143.私は下っ端で
それはそうか。
人間は聖力使いを本能的に恐れる。
生物同士ならば対抗しようがあるが、聖力は現実を改変する。
もはや神の領域だ。
どんな勇者だろうが神に対抗出来るはずが無い。
直接レイナが何かしたわけではないが、今ので互いの立場が確定してしまった。
「こちらがレイナです」
「明智・ミルガンテ・レイナ」
それだけだ。
あらかじめシンと打ち合わせておいたのだが、こっちの情報はなるべく出さない方針で行く事になっている。
タイロン氏に促されて向こう側の二人も自己紹介したが、ボソボソと言われたのでよく聞き取れなかった。
覚える気もないからいいのだ。
「お嬢様。
こちらへ」
何か合図でもあったのか、ナオが丁寧に言った。
今回もレイナは顔見せだけか。
これから色々と大人の話をするのだろう。
素直に立ち上がるとサリがドアを開けてくれた。
貴族令嬢設定が生きている(泣)。
ナオは秘書らしくシンの後ろに留まったけどサリが案内してくれるらしい。
ドアが閉まってほっと一息つけた。
ふと気づくと気配を消したレスリーがついてきている。
レイナの視線に慌てて弁解。
「私は下っ端で」
「それはいいから」
豪華な廊下を一列になって歩く。
周囲に誰も居ないことを確認してから聞いてみた。
「サリもナオも何なのあれ」
「後でな」
サリもシンの部下モードを解除したらしくてざっくばらんだ。
まあいいか。
後ろのレスリーに聞いてみる。
「あの人たちは?」
「よく知らないのですが……それぞれの派閥の重鎮というか。
とにかく偉い人です」
何も知らない臭い。
下っ端だから情報を制限されているな。
サリの案内で着いた部屋はちょっとした応接室だった。
豪華な内装でゆったりとしたソファーが配置されている。
ドアのそばにはワゴンが用意されていてアフタヌーンティーのセットが載っていた。
「ここで待っていてくれとのことだ。
結構長くかかるかもしれん。
何もないとは思うが、何かあったら連絡してくれ」
サリが言い捨てて立ち去ろうとする。
「ちょっと待って。
まだ二人のことを聞いてない」
「終わったら教える」
言い捨てて去るサリ。
冷たい。
というよりも仕事があるのかも。
レスリーはとみるといそいそと給仕を始めていた。
ワゴンからアフタヌーンティーのセットをテーブルに移し、カップに紅茶を注いでいる。
二人分だからお相伴にあずかる気満々だ。
「こんな豪華なおやつは滅多に食べられませんので。
一緒でいいですよね?」
言い訳がましく言うレスリー。
お嬢様でも贅沢慣れしているわけではなさそうだ。
「別にいいけど」
「やった!」
このレスリー、外見はお嬢様なんだけど内部はリンと同じなのでは。
ヲタクだし。
レイナはちょっとうんざりしながら席に着いた。
レスリーも向かい側に坐り、二人で食べながらお話する。
「今日の事って何か知ってる?」
「全然です。
私もいきなりここに来いと」
「呼ばれたのなら何か役目があるんじゃ」
「レイナ様の接待役なんじゃないですか?
私は一応、レイナ様に気に入られているというか、少なくとも排除されていないから何とか使えると思われているのかと」
さようで。
まあ、確かに前にカラオケ店でナンパしてきたあのイケメンよりはレスリーの方がマシだ。
「つまりレスリーは何も知らないと?」
「はい」
いいのかそれで。




