178.ひょっとして?
リンが目を丸くしている。
今まで「シンの会社に入る」ということの意味を本当には理解していなかったのかもしれない。
そう、なあなあではなくなるのよ。
黙ってしまったリンをよそにシンがレスリーに聞いていた。
「レスリーさんはこんな時間に連れ回されて大丈夫?」
「平気です。
一応、連絡はしてあります。
というよりはシンさんとレイナさんの関係なら朝帰りしても何も言われません」
そういえばあの漫画喫茶か何かのお店で徹夜したこともあったな。
あの時もレイナが一緒だったからお咎めなしか。
レスリーはレイナなんかよりよっぽど上手く波に乗っているのでは。
「そういえばタイロン氏たちは?」
「帰国しました。
お迎えの準備に忙しいみたいで」
何のお迎えだろう。
迎撃?
そうこうしているうちにワゴン車は格式が高そうな料理店の駐車場に入った。
広い。
それにファミレスと言うには建物が立派すぎるような。
「ここは?」
「本場のステーキのお店だよ。
個室があるし、明け方までやっているはずだから」
そんなお店があるのか。
サリが駐車場にワゴンを停めている間にみんなでゾロゾロと移動する。
入り口ではボーイ風の制服の人が出迎えてくれる。
ナオが何か言うときっちり頭を下げて案内してくれる。
広い店内には座席が並んでいたが、ボーイさんは奥に進んで個室に案内してくれた。
「こちらでございます」
「ご苦労様」
一流ホテルのようだ。
ここって。
「ひょっとして?」
「うん。
僕がお客さんと食事を兼ねて打ち合わせしたりする時に使っているお店。
セキュリティがしっかりしているからね」
やはりお仕事関係だった。
サリが追いついてきてナオと一緒に色々やっているが、レスリーはともかくリンが押し黙ったままだった。
圧倒されてるな。
レイナはミルガンテの大聖殿で王国の偉い人との会席などにも出ていたのでビビりはしなかったが、一般庶民のリンはこのクラスの店って入ったことがあるどころか存在すら知らなかったはずだ。
レスリーも平然としていた。
この女もお嬢様である以前に結構修羅場をくぐっていそうだな。
サリの誘導で各自が席につき、最後に長テーブルの端という主人席にシンが坐る。
「さて。
みんな好きなものを注文して良いから。
僕の奢りだ」
言い放つシン。
お金の事なんかどうでもいいらしい。
そんなこと言われたら、普通の女の子なら歓声を上げそうなものだが、ここにいるメンバーは誰一人としてはしゃいだりする様子はなかった。
リンは緊張したままだしそれ以外の3人は平然としている。
レイナも何とも思わない。
シンの奢りは日常だ。
メニューが配られ、サリがみんなに希望が決まったことを確認してからウェイターを呼ぶ。
やってきたのは制服を着た初老のダンディな人で、室内の様子を見ても眉一つ動かさなかった。
傍目にはどうみてもシンのハーレムなんだけど(笑)。
粒ぞろいの美女と美少女ばかりで、しかも二人は外国人だ。
レイナからみても変に思える。
こんな状況ってラノベにも出てこないわよね。
シンが主人公なのは何とか納得出来るとして、年の差カップルはともかくハーレムというのは無理がある。




