128.シンにも経験あるの?
『もうひとつ理由を思いついた』
リンが自慢げに言った。
『デジタル媒体って作ってしまえばいくらでもコピー出来るんだよ。
まあサーバとか回線とかの設備投資は必要だけど、そんなものはどうせ必要経費だしね。
つまり』
「つまり?」
『いくら使われても運営側には手間も経費も発生しない』
なるほど。
そういう理屈か。
逆に言えば、お客が来なくても経費はかかり続けるわけだ。
だったらうんと安くして何でもいいから契約して貰った方がマシだ。
『ということで罠とかはないと思う。
でも一応、契約条件には気をつけてね』
「判った。
ありがとう」
『いいよ』
電話が切れる。
実にいい友達を持ったなあ私。
損得勘定や生き死にの危険なしに胸襟を開いて相談出来るなんて。
ミルガンテと比べたら天国と地獄だ。
レイナは改めていくつかのコミックサイトを比較して、とりあえずメジャーなところに加入してみた。
簡単だった。
サブスクというらしい。
スマホで読むために細長くて上下に進む漫画とか専用のタブレットじゃないと上手く表示されないものもあったが、基本的にはPCでもタブレットでもスマホでも読めるようだ。
もっともスマホは画面が小さすぎて全部表示すると吹き出しの字が潰れてしまう。
かといって拡大すると全体が見えない。
慣れるまではPCで読んだ方がいいかも。
早速、漫画喫茶? で途中まで読んだシリーズの続きを探してみたら当然、あった。
ヒット作はほぼ全部あるみたい。
それどころかマイナーなコミックや大昔の作品まで網羅している。
これは凄い。
一巻読んではっと気がついた。
これは麻薬だ。
自分で区切りを付けないと泥沼に嵌まる。
と思いつつ、とりあえずコーヒーを煎れて戸棚から買い置きのお菓子をいくつか持ってくるレイナであった。
数日後、思いついて電話したらシンが食事に招待してくれた。
もっともレストランなどに行くとレイナが目立つのでシンの自宅で手料理だ。
レイナ自身はもう慣れてしまって何とも思わないがシンが嫌がるのだ。
よく判らないが援交を疑われるということで。
「ああ、コミックサイトね」
シンはふうん、という表情で言った。
食事を終えてリビングでコーヒーを飲みながら話した反応だ。
「いいんじゃないの?
もう高認用の勉強とかする必要もないんだし」
「でも日本の地理とか歴史とか全然だから、今は『まんが日本の歴史』とか読んでる」
「ああなるほど。
ああいうの面白いよね。
試験の前の晩とかに読み始めると止まらなくなったりして」
「シンにも経験あるの?」
「あるよ。
歴史の試験じゃ無くて関係ない科目の試験日の前だともう」
そうなのか。
レイナとしては日本の過去に何の関係もないので、淡々と読み進めているだけだが。
「あ、気をつけた方がいいこともある」
シンが思いついたように言った。
「漫画って基本的にはフィクションだから。
書いてある事をそのまま信じちゃ駄目だよ」
「それは判っているけど」
歴史物のコミックなんかだと、ほぼ教科書とは違う設定やストーリーになっている。
戦国武将がみんな女の子だったりする話はさすがに嘘だと判るけど、武将を主人公にした重厚な物語はつい信じてしまいそうになるのだが。
後で調べてみたら、そんな人は存在しなかったことが判ったりする。
「メジャーな歴史上の人やイベントは教科書の方で覚えて、漫画の方はエンタメとして読むのがいいよ」
「そうする」
人や状況はデタラメでも大まかな流れや地形、国の動きなどは歴史に沿っていることが多い。
それすらデタラメだったらもう異世界だ。




