114.何でミニスカ?
幸いにしてレイナ達は大小はあれど極端に小柄とか長身とかはいないし全員が痩せ型だった。
衣装もフリーサイズなので余裕を持って作られているらしいが、それでもレスリーなどは胸の大きさとドレスのサイズが合わずに苦労していた。
身体に合わせると胸がぱっつんぱっんだし、胸が余裕で入る服はダブダブだ。
「どうしましょう」
「貴族家の侍女が服を着崩しているのは感心しないな。
身体を合わせてくれ」
その結果、何とか胸を押し込んだが、どうみても上半身がアンバランスだ。
アニメに出てくるような「ドレスを着た何か」になってしまった。
「実写でこういうのを観られるとは」
「これはこれでアリだな」
レスリー自身は苦しそうだったが喜んでもいた。
「何か新しい世界が開けそうです」
「そういえばレスリーって親にコスプレを禁止されてなかった?」
「ここはプライベートなのでいいのです」
癖にならないといいが。
ナオは家政婦ということで暗色のロングスカートドレスを着ていた。
伊達眼鏡が似合いすぎだ。
ベルトに鍵束までつけている。
「それは?」
「メイド漫画で読んだ事がある。
家政婦は女性の使用人の頂点で、すべての権限を握っていて、その特徴が鍵束なんだよ。
屋敷中のすべてのドアの鍵を持っているからどんな部屋にも入れる」
さいですか。
サリとリンはメイド服だったが、サリの方は何となく威厳を感じさせるような重厚な雰囲気だった。
長身なので迫力がある。
リンは……露骨にメイドだった。
それもアニメに出てきそうなドジメイドというか。
「何でミニスカ?」
「それしかないのよ(泣)」
比較的小柄なリンに合うメイド服は秋葉原仕様しかなかったらしい。
「これはこれで」
「まあいいけど」
そして全員の目が隅の方で気配を消していたレイナに向けられた。
「嫌」
「お嬢様。
舞踏会には王太子殿下もいらっしゃるのですよ」
サリがにこやかに微笑みながら一歩踏み出す。
「いつまでも逃げ回られるわけには参りません。
公爵家の恥になります」
何だよその設定は。
そしてレイナはよってたかって着飾らされた。
少女趣味的なドレスを着せられたら逃げてやろうと思っていたが、幸いにしてむしろ大人しめの衣装だった。
諦めてされるままに流される。
下着だけにされてからそれこそ少女漫画に出てくるような上品なドレスを着せられた。
髪は結わずに流す。
靴まで履き替えさせられた。
ハイヒールなのでちょっと背が高くなったような。
姿鏡の前に連れてこられたので観てみたら、およそレイナの趣味に合わない貴族令嬢がいた。
こんなドレス着て生活するってお嬢様は大変だな。
そんなことを思っていると不自然に周囲が静かだ。
しばらくして声が上がった。
「……すげー」
「これ、すっぴんよね?」
「ああ。
化粧なんかしてないはずなんだが……なんでここまで」
「お嬢様!
素敵でございます!」
外野が五月蠅い。
「何?」
こてんと首をかしげて聞いてみた。
「いやレイナ、それ止めろ」
「あざとい」
「お化粧、いらないわね」
「ていうかこれでお化粧してないって誰も思わないでしょ」
よく判らないが好評? らしい。
それからみんなであのお部屋に引き返して撮影にかかる。
なぜか詳しいサリがスタイリストになってみんなのポーズを決め、リンが小物を揃え、レスリーは何の役にも立たずに彷徨き回り、最後にナオが点検して撮影開始。
お嬢様が一人でお茶しているというような設定で、テーブルについたレイナに傅くメイド、お嬢様の後ろに立つ侍女、見守るメイド長、何かの書類を持って話しかけようとする家政婦といった画を撮影する。
カメラマンはレイナ以外の誰かが勤めた。
レイナはずっと坐っているだけだが、使用人達は色々な状況に合わせてポーズを変える。
「凄い凄い」
「ヤバい。
本物みたいだ」
「自動露出に設定してありますからカメラがぶれないようにだけ気をつけて下さい」
「遠景も欲しいな」
レイナ以外は全員、ノリノリだった。
レイナの誕生日のお祝いだったはずなのに(泣)。




