12.あ、起きた?
それからシンはお風呂の使い方を教えてくれた。
と言っても大聖殿にある浴場をコンパクトにしたようなものだったので、レイナはすぐに慣れた。
大聖殿に似ているというよりは、転生者がこっちの世界から持ち込んだのだろう。
シンが用意してくれた着替えはレイナには大きすぎたけど寝間着としては丁度良かった。
少し硬いベッドはレイナが使う事になった。
シンは床で寝るという。
「いいの?」
「毛布とマットレスで何とかなるから心配しないで」
「ならいいけど」
ちなみに同じ部屋で寝ることについては二人とも何とも思わなかった。
シンは神官見習いとして大部屋で雑魚寝が当たり前だったし、神官に男女の区別はない。
レイナの方もお付きの人達が同じ部屋で寝ていた。
男女間の問題についても同じ。
聖力がある者同士では強制的に何かをするのは困難を極める。
特にレイナの場合、聖女見習いなので何かしようとしたら犯行側の命が危ない。
聖力はすべての力を超越するため、聖力が強い方が問答無用で強い。
だが弱い方が無抵抗というわけではない。
本気で抗えば加害側にも少なからず被害が出る。
だからこそ、聖力持ちは大聖殿に集められて厳しく管理される。
倫理的に危なかったり規則を破ったりしたらすぐさま処刑されてもおかしくない。
というよりはその疑いを持たれただけでも危ない。
そのための処置専門の部隊が組織されている。
聖力持ちといっても数の論理には従うから。
一人の超人は十人の超人には勝てないのだ。
疲れていたのか夢も見ずにぐっすり眠って起きたら見知らぬ天井だった。
一瞬、混乱したけどすぐに思い出す。
そうか、私は異世界にいるのだ。
起き上がって身体を点検してみたが問題なさそうだった。
レイナの魂はレイナの身体を完璧に再現していた。
そういえばこの身体、ミルガンテにいた時と歳も同じくらいだ。
魂って年齢まで記録しているのだろうか?
床にはシンはいなかった。
マットレスや毛布も片付けられている。
「あ、起きた?
とりあえずシャワー浴びてきなよ」
シンがひょいっと顔を出して言った。
顔がなんだか若返っているような?
昨日は草臥れた中年だったのに。
「シン、その顔」
「ああ、うん。
疲れていたからね。
一晩寝たら回復したみたい」
そんなものだろうか?
聖力で何かしたのでは。
シャワーを浴びてシンが用意してくれた服を着てみる。
やっぱりダボダボだった。
しかも下はズボンだ。
「服も買わないとね」
「自分で作れると思うけど」
「駄目駄目。
聖力の無駄遣いは禁止。
ていうか、極力使わないように。
こっちの世界には聖力なんかないんだから」
それは判る。
実はミルガンテでも聖力持ちは珍しいというよりは希少だったと聞いている。
大聖殿で育ったから周り中に当たり前に聖力持ちがいたけど、外の世界ではほんのちょっとでも聖力を使える者すら希なのだそうだ。
シンの聖力も大したことがないように見えるけど、神官見習いとして引っ張られたということは村、いや街でも突出した聖力持ちだったはずだ。
シンが用意した朝ご飯は透明な皮に包まれたパンだった。
ほんのり甘くて実に美味しい。
食事はこっちの世界の方が圧倒的に上だ。
昨日の夕食と一緒に買ってきたらしい。
後は熱いコーヒー。
意外に気が利く。
「神官見習いの世話なんかしてくれる人はいないからね。
何でも自分で出来るように訓練されたんだよ。
というよりは出来ないと自分が困るから」
朝食後、しばらくテレビとやらを観ていたら言われた。
「言葉は判らないよね?」
「うん」
「聖力で覚えられない?」
「無理だと思う。
出来るかもしれないけど、やり方が判らない」




