112.それはね!
いつの間にか殺伐とした話になっていたので方向転換する。
そもそもはレイナの誕生日パーティの話だったはずだ。
「色々考えたんだけど」
リンが躊躇いがちに言った。
「プレゼント何にしようかと。
レイナって何でも買えるし、物欲ってなさそうだし」
「確かに」
「ていうかレイナなら欲しいと思ったら何でもサクッと手に入れるだろ。
物でもそれ以外でも」
そういう風に思われていたのか。
それはそうか。
レイナは未だに働いてお金を稼いだことがない。
ナンバーズとやらの数字合わせは働いたとは言えないだろう。
シンがお金をいくらでもくれるので必要性を感じないこともあるが、むしろバイトでもしたら知らない人と関わって弾みで何かを粉砕しそうで怖い。
それ以前にレイナは自覚しているが結構不器用だ。
おっちょこちょこいでもある。
これまで無事だったのはミルガンテの大聖殿で身につけた慎重さのせいだ。
あっちではちょっとした失敗が死に直結するので嫌でも慎重になる。
その癖が染みついてしまっている。
レイナが黄昏れている間にも話は進んでいた。
「それでみんなで相談して決めたんだけど、レイナが思いつきもしないし一人では出来ないことをしようかと」
「正直、私はどうかと思うのだけれど」
ナオが苦笑した。
「でもレイナって普通に遊ぶのは嫌いじゃなさそうだから。
遊園地行った時も楽しそうだったし」
「というわけで、是非我々のプレゼントを受け取って欲しい。
これは強要だ」
サリがニヤニヤしながら言った。
拙い。
これは断れない。
というよりはレイナにも興味があった。
確かに遊ぶことは好きだしみんなと一緒に何かやるのは楽しい。
レイナ一人ではそこら辺を彷徨いて終わるだけだ。
「うん、わかった。
それで何?」
「それはね!」
リンの満面の微笑みを観てレイナは失敗を悟った。
だが女に二言はない。
やるしかない。
というわけで連れてこられたのは不思議な店だった。
いや施設というべきか。
「午後いっぱい借りてるからゆっくり使えるぞ」
サリに言われて入ってみたら、そこは豪華な部屋だった。
というよりはカワイイ?
いや、むしろ華美?
「ここって?」
「撮影スタジオよ。
コスプレイヤー専門の。
衣装の貸し出しもしてくれるから」
ナオが説明してくれたところによれば、こういったヲタク向けの施設が色々あるのだそうだ。
ただ施設を貸し出しているだけの所から撮影用の設備・機材や衣装まで揃えている所まで千差万別で。
コスプレはレイナも知っている。
それをテーマにしたアニメも観ているし、何なら撮影スタジオなるものが存在することは判っていたのだが。
「凄い」
想像以上だ。
ナオたちが借りたのは豪華かつカワイイ系の部屋で、少女漫画に出てきそうな内装だった。
それも学園物じゃなくて貴族のお嬢様が住んでいるような。
更に言えば少女趣味というか、どこもかしこも明るい原色だ。
ベッドやソファーまである。
いたるところにレース編みの何だかよく判らない装飾品が置いてあるしカーテンはピンクだ。
「これは凄いです!」
レスリーが興奮していた。
「さすがはヲタクの聖地。
このような設備があって簡単に借りられるなんて」
「ここは本格的なコスプレマニア向けだからな。
本業も使っているらしいぞ」
サリが苦笑した。
「普通のコスプレ用施設だと、施設自体はそれほど凝ってないんだが。
ここは本格的に世界観を実写化している。
例えばこの部屋は貴族令嬢の私室という設定だ」
やっぱり。




