔よ。
だから設定が古いんだけど、なぜか今になっても人気で映画化されている」
「第二次大戦って」
「ワ○ダーウーマンの設定ってもっと古いよ?
発表された時点より前の、第一次大戦が舞台だったと思う。
今から百年以上前ね。
この映画の舞台もそう」
「それで飛行機とか古くさいのか」
色々あるんだなあというのがレイナの感想だった。
知識としては知っていたけどミルガンテなんか目じゃないくらい、こっちの世界の人たちは戦争が大好きらしい。
それこそ何百年も前から数え切れないくらい戦争をやって何万人、いや何百万人も死んでいる。
そんなにどうやって殺すのかと疑問に思ったのだが、どうも軍隊という組織化された戦闘集団が殺し合うようだ。
それどころか戦士じゃない人たちも無差別に殺戮したりしている。
前に疑問に思ってシンに聞いた所、あっさり教えてくれた。
こっちの世界では聖力が存在しない分、人間ひとりでは大した戦力にはならない。
なので徒党を組んで戦うようになり、さらに殺戮の道具を発達させ、それを国単位でぶつけ合うことになってしまったという。
それが国家間の戦争で、ミルガンテにはない概念だった。
「あっちだと、普通人が何百人いようが一人の聖力持ちには敵わないからね。
国が軍隊を組織して集団で戦う意味があまりないんだと思う。
一般人がいくら集まっても聖力持ちには勝てないし、聖力持ちはそもそも群れる必要がないし」
そういうことなんだろうな。
地球では超人がいない分、数の論理が働く。
十人の集団は百人の集団に負けるし、百人は千人の集団には勝てない。
だから国単位で戦闘組織を作る。
それこそ何万人とか何十万人が徒党を組んで戦い合う。
だが画面ではワンダーウー○ンとやらが一人で戦っていた。
聖力ではないようだが謎の力で空を飛んだり電光を発射したりしている。
敵の軍隊はあっさり殺られる。
あれ、私にも出来なくない?
いや、出来るのでは。
だとすると私、ワン○ーウーマンになれるかも。
なりたくもないけど。
レイナが色々考えながら観ている内に映画が終わった。
途端にみんな話し出す。
「結構面白かったね」
「でもこれ、舞台が第一次大戦でしょ?
今はもっと苦戦すると思う」
「そうね。
ワンダー○ーマンがいくら強くても核兵器には勝てないだろうし」
核兵器?
アニメにもドラマにもあまり出てこないような。
「かくへいきってそんなに凄いの?」
何気なく聞いたら全員に凝視された。
「出た。
レイナの非常識」
「よほど箱入り娘だったとか」
「まあまあ」




