第60話 ヒーローと殴り合うことになりました 2
「知らなかったのか? 巨大化は負けフラグらしいぜ?」
『貴様ァ! 栄えある赤の名を勇者様から賜った【レッド・ライザー】である僕と【ゴッド・ティラノオー】を愚弄するのか!?』
ゴッド・ティラノオーと名付けられたあれの耳は随分と良いらしい。
赤い恐竜型の巨大メカは憤怒の咆哮を上げながら、俺を噛み砕こうとその大きな口を開く。
(『氷結魔法』)
それに対して俺は『氷結魔法』で氷の柱を生成すると、それでゴッド・ティラノオーとやらの口を閉じられないようにした。
『そんなの意味ねぇよ!?』
赤い恐竜型メカは口内から灼熱の炎を放射し、氷の柱を溶かして俺を文字通り灰にしようとさらに熱を上げる。
だったら。
『ぐおっ!?』
俺は別に氷のソードメイスを生成すると、それを恐竜型メカの下顎に目掛けて勢いよく振り上げた。
恐竜型メカの頭部はその衝撃で上を向き、それと同時に未だ燃え尽きることなく残っていた氷の柱が口内の火炎放射装置に向かって落下し、それを破壊する。
『しまっ――』
そして幸運なことに、あの氷の柱は恐竜型メカの触れられるとまずい場所に落下してくれたらしい。
【ギャオオオオオオォォォ!!?】
恐竜型メカの深紅の装甲の隙間から火花が噴き出て、稲妻が内部のパーツを引きちぎりながら外へと放出される。
そして断末魔のような咆哮を上げて、恐竜型メカの頭部は木っ端微塵に吹き飛ぶ。
「へえ、そこで操縦をしていたのか」
『クソっ!』
フライボードを操作して恐竜型メカへ近づくと、頭部が無くなり丸見えとなった胴体で操縦桿を握る赤いヒーロースーツの姿がうっすら見える。
深さは……、10メートルちょっとか。
これなら少し力を込めて突っ込んだら引きずり出せそうだが。
『頭が潰されたくらいでえええ!!?』
「うおっと」
赤いヒーロースーツは操縦桿を乱暴に動かして俺を恐竜型メカから振り落とそうとする。
(ちっ、仕方ない)
俺は再びフライボードに飛び移ると、その直後に恐竜型メカの翼に備え付けられていたビーム砲が自分のいた場所を焦がす。
『うおおおおおお!!!』
恐竜型メカはもう暴走していると断言できる状態だった。
その両腕や両足、そして両翼のビーム砲や小型ミサイルを四方八方に乱射しながら俺を墜とそうとしてくる。
さて、どうしたものか。
このまま消耗戦に持ち込むのも無くは無いが、外でこうドンパチしていたら基地内からさらに援軍が駆けつけてくるかもしれない。
それにあの恐竜型メカのエネルギーが無尽蔵で、弾薬もテレポートで自動的に補充されている可能性もある。
「……あれこれ考えていても意味ないか」
俺は盾代わり用にとスキル『氷結魔法』でフライボードを複数生成し、それを前方に配置すると、一気に恐竜型メカの懐へと入り込んだ。
「っ、結構持ってかれたな……」
流石と言うべきか、恐竜型メカの砲撃は全く的を絞らず手当たり次第に撃っているだけなのに、フライボードの盾をいくつも破壊された。
だがこれでこの暴れん坊を黙らせる手筈は整ったはずだ。
「『水魔法』!」
俺はスキル『水魔法』を発動してスライム状の液体を恐竜型メカの脚部に鞭のように巻き付ける。
「……ふぅ、とりあえずうまく巻けたな」
さらに『風魔法』を発動させて回転力を得ると、スライムの鞭を力の限り振り回す。
やがて恐竜型メカはビュンビュン音を立てながら回転速度を上げていき、ビーム砲やミサイルの発射も途切れるようになる。
『や、やめ―――』
「おっらあああああああああっ!!」
そして俺はなるべくあのスライム部屋のちょうど真上に衝突するよう調整しながら、恐竜型メカに巻き付けられたスライムの鞭を手放す。
恐竜型メカは空中要塞に激突し、鉄と鉄とがぶつかり擦れ合う音を立てながら落下していく。
『ひっ、ひいいいい!!?』
さっきまでの勇ましい威勢は何処へ行ったのか。レッド・ライザーと名乗った赤いヒーロースーツの情けない悲鳴が聞こえてきた。
「安心しろよ。落としたりなんかしないからさ」
俺はスライム部屋のスライムを操作して恐竜型メカが部屋の壁になるように調整しつつ、がっしり受け止める。
そして再び恐竜型メカの頭部のあった場所から胴体のコックピットを覗き込むと、そこには気絶しているように見える赤いヒーロースーツの姿があった。
「……増援が出る気配はないか」
ならここいらが潮時だろう。
俺は赤いヒーロースーツを恐竜型メカから引きずり出すと、あのスライム部屋で気絶、あるいは拘束されている他の4人のヒーロースーツを『空間転移魔法』でセーフハウス6号へと転移させる。
そして最後に半壊状態の恐竜型メカ――【ゴッド・ティラノオー】とやらをアイテムボックスに収納すると、空中要塞から脱出した。
◇◇◇
「おかえり。随分と派手にやらかしてきたようね」
セーフハウス6号に入ると、アリシアはボロボロな状態でスライムに拘束されたヒーロースーツを見ながら俺にそう言ってくる。
「……まあ、ちょっとやり過ぎたかなとは思ってる。そういや上で色々爆発させてたけど地上で何が騒ぎとか起こらなかったか?」
「安心なさい。外はずっと雨が降ってたから上で起きてることに気づいた人はいないでしょうね」
「ほ、それはよかった」
高度20000メートル、雲よりもさらに上の場所でドンパチしていたから気づかなかったが、どうやら雨雲が空での戦闘を上手く隠してくれたらしい。
「それにしても爆発って、あんた何してたのよ……」
「おいおい話すよ。で、こいつらは気絶してるのか?」
「さあ、どうでしょうね。この摩訶不思議なスーツでも耐えられないほどのダメージを受けて意識か命のどちらかを刈り取られてるか、死んだフリをして油断するよう仕向けて私たちの首を狙おうとしてるのかはこのスーツを脱がさないことには」
言われて俺はアリシアがヒーロースーツから距離を取りつつ即座に窓の外へ脱出できる位置に陣取っていることに気づく。
(ならとりあえず直接手を触れずにヘルメットを脱がすとするか)
俺はピンク色のヒーロースーツ、『ローズ・ピンクバロネス』を拘束しているスライムを操作してヘルメットを脱がそうと試みる。
(……ここ、外せるのか?)
全てのヒーロースーツに共通して備え付けられている側面のアンテナのような部位、それを外すと中には小さなボタンのようなものがあった。
試しにそれを押してみると、スーツが半透明になり着用者の姿が露になる。
「うおっ!?」
「あらあら」
あのピンク色のヒーロースーツを着ていた者の正体、それは明らかに俺よりも年下で意識を失っている女の子だった。
しかもその服装は殆ど下着と言っていいもので正直視線に困る。
「ねえ。この子、見覚えがない?」
「見覚え?」
アリシアにそう言われて俺はなるべく体を見ないように心がけながら女の子の顔を見た。
「あっ」
「気づいた?」
「あ、ああ」
困惑を隠せないままそう答えると、俺は改めて女の子の顔を見る。
気絶しているので印象は異なるが、確かに見覚えがあった。
目の前のこの女の子はアリシアに最初に見せられた 動画で助けられていたあの女の子だったのだ。




