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異世界の聖女は何をする?  作者: 笛伊豆
第十三章 聖女、歴史を学ぶ

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173.別に何も言ってないけど

「ま、慌てなくて良いから。

 気長にやろうよ」

「「はい!」」

 二人とも最敬礼しかねない態度だった。

 シンって何気に凄いのかもしれない。

 それからシンが「他に聞きたいことない?」とか言ってきたけど、レイナとしてはもうお腹いっぱいだった。

 ていうか聞きたい事があったらその都度聞けばいいし。

 同じマンションに住んでいるのだ。

 むしろナオやサリの前では言いたくないことの方が多い。

 最後に思いついて、レイナは自分が自転車に乗れるようになったことを報告した。

 みんなの反応は淡泊だった。

 そんなの当たり前でしょ、というような雰囲気だ。

 いやレイナは自転車買うまで乗ったこともなかったんだけれど。

 自転車乗りの技能が誰でも出来る事だと思われているのか、それともレイナだから(聖力で)何とかしてしまったのだろうと思われてるのか。

 まあいいけど。

 それからは雑談になったがこの場所で話すこともないことばかりだった。

 なので食事会は修了。

 帰りもリムジンを使った。

 シンとレイナがホテルのエントランスで待っていると、地下駐車場からリムジンを出したナオとサリが迎えに来る。

 ホテルのボーイなどが頭を下げるのを尻目に発進。

 ここまでやるのか。

「徹底しないとね」

 このリムジンもレンタカーだそうだ。

 一日借りるだけでとんでもない金額が飛んでいく。

 レイナもコンビニを利用したりするので現代日本の経済価値については学んだから判るけど暴利だ。

「そういう部分を含めて価値(ステータス)なんだよ。

 向こうの組織の目にはそう映るはずだし」

「監視してなかったらどうするの?」

「別に。

 たまにはこういう贅沢もいいでしょ」

 シンもいい加減金銭感覚がぶっ壊れているみたい。

 ナンバーズで荒稼ぎして、更に投資が上手くいったことで箍がはずれたのかも。

 つい非難の目付きになってしまったのかシンが慌てて言い訳をした。

「だってお金の使い道がないんだよ。

 僕は根っ子が庶民だから別荘とかヨットとか別に欲しくないし」

「別に何も言ってないけど」

「レイナこそ清貧なんじゃないの?

 もっと贅沢したら」

「いらない」

 レイナも同じだった。

 まだ根っ子がミルガンテの聖女候補なのだろう。

 あそこは全体が清貧だったからなあ。

 シンも思い当たったのか情けない表情になった。

「僕ら、駄目だね」

「そうね」

 お金持ちにはなれても心は貧乏人とか。

 というよりはレイナの場合、やりたいことは何でも聖力で出来てしまうために物質的な欲が乏しいのかもしれない。

 強いて言えばコミックやアニメは欲しいが紙媒体やDVDで手元に置きたいという欲は無い。

 レンタルで十分。

 それに今のところはご飯が美味しいから、それだけで物欲がほとんど満たされてしまっている。

 つまらない女である。

「レイナも僕もそれでいいんじゃないかな。

 下手に何か目標とか欲とか持ったら悲惨な事になりそうだし」

「それもそうね」

 ナオとサリがいるから言えないが、シンとレイナが本気になったら多分、世界征服は無理でも歴史を変えるくらいは可能だ。

 ていうか既に変えているし。

 ひょっとしたら文明自体をパラダイムシフトさせてしまえるかも。

 その結果としてコンビニやファミレス、漫画喫茶が消えたりしたらレイナには耐えられない。

「現状維持ね」

「そうだね」

 アニメや特撮に出てくる正義の味方も多分、レイナと同じ考えなんじゃないだろうか。

 人助けというよりは自分にとって快適な環境を守りたいだけで。

 正義の味方でもやろうか。

 シンはやって欲しく無いだろうけど。

 レイナと違ってシンは策謀で何とかするタイプだから、本気でやったら下手するとゼーレになってしまうかもしれない。

 レイナみたいに直接的な暴力で解決する方がむしろ被害は少ない気がする。

 いや、やりたいわけじゃないけど。

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