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第102話 文化祭の準備が始まりました 5

「アリシア、今大丈夫か?」

「大丈夫だけど、何か問題でも発生した?」

「あー、確かに問題ではあるけど……。とりあえずビデオ通話にして見せるわ」


 俺は吐き散らされる毒や電撃を『身体強化』を使って躱しながら、スマホのビデオ通話機能でそいつの姿をアリシアに見せる。


「―――は?」

「こいつが例の大蛇の正体、多分というか間違いなくUMAのモンゴリアン・デスワームだな。異能か何かで突然日本に連れてこられてパニックになっているらしい」

「いや、待って……。それ貴方が作った人形とかじゃないわよね?」

「マジのガチでUMAだよ。大蛇でもなければ妖怪でもない。っと、そろそろキツいからビデオ機能を切るぞ」


 そういってスマホを操作しながら地面を跳躍した瞬間、俺がいた場所に生えていた花は巨大UMAが吐いた紫色の毒の粘液によって一瞬で枯れてしまう。


「俺はこいつをどうしたらいい? このまま倒しちゃってもいいのか?」

「……待って、わたしの部下からも報告が入った。ええ、倒して構わないわ。その大きさの生物を閉じ込めておく檻は残念ながらすぐには調達できないからね」

「わかった。ならさっさと片付けるよ」

「それとわたしもすぐにそっちに向かうから倒してもすぐには帰らないで」

「はいよ、それじゃ切るぞ」


 そう言ってスマホの通話ボタンを切りズボンのポケットに押し込むと、俺は目の前の敵に視線を移す。


『―――――!!』

「っと、あっぶねえ……」


 声ともいえない音を上げて威嚇しながら、その口から毒と電撃を放つことで地上に逃げ場を失くし、空中に跳び跳ねたら巨体を利用した叩きつけを行う。

 これまでの攻防で大体の奴の行動パターンは把握できた。

 最大の問題はやはりあの毒と電撃を混ぜた遠距離攻撃だな。あれを使っての着地狩りが一番鬱陶しい。

 となるとまず真っ先に対処すべきはあの気持ち悪い口だな。


『―――――!!』


 巨大UMAは再びその口から電撃と毒の粘液を吐き出してきた。

 俺はそれを後ろに軽く跳ねて躱すと、『氷結魔法』を発動して限りなく細く堅く長い糸を生成し、それを巨大UMAの頭部近くの胴体に巻き付くよう投擲する。

 さらに『身体強化』をかけて巨大UMAの真下を潜り抜けると、今度は限りなく固く重い巨大な氷塊を生成し、それに先ほどの糸を括り付けた。


『――――!!』


 どのような方法で周囲の状況を把握しているのかは知らないが、巨大UMAは敵を取り逃がしたことを知覚したらしい。

 奴はその巨大な口を俺の方へ向け、再び電撃と毒の粘液を吐き付けてきた。

 対して俺はさっきと全く同じように攻撃を躱し、氷の糸を作り、それを胴体に巻き付け、新たに生成した巨大な氷の塊に括り付ける、といった行動を作業感覚で行う。


『―――!? ――――!!』


 それを何度か繰り返している内にモンゴリアン・デスワームの頭部付近は食い込んだ糸で血や粘液が垂れ流しになるほどぎゅうぎゅうに締め付けられた状態となる。


(さあて、仕上げに入るとするか)


 俺は氷の糸と塊を『氷結魔法』でさらにコーティングし、その強度を高めていく。

 同時に巨大UMAはその気色の悪い歯並びの口からも毒の粘液と血が混ざった体液を吐き出し――。


『―――――!!?』


 やがてその頭部はサイコロステーキのようにバラバラになり、体液が纏わりついた赤い肉片となって地面に散乱する。

 残るは断面から体内構造を覗かせている胴体だけだ。

 

 再び氷結魔法を発動させ、一般的な一軒家と同じサイズの氷のハンマーを生成すると、俺はそれを『身体強化』を発動しながら掴み取り、大きく振り上げた。


「これで、おしまいだあああ!」


 そして俺がそう叫びながら氷のハンマーを振り下ろすと、モンゴリアン・デスワームはその胴体の半分は地面のシミとなり一切身動きしなくなる。


「……死んだ、よな?」


 化け物に『鑑定』を行い完全に死んでいることを確認した俺は、安堵のため息をついた。


『討伐経験値の総量が必要値に到達しました。レベルアップが行われます』


 と、レベルアップしたことを告げる声が脳内に鳴り響き、肉体の疲労やMP消耗による目眩などが綺麗さっぱり吹っ飛んでいく。


(……この声を聞くのも久しぶりだな)


 そんなことを考えながら俺はさっそく脳内で『ステータス』と念じる。


―――


伊織修 Lv122 人間

称号【名を冠する者を撃破せし者】

HP37000/37000

MP990/990

SP690

STR210

VIT195

DEX180

AGI210

INT180


エクストラスキル スキル貸与

スキル 鑑定 万能翻訳 空間転移魔法  認識阻害魔法 アイテムボックス 氷結魔法 治癒魔法 風魔法 水魔法 追跡・探知魔法  

身体強化 身体強化(中) ディスペル マジックカウンター 感覚共有

設計 鍛冶技巧


―――


 前のステータスと比較するとMPとSTR、それからAGIが一気に伸びたな。

 さっきの声は『討伐経験値の総量が必要値に達した』とか言っていたが、もしかして対してきた相手によってレベルアップで上昇するステータスが変化したりするのか?

 いや考察は帰って落ち着いた後にしよう。

 今はレベルが上がったことを純粋に喜ぼう。


(スキルポイントも結構貯まってきたし、ここらで全く新しいスキルを習得してみるのもありか?)


 そう考えた俺はスキル一覧を表示すると、商品カタログを見るようにスキルを見ながらアリシアの到着を待つことにした。



◇◇◇



 巨大UMAを討伐してから約30分後。

 スキルカタログを見るのにも飽きて血を吸いにくる蚊を『水魔法』でピンポイント狙撃していると大型のヘリコプターが広場に着陸する。

 そしてヘリコプターのローターが止まり、けたたましい音が収まるとアリシアがコックピット側のドアから降りてこちらに近付いてくる。


「遅れてごめんなさい。準備に手間取っちゃって」

「別に気にしてないからいいよ。それにしてもまた凄いものに乗って来たな」

「国外の未確認生物の死体は超がつくほど貴重な研究素材だもの。収用できるだけ回収しておけって上からお達しが出てるのよ」


 アリシアがそう話している間にもヘリコプター後部のドアから降りてきた防護服の一団がモンゴリアン・デスワームの死骸を切り刻み、その肉を保存容器の中に入れていく。

 さらに解体・収用作業を行っている防護服の一団の周囲を迷彩服に防弾チョッキ、そして小銃を担いだ兵士が守っている。


「あの人たちもアリシアがいる組織に所属してるのか?」

「一応はね。指揮系統は全く別だけど」

「ほーん、何か面倒くさそうだな」

「ええ、実際すごく面倒くさいわよ」


 そう語るアリシアの目は全く笑っていない。

 それを見てお役所勤めも大変なんだななどと頭の悪いことを考えていると、黒スーツを着た厳つい男が俺たちの元へ走ってくる。


「管理官、ご報告したいことが」

「……わかった。ごめんなさい、ちょっと行ってくるわ」

「はいよ」


 あー、この調子だとまだ帰れそうにないな。

 明日も京里と一緒に登校する約束してるから出来れば早く帰りたいんだけど。

 そう思っているとアリシアがタブレットを抱えながらこちらに戻ってくる。

 それもさっきより深刻そうな表情を浮かべて。


「どした? 何か問題でも起きたのか?」

「まずはこの映像を見て」


 言われるがままタブレットを覗き込むと、そこには夜中の山を降りるパジャマを着た生駒先輩の姿があった。

 そのフラフラとした足取りを見るに恐らく彼女は正気ではないだろう。

 

「これはついさっきこの山の麓にある監視カメラが撮影したものよ。どう思う?」

「夢遊病で偶然ここまでやって来たか、それか異能か何かで引き寄せられたか。多分そのどっちかだと思う。あくまで素人の推測だけど」

「まあ、そのどちらかでしょうね……」


 そこまで考えて俺は生駒先輩の言葉を思い出す。


「なあ、生駒先輩が直近で見ていたコンテンツとかって分かるか? 俺のゲーム機や駅前の監視カメラから情報を抜き取った時のように」

「何か考えがあるみたいね。分かった、やって見る」


 俺がアリシアにタブレットを返すと、彼女はささっと操作して生駒先輩が直近で見ていたコンテンツを時系列順に並べ、しかも視聴時間までされたものを画面に表示させる。


 乙女ゲーム、さらにそれの二次創作や恋愛漫画、他にはBL漫画など目のやり場に困るようなものがあるが全て無視だ。

 

「……これか!」


 生駒先輩が直近で最も長く見ていたコンテンツ、それは少女が山の神として恐れられてきた大蛇と恋に落ちる異種間恋愛もののオリジナル漫画だった。

 そして生駒先輩が悩まされている妄想を現実にする異能、もしかして……。


「多分だけどあのデスワームは生駒先輩が言う妄想を現実にする異能でこの漫画の蛇の神様を生み出すために呼び出されたんじゃないか?」

「待って待って。蛇とミミズって全然別物じゃない!?」

「だけど実際に姿を現すまであれは大蛇の化け物として噂されていた。で、京里から聞いたんだけど妖魔ってのは人々の恐れや信仰から生み出されるんだろう? 噂の浸透具合から察するに近い内、あのデスワームはUMAから蛇の妖怪ないし神様に変化した可能性は高い。そして生駒先輩は無意識にこの漫画のヒロインになるという妄想を実現するためこの山へやって来た。どうだ?」

「確かに理論上はあり得なくはない、か。だとしたら……」


 俺の仮説を聞いてアリシアは深く考え込む。


「ま、まあ、自分で言っておいてなんだけど俺の話は仮説というかこじつけというか、とにかくあまり真に受けないでくれよ。それより生駒先輩の身の安全を――」

「それについてはもう部下に指示してあるから大丈夫。ただいい加減最悪の可能性を考慮しないといけないなと思っていただけ」

「最悪の可能性?」

「彼女が後天的に異能に目覚めて、しかも異能の適性(・・・・・)が限りなく低かったというものよ」


 おっと、また新しいワードが出てきたな?


「その異能の適性とやらが低い人間が異能に目覚めると何が起こるんだ? 字面からしてろくでもないことになることだけは分かるけど」

「まず単純に自分の異能をコントロールすることが出来ない。だから肉体や精神の限界を超えても異能を発動し続けてしまう。そして異能は例外なく使えば使うほど強くなり、それに伴って肉体や精神にかかる負担は大きくなる。後はこれを心身が崩壊するまで繰り返す」


 限界を超えて異能を発動してしまう……、俺で例えると必要なMPがないのに勝手にスキルを発動するようなものか。

 俺も最初にステータスを得た頃は研究目的で何度かMPが全く足りていないスキルを発動してたりしてたが、あの時はとてつもない目眩と吐き気と頭痛に襲われて毎度気絶していた。

 あれが自分の意思とは関係なく引き起こされる。それは紛れもなく地獄そのものだろう。


 しかし、だ。


「生駒先輩は体調不良を起こしたりしてないぞ?」

「そうね。だからこれはまだ可能性の範疇に過ぎないわ。けど――」


 アリシアは専用の収用ケースに入れられ、大型ヘリコプターに積み込まれていくデスワームの死骸を険しい目付きで見てこう呟いた。


「目的が何にせよ、山を超え、海を越え、国を越えてあれだけの規模の生物を呼び出す異能は紛れもなく異常よ。注意を怠らないようにしないと」

「だなぁ……」


 そこで俺は今頃になってあることに気付く、というか気付いてしまう。


「あー、ところで俺の異能の適性はどんなもんなんだ? 暴走とかそういったことが起こったり――」

「確認されている異能力者の中でも最高クラスだから安心なさい」


 不安が払拭されたことにまず安堵するが、同時にまた別な疑問が湧く。


「最高クラスって、それマジで言ってるのか?」

「能力の質が上がり続けていて、しかも頻繁にそれを行使しているにも関わらず真っ当な人間性を維持している。どれだけ適性の高い異能力者でも2年経てば力に溺れる中でこうしてわたしと会話できているのは十分凄いわよ」

「なるほど?」

「むしろ順応性が異常に高い? それ自体がまた別な異能の可能性も……? いやでも……」

「お、おーい? アリシア?」


 話している内にアリシアは自分の世界に入っていってしまう。

 俺が彼女の顔の前で手を振ってみると、彼女はハッとなる。


「あら、ごめんなさい。とにかく貴方が心配して思い悩む必要はないわ」

「わかった。なら安心させてもらうよ。っと」


 アリシアの部下だという男がこちらにやって来て彼女に耳打ちした。

 見るとデスワームの死骸は綺麗さっぱり失くなっている。どうやら解体・収容作業は終わったようだ。


「作業完了の報告を受けたわ。もう帰ってもいいわよ」

「そうさせてもらうよ。あー、疲れた……」

「ふふ、ご苦労様」

 

 そう言ってアリシアは大型ヘリコプターの方へ向かって行く。

 それを見送ると俺は体をほぐしながら帰宅のためにスキルを発動しようとする。


(……念のために京里にも生駒先輩を注意した方がいいと言っておくか)


 そんなことを考えながら『空間転移魔法』を発動した。

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