お菓子か悪戯か
それは明るい満月の夜の祭り。
夜道を照らすのは、蜂蜜パンケーキのような丸い月と、オバケの顔にくり抜かれた大きなカボチャのランタン。
家や道のあちこちに置かれた沢山のカボチャのお化けたちに見守られて、白いお化けや羽の生えた可愛い悪魔たちが、リボンが付いた籠を片手に彷徨い歩いている。
黒とオレンジのリボンで作られたリースが掛けられた扉をノックして家人に問うのだ。
『お菓子かイタズラか?』
家人は可愛いお化けたちの籠にお菓子を一つずつ入れていく。
お化けたちは「ありがとう」とお礼を言って次の家へと向かう。その足取りは軽く楽しげだ。
秋の始まりから初めての満月の日。
冥界の扉が開くとされている日は、お化けや精霊が出易くなり子どもが攫われると言われていた。そこで、陽が傾き始めると子どもたちにお化けや精霊の仮装をさせる。
そんな風習がいつの間にか、子どもたちがオバケ仮装をしてイタズラをする日になった。
大人たちはイタズラをされないようにお菓子を渡して見逃してもらうのだ。
ベイエット領でも夕方から可愛いお化けがちらほらと町を歩き始める。
もちろん、大人が必ず付き添わなければならないし、念の為に領地の兵士がいつもより多く巡回している。
お菓子を準備している家にはオレンジと黒のリボンで作ったリースが掛けられているので、子どもたちはそれを目印にしていくのだ。
ゆらゆらと揺れる手持ちランタンの灯りが道を曲がったせいで見えなくなると、アルフレッドは目に見えてそわそわし始めた。
「ウィルとシェラは大丈夫かな」
出発してしまった我が子たちを案じる
まだ乳飲み子の息子を抱いたまま、マグノリアはそんな夫の姿に苦笑する。
「アルバートが一緒ですもの。心配要りませんわ」
「うーん。でも、やっぱり僕も行って…」
「ダメですわよ。お仕事がございますでしょう?」
今にも歩き出しそうなアルフレッドに釘を刺せば、未練たらたらとその場で足踏みを始める。
子煩悩なのは嬉しいけれど、困ったこと。と眉を下げても、マグノリアもそんな夫が可愛くて仕方がない。
なにせ、アルバートが一緒とはいえ、初めて子どもたちだけで夜のお出かけなのだ。ベイエット領が安全とはいえ心配は尽きない。
「そう、だけど。泣いてないかな。迷子にならないかな。やっぱり心配だな…」
元気いっぱいに駆け出して行ったシェラとそれを追うウィルを見たばかりなので、マグノリアはそこまで心配していない。
なにより遠慮なく叱り飛ばすアルバートが一緒なのだ。
「大丈夫ですわ。子どもたちを信じてあげてくださいませ」
「うん。そうだね」
そう言いながらも未練がましく見えない姿を追ってしまうアルフレッドの裾をツンと引く。
たっぷりと時間を置いてから潤ませた瞳で見上げる。
「アルフレッド様。私とエルウィンを置いて行ってしまうのですか?」
「そ、そそそんなことないよっ。マグノリアを置いて行くなんて。ごめんね、不安にさせて。側にいるから、大丈夫だよ」
目に見えて慌てだしたアルフレッドが、ショールを持ってこようか部屋に帰そうかと右往左往する。挙句、炎の魔法を使おうとするので、マグノリアは止めるのに苦労した。
「ほら。可愛いオバケさんたちがいらっしゃいましたわよ」
そう言うと、マグノリアは料理長が作ったカボチャマフィンがたくさん入った籠をアルフレッドに手渡した。
見れば、開かれている領主館の門から数個のランタンが揺れていた。庭に飾った様々なランタンが周囲を明るく照らし、小さな可愛いオバケたちを浮かび上がらせた。
二人は領民の子どもたちの可愛い仮装に笑みが溢れた。
マグノリアが、アルフレッドが持つ籠からマフィンが入った紙袋をひとつ取り出す。
可愛くラッピングしたそれを顔の横でふるりと揺らすと微笑む。
「アルフレッド様は、お菓子?それとも悪戯?」
普段は女神なのに、ランタンの灯りにほんのりと照らされたマグノリアは、妖しい美しさが加わってアルフレッドは早鐘を打つ心臓を押さえて呻いた。
「究極の選択肢っ!僕のマグノリアが可愛すぎて倒れそう」
悶えるアルフレッドの頭を優しく撫でたマグノリアは、アルフレッドの肩と背中に手を当てて門の方に体が向くように誘導した、
「期限は子どもたちが帰ってくるまで、ですわ。さあ、頑張って配ってくださいませ」
欲望に揺れる心をなんとか押さえて、アルフレッドは可愛いオバケたちにお菓子を配った。
彼がどちらを選んだのかは、ふたりだけの秘密である。
10月ということで、久しぶりのふたりでハロウィンネタです。
ちょっと早いけど☆Happy Halloween☆




