149.あれは特殊なケースなの!
「リンも辞めればいい」
「そしたらあたし、プーじゃんか。
小学校中退の」
「中学の卒業証書は貰えると聞いたけど」
どこかで読んだが、完全不登校なのに中学を卒業したことにされた人もいるらしい。
学校側としても除籍にするわけにもいかないし、かといっていつまでも在籍されたら困るから。
義務教育なので退学という制度はない。
せいぜいが停学で、長引いたら「修了した」ということで追い出すとか。
「それでも中卒だよ!
どうすればいいってのよ」
「ナオは中卒だけど稼いでいるみたい」
「あれは特殊なケースなの!
凡人に真似出来ることじゃないから!」
「リンさん静かにして下さい」
丹下先生の叱責が飛んでリンが黙った。
やれやれ。
しかし、確かにどうするのか。
リンもそろそろ「修了」を薦められているらしい。
実際問題として現状のリンが夜間中学にいる理由はない。
そもそも中学校の授業はほぼ受けていないし、科目ごととは言え高認に受かっている以上、既に中学の過程は修了したと言える。
申請すれば卒業証書は貰えそうだ。
それにリンを含めたレイナたちのグループはどうみても異端だ。
夜間中学の生徒の概念から大きく外れている。
それでもナオたちと固まっていた頃はグループと見なされていたが、もはやそれもない。
来年からはレイナもいないし、レスリーも当然消えるだろうからリンだけになってしまう。
リンを見ると暗い顔をしていた。
休み時間に話してみた。
「別に夜間中学に拘っているわけではないんでしょう?」
「それはそうだけど。
今更高校には行きたくないし」
「前にコミックで読んだんだけどフリースクールとかは?
不登校とかの生徒が行くって」
リンは大きくため息をついた。
「夜間中学に入る前に検討はしてみたんだけど。
フリーといっても普通の高校なんだよ。
つまり高校の教育過程がある」
「ああ」
「当時のあたしじゃついていけなかった。
今なら何とかなりそうだけど、もう18歳だからなあ。
高認受かりかけているし。
これから3年間も高校に行く理由がない」
確かに。
「じゃあ浪人すれば」
昔のコミックで読んだことがある。
行きたい大学に入るために高校を卒業しても進学せずに予備校に行ったり自宅学習するとか。
「親が許してくれないよ。
何やっても良いけど責任は自分で取れと言われている」
結構厳しい。
「大学には行かせて貰えるのに?」
「そういうちゃんとした理由があればいいみたい。
学校にも行かずにフラフラしているくらいなら働けと言われそう」
まあ、それもまた一つの教育方針ではあるのかな。
甘やかされている自覚があるレイナは何も言えなくなった。
休み時間が終わり、授業に戻ってもリンは暗いままだった。
可哀想だがレイナにはどうしようもない。
と思っていたのだが。
放課後に自宅に戻ってアニメを観ているとシンから電話がかかってきた。
「はい?」
『レイナ、今暇?』
「暇だけど」
『ちょっと来てくれない?』
「了解」
こんな夜中に珍しいと思ったが、よく考えたら今シンはタイロン氏の組織と会談とかしているんだった。
電話では話せないくらいの話があるのか。




