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異世界の聖女は何をする?  作者: 笛伊豆
第九章 聖女、悪い遊びを覚える

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131.そういう人達ばかりだったら?

「それで、レイナとしてはどうしたい?」

 ナオに聞かれて考えてみた。

 日本の常識をいかにして学ぶか。

 個々の事例よりむしろ方法論が知りたい。

 そう言ったら考え込まれた。

 さすがのナオもこんな突拍子も無い相談は難しいか。

「でもない。

 実を言えば、レイナは既にそれを実行しているんだけど」

「そうなの?」

「アニメや映画を観るってまさにそういった知識を得るためには最適な方法だと思う。

 だって、普通の日本人もわざわざ日本の常識なんか勉強しないよ?

 むしろ娯楽(エンタメ)を通じて学ぶわけで」

 ナオが言うには実は学校がその環境を提供してくれているそうだ。

 日本人は義務教育として最低9年間、公共の学校に通うことが義務づけられている。

 これは勉強するためだけではなくて、むしろ同世代の子供達と集団生活をすることで人との付き合い方や、それこそ「常識」を学ぶためだという。

「最初は誰も何も知らないのよね。

 でも友達になった人が何か言って、それが判らないと悔しいでしょう。

 だから勉強する。

 社会常識もそうやって身につくわけ」

「信長も?」

「アニメでもライトノベルでもいいけど、とにかくそういった人物が過去にいて何かやった、ということを知れば、後は仲間内の話なんかで情報を肉付けしていけばいい」

 もちろんいい加減な話や虚偽(フェイク)も混じってはいるだろうけど情報を大量に摂取するとだんだん間違ったデータは修正されていくそうだ。

「そうなんだ」

「ま、中には一方方向の話だけを信じ込んで押し通そうとする人もいるけど。

 でもそういう人は相手にされなくなるから」

 それが「常識」というものだという。

「そういう人達ばかりだったら?」

 するとナオはため息をついた。

「まさしく、それが問題なのよね。

 ある説、例えば地球が平らだと信じている人がいるとする。

 でも周りの人達はみんな賛成してくれない。

 地球や惑星は球形だと知っているから」

 地球って球形だったのか。

 平らだと思っていた。

 いや、どこかで聞いた事はあるけど自分に関係ないので忘れていた。

 密かに冷や汗を垂らすレイナをよそにナオは平然と続ける。

「その時に『自分は間違っていた』と言える人はいいんだけどね。

 中にはあくまで自分が正しいと主張する人がいて。

 そしてそういう人は同じような人と群れる」

「ああ、なるほど」

 意見が合う人と親しくなるのは当然だ。

 単なる知識じゃなくて信条だったら尚更。

「そういう集団がどんどん大きくなっていくと、その内部では『常識』が世間とは違ってくる。

 で、対立したり分断されたりする」

「なるほど」

「酷くなると国ごとそうなったりしてね。

 違う意見の国と対立して戦争したりお互いに邪魔し合ったり」

「そうなのか」

 ミルガンテでは考えられない。

 でも、それって聖力という絶対的な力があったからこそかもしれない。

 聖力を否定する人はいなかった。

 反対しても問答無用で潰されるし、そもそも現実に存在しているのだ。

 それを否定しようとしたら社会から排除されるだけだ。

 しかもミルガンテはこの世界(地球)より命が安い。

 反対されたら問答無用で消しにかかる人も多い。

 当然、大多数は易きに流れるというか付和雷同に走る。

「昔はそれほど問題ではなかったらしいんだけどね」

 ナオはコーヒーを啜りながら言った。

「変な事を言い張る人がいても、コミュニティの中でつまはじきにされるだけで済んだ。

 自分の主張を広げようがないし、同類の人との連絡も取れないから。

 でもネットとコンピュータのせいで誰でも情報を発信出来るし、どんなに離れていても話が出来るようになって」

「ああ、なるほど。

 バラバラだったのがまとまれるようになった」

「そう。

 通信網(ネット)は凄いよ。

 地球の反対側にいる人とでもリアルタイムで話せるんだから。

 同じ意見の人を集めるのも簡単」

「なるほど」

 ミルガンテでは考えられない。

 そもそも通信手段がない。

 せいぜい手紙くらいで、しかも公共郵便が存在しないから個人的に送るしかなくて、もの凄い費用がかかる。

 いや、その前に大多数の国民は文盲だ。

 連絡手段の前に自分の意見を相手に伝える手段がない。

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