94.遠大な計画ね
でもまだ判らないというか納得出来ない。
引きこもっていても問題なさそうだし、人と接するのが苦手だったら通信教育とかでもいいのでは。
「通信教育では無理だと思った。
親にも言われているんだけど、何してもいいけど自分で生きていけと」
「それは当然です。
親のすねかじりには限界があります」
レスリーがくそ真面目に言った。
「レスリーも独立するの?」
「もうお仕事しています」
あ、なるほど。
レスリーの場合、実家だか組織だかの命令でレイナの監視のためにわざわざ日本に来て夜間中学に通っているんだった。
立派なお仕事ね。
バイトかもしれないけど。
「レスリーは将来どうするの?」
聞いてみた。
「まだ判りませんが、実家のお仕事を手伝うことから始めようかと。
というよりはもう始めています」
就職活動、いやむしろインターンというところか。
みんな凄い。
「私のことはいいんです。
リン。
さあさあ」
こっそり逃げようとしていたリンががっくりと膝を突いた。
「判ったわよ。
その、私もお金を儲けようと思って。
そのためには社会を知らないといけないでしょ。
だからとりあえず夜間中学で」
それで一見陽キャに見えたのか。
リンなりにリハビリしていたらしい。
「お金を?
どうやって?」
レスリー、情け容赦がない。
「ええと、ずっとゲームやってきて備蓄がそこそこ貯まっているんだよね。
武器とかポーションとか」
「ああ、そういう」
「うん。
本当は禁止されているんだけどゲームの中でモノの売り買いが結構当たり前で。
課金すればゲット出来る武器なんか、安く売れば需要はある」
「そうなの?」
ゲームについてはまったく知らないレイナが聞いたらレスリーが頷いた。
「まあ、そうですね。
私も詳しくないんですが、ゲーム内で武具や回復薬などの譲渡は可能です。
現実で金銭のやりとりすれば」
「なるほど」
「そうなんだよ。
でも現金受渡しって無理でしょ。
リアルで会いたくないし。
銀行口座とかポイントとかになるんだけど、そのためにはまず自分が現実で立場を得ないと」
どういうこと? と聞こうとしたら教えてくれた。
「ネットで何かするためにはまず身分証明が必要です。
遊ぶくらいは匿名でも出来ますが。
国際的なゲームに参加しようとしたら運営からしっかりとした身元保証を要求されます。
未成年はかなり制限されますし、金銭のやりとりは難しいですね」
「そうなんだ」
「出来なくもありませんが非合法な部分もあるので」
「だから私も一応、世間的に認められるような立場を作りたくてさ。
引きこもりのスネかじりじゃなくて」
リンが言うにはとりあえず自分の銀行口座が欲しいのだそうだ。
そのためにはリアルで銀行に行って手続きをする必要がある。
ネットで作れなくもないけど、やはり身元保証をしなければならないし、そうやって作った口座ではあまり大金を動かせない。
「色々考えて、とりあえず高校出くらいの学歴は欲しいかなと。
高認とっても別に高校を卒業したことにはならないんだけどね」
それでも何とかして大学に入れれば、それ自体が身元保証になる。
年齢も18歳過ぎていたら成人扱いになるし、堂々と銀行口座を作れる。
「遠大な計画ね」
「ううっ。
確かに」
「高認で躓いていたらいつになるか判りませんね」
レスリーが情け容赦なく刺した。
「いいもん。
私はマイペースでやるんだ」
リンはキリッとした表情を作って去った。
「あまり虐めないの」
「リンは大丈夫ですよ。
見かけより強いです」
そうなのか。
「ああいうキャラはアニメではへこたれません」
いやレスリー、アニメとリアルは違うと思うけど。
まあいいか。




