17.これ、美味しい!
シンのアパートに帰るとすぐにお風呂に入る。
前回はシャワーだけだったけど、シンが言うにはこっちの世界というか国では湯船にお湯を張って全身で浸かるのが一般的だそうだ。
そんな贅沢を庶民に至るまでが享受出来ているとは、やはりこの国はミルガンテとは段違いに豊かなのだろう。
湯船は狭かったが全身浴は至福だった。
シンにあらかじめ言われてなければ気持ちよさの余りに寝てしまうところだった。
石鹸やシャンプーとやらも凄かった。
もうミルガンテの暮らしには戻れそうにもない。
戻れないし、戻りたくないけど。
お風呂から上がって大きなタオルで全身を拭き、買ったばかりのパジャマというゆったりした服を来て浴室を出るとシンが食事を用意してくれていた。
昨日と違って色々な器に色々な食材が載っている。
器がペラペラの謎の材質なのは一緒だけど。
「お腹減ったでしょ。
ご自由にどうぞ」
「ありがとう」
さっそく取りかかる。
昨日と違って同じ器に色々詰まっているのではなくて、一つの器には大体同じ種類の具が入っているみたいだった。
「これ、美味しい!」
「青椒肉絲は気に入ってくれたか。
レイナは肉が好きみたいだけど野菜も食べないと」
「これも美味しい!」
「焼き餃子、暖めただけだけど」
「何これ?
こんなに美味しかったの?」
「揚げ物は大体美味いからね」
喰いまくってしまった。
はしたないとかは思わない。
聖女教育は思想面や礼儀に偏っていて、衣食住に関しては野放しだった。
どっちにしても聖女が一人になることはない。
接待や貴顕との同席もほぼない。
聖女などと持ち上げられているが、どちらかと言えば危険物に近い。
なので極力人とは接触しないように言われていた。
もっとも万一のためにテーブルマナーなどは一応、教えられている。
時として大聖殿の権威を示すための広告塔としてかり出されることがあるからだそうだ。
食べながら会話する。
「さっきの続きなんだけど。
レイナも気づいていると思うけど、こっちの世界では君は聖女じゃないし、ミルガンテの大聖殿みたいなものはあるけどレイナには無関係だ。
つまり誰もレイナの後ろ盾にはならない」
「うん」
「僕もずっと君の世話をし続ける気はない。
要するに生活費は自分で稼がないといけないということ。
ここまでは判る?」
「判る」
レイナも無知というわけではない。
大聖殿の外の世界のことは知っている。
聖女が世間知らずだと何か問題を起こす可能性があるため、そういった教育は受けている。
人が生きていくためにはお金が必要だ。
「それでさっきの女の人だけど、つまりレイナに職を世話してくれようとしたわけだ。
具体的には、そうだな」
シンは黒い板を手に取ってテレビといわれた薄い板に向けた。
すぐに映像が映った。
シンがボタンをいくつか押すと画面が切り替わり、明るい舞台が出たところで固定する。
光が交差し、その中央には着飾った女性が立っていた。
だけでなしに激しい身振り手振りをしながう歌っている。
「こういう仕事だ。
これ、当たれば結構稼げるんだよ」
「……こんなの私、出来ないよ。
踊れないし歌えないし」
「そういう訓練もしてくれるんだよ。
稼げるようになるまで鍛えて貰える」
「何で?
私の歌とか聞いた事ないはずなのに」
仕事を世話して貰えるのは有り難いが、こんなのは無理だ。
注目を集めるという点では聖女と似たところがあるかもしれないが、仕事の内容が全然違う。
というより聖女は仕事じゃない。
「レイナの外見と気品だね。
ただ坐ってるだけで回り中の注目を集めていた。
異能性は満点だ」
シンが訳の判らない事を言い出した。
聖力がバレたの?




