23.大丈夫なの?
アパートに帰ってからシンが話してくれたところによれば、レイナは身元不明の子女扱いになるのだそうだ。
まずは日本国籍があるかどうか調べて、ないのなら外国人ということになる。
来日外国人名簿にレイナに該当する子女がいるかどうかを調査し、その結果によって扱いが違ってくるらしい。
「面倒なのね」
「そうだね。
でも正攻法が一番早いというか確実なんだよ。
レイナは未成年だから自分の責任じゃなくて日本に来たことになる。
不法移民扱いにはなると思うけど、身元不明で原産国不明だから国外に送還するわけにもいかない。
だから普通は収容施設に入ることになるんだけど、第一発見者の僕がとりあえず身元引受人ということで世話をすることになった」
「大丈夫なの?」
「僕は何といっても日本の戸籍があって正式に学校を出て就職して税金を払っている立派な市民だからね。
こういう時は名の知れた大手企業の正社員という肩書きが役に立つ」
突然現れた身元不明の外国人の子供をどうするかについては国も自治体も困ることなのだそうだ。
だから自分から世話をしたいと言い出したシンに押しつけるらしい。
「これからどうなるの?」
「僕もよく知らないけど、多分書類があっちこっちの役所を回って連絡が来るのは半年くらい先なんじゃないかなあ。
もちろんその前に民生委員とかが様子を見に来ると思うけど」
シンはのほほんとしているが、大丈夫なの?
そんなレイナの心配をよそに1週間くらい後に太ったおばさんが訪ねて来た。
この地区の民生委員で、役所からの要請でレイナの現状を確認しに来たということだった。
あらかじめ連絡があったためにシンは会社を休んで応対した。
近所のファミレスで向かい会う。
レイナはびくびくしていたが、おばさんはレイナの正体や日本語が話せるかどうかはあまり興味がないらしくて、一通りレイナの生活状況を確認した後は世間話というか本人の好奇心まっしぐらだった。
「……はい、これで完了です。
レイナさんが虐待や搾取などされていないことは了解しました。
明智さんは今後もレイナさんを保護していただけるということでよろしいでしょうか?」
「はい。
乗りかかった船ですので」
「判りました。
ご負担が大きいとは思いますが、申請していただければできる限りの支援はさせて頂きます」
事務的に言って何か書類に書き込み、バインダーに仕舞うと途端に身を乗り出してくる。
「それでレイナちゃん、明智さんとはどこまで行ってるの?」
「どこまで、ですか?
一番とおいところは、ええともーるというお店で」
シンが吹き出す。
おばさんはつかの間空中を見上げてから両手の平を広げた。
「はいはい判りました。
どっちみちまともな応えは期待してなかったし」
「淫行条例に違反するようなことはしてませんよ」
シンもあはは、と笑いながら返す。
「その点は信用していますが、世間の目は違いますからね。
出来ればこのような場所で一緒に暮らすのは避けられた方が」
もちろんシンのアパートも調べられていた。
「はい。
近く引っ越しする予定です」
そうなの?
レイナは必死で覚えた日本語会話能力でできる限り会話についていく。
「それでは一月後に」
「よろしくお願いします」
おばさんが去った後、聞いてみた。
「あの。
お引っ越しって」
「ああ、うん。
さすがに六畳にキッチンの1DKでレイナと同居はきつくなってきたからね。
そろそろ僕もベッドで寝たいし」
「……ごめんなさい」
「本当は転居してから手続きしたかったんだけど、事前に引っ越すと色々と誤解されそうで。
でもこれで役所も判ってくれるから」
シンは色々と考えているようだった。
だがレイナはおばさんが言った事が引っかかっていた。
「シン。
ひょっとして私を養うのってお金がかかるんじゃ」
「ああ、それはそうだけど。
貯金もあるし、僕の給料はそんなに安くないから。
一時的にレイナ一人くらいを養うくらいは平気だ。
それにそろそろ金策も始めたいと」
シンの顔が黒かった。
聖力なしでも判る。
何か企んでいる?




