180.雇って下さい
レイナ自身はごく自然に食べていた。
もちろんミルガンテとは食事のマナーが違うが基本は同じだ。
聖女候補として叩き込まれた動作が自然に出てくる。
普段使っているファミレスなどでも油断すると出てしまうので、かえって気を遣うのだが。
この場ならいいだろう。
「やはりレイナ様は」
レスリーが言った。
何だよ。
「凄いよな。
どこかの王族と言われても信じるぞ」
サリも同調する。
面倒くさいなあ。
でも聖力とは関係なさそうなので手の打ちようがない。
わざと下品に食べることも出来なくはないけど無意味だ。
ナオとリンは何も言わなかった。
シンはなぜかニヤニヤしていたけど、ある意味部外者だからだろう。
どうでもいいというか。
まあ、この無駄に身に染みこんだ礼儀も英国に行ったらなにがしかの武器にはなりそうだ。
不自然だが別に重苦しくはない沈黙の中、みんなで黙々と食事をする。
大体食べ終わったところでサリが立ってインターホンで連絡すると、ワゴンを押したウェイターが数人やってきて、あっという間にお皿を下げていった。
最後に初老のウェイターが各自の前に新しいナプキンを広げてその上にカップを配膳し、ポットからコーヒーを注ぐ。
レスリーは黙っていた。
さすがにここで「私は炭酸で」とかは言い出さない。
コーヒーも飲めるのか。
ワゴンの上にお代わり用のポットを置いてから初老のウェイターが一礼して去った。
プロだなあ。
「さて」
シンが言った。
「始めようか」
リンが縮み上がっていた。
こんなことになるなんて思ってもいなかったのだろうな。
リンは後先無しに大きな事を言っては追い込まれるという悪癖があって、これまでは笑い話で済んでいたが今回はガチだ。
でも就職したいと言ったのはリンだ。
わざわざ面接して貰っているんだから本人が責任とるのは当然だ。
あ、これひょっとしたら圧迫面接という奴?
確かに豪華なステーキハウスで食事をご馳走になった直後に、しかも仲間達に囲まれて自己アピールとか鬼畜過ぎるような。
ああ、なるほど。
さすがはシン。
確かにこの程度でめげるようではついていけない。
レイナやシンの世界に踏み込むということはそういうことだ。
ナオやサリも同じ目に遭ったのかも。
ちら見すると二人とも平然としていた。
仲間になるのなら、この程度切り抜けられなくてどうするというところか。
厳しい。
まあ、ナオやサリなんか優しい方で、レスリーも含めて後は化物揃いだもんね。
「あ、あの」
リンは言ってから深く息を吸い込んだ。
そして言った。
「雇って下さい」
あれ?
リンの目が据わっていた。
これまで一度も見たことがない気迫に満ちている。
ほう。
リンもただ者じゃないということか。
「君は何が出来る?」
シンが情け容赦なく追求する。
「使い走りくらいは出来ます」
「我が社はそんな社員は求めていない」
「覚えます。
何でも」




