144.英国に戻ったの?
本人はあまり気にしていないようだった。
使いっ走りに徹しているというか、むしろ自分のヲタク活動のための雑用と割切っているのかもしれない。
まあいいか。
レイナの役目はもう終わった。
あの威圧に耐えられる人はそうはいない。
自分ではそれほどとは思っていなかったのだが、前にシンと話したところによれば凄く怖いそうだ。
聖力持ちのシンですからそうなのだから一般人は普通、耐えられないと。
「でも聖力があれば対抗出来るんじゃ」
「逆に言えば聖力なしの相手には無双だよ。
タイロン氏の組織の始祖とやらもそれで周りを制圧したんじゃないかな」
そうか。
征服するために殺して回る必要は必ずしもない。
威圧して服従させてしまえばいいと。
つくづく規格外というか、聖力使いは無敵だ。
性格がアレだったらまさしく災厄ね。
幸いにしてレイナは慎重で臆病なので、そっちの方向には走りそうにもないが。
だがもし迫害されたりしたら判らない。
そうならないことを祈ろう。
それからレイナはレスリーと無駄話をして過ごした。
タイロン氏の組織についてはレスリーは何も知らないことが判った。
というよりはレスリーの場合、自分がその組織に所属しているという意識すら曖昧だった。
「家業みたいなものですから。
一族といっても関係ない仕事している人もたくさんいますし、普通に会社勤めの人がほとんどです」
「会社なの?」
「というよりは企業複合体ですね。
コングロマリットというほどではないですが」
悪の組織が表向きは大企業なことはよくある。
漫画やライトノベルでは定番だ。
「私のところは別に悪の組織じゃないですよ?
関係ない人を攫ってきて改造したりはしません」
「その他にもあるでしょ。
武器商人とか裏の武装組織とか」
「グループに警備会社はありますね。
裏があるかどうかは何とも。
それと武器商人というか、軍事車両や製品の製造会社もあったはずです」
もちろん合法ですよと念を押してくるレスリー。
やっぱりあるらしい。
まあいいけど。
ミルガンテなら裏というよりは堂々と表舞台で活動していたからなあ。
対抗勢力を叩き潰すのに躊躇などしてなかったような。
それに比べれば表向きは穏やかなんだからまたマシかも。
「あなたの組織のことはもういい。
それより聞きたいことがある」
「何なりと」
レスリーの私的な活動についてはほとんど知らないのでこの機会に聞きたいと言ったら嬉々として語り尽くされた。
レスリーは元々はアニメ好きな普通の少女だったので、幼少期に○ーラームーンなどにハマってはいたもののヲタクというほどではなかった。
だが親が仕事で数年間日本に赴任して、まだ幼くて本国の寄宿舎に入れなかったレスリーは一緒に日本で暮らすことになったそうだ。
最初はアメリカンスクールに入れられたが、幼いだけに順応が早かったレスリーは途中で日本の小学校に通うことになった。
日本語もすぐに覚えたというか、むしろ母国語が怪しくなってしまったくらいで。
まあいいやと楽しく学校に通っていたら日本のカワイイ文化にハマった。
「同級生の女の子たちがみんなキャラ入りの筆箱やペンダントなどを持っているんです。
泣きわめいて親に買って貰って」
レスリーの親もよく判っていなかったらしく、言われるままに買い与えてくれたらしい。
白人なのに日本語ペラペラのレスリーは容姿が容姿だけにモテモテで、ライトノベルのヒロインを地でやれた。
仲間内で魔法少女ごっこなどをやる場合は当然メインヒロインだ。
劇でもいつも主役。
そのままいけば性格が歪むところだが、幸い? にして数年で親がまた転勤。
レスリーは泣いて嫌がったが日本を離れることになってしまった。
「英国に戻ったの?」
「いえ。
シンガポールとかフィリピンとかを転々と。
そういうところでも小さな女の子たちは日本のカワイイ文化に夢中で。
私は伝道師となって」
日本に住んでいたというだけで人気者になったのだが、現地を知っている上に伝手でカワイイ商品を取り寄せも出来るということで、どこに行ってもヒロインだったという。




