料理長の幸せ
山々が赤や黄色で彩られ、越冬する動物たちのために豊かな実りを分け与える季節。
そう、秋である。
秋の味覚と言えば栗にサツマイモ、カボチャ、梨に葡萄に柘榴、香り高いキノコたち、魚介も入れれば更に増える。
秋は食材が豊富だ。
美味い食材が多ければ、調理の幅も広がる。
なんと料理人にとって血湧き肉躍り腕が鳴る季節だろうか。
マークロウ家の食を支える料理長を長年勤めてきたハイゼンは大量の栗を剥きながら様々なレシピを思案していた。
今年の栗も大粒で出来が良い。これは美味しそうだ。
栗はお湯で温めれば硬い鬼皮もかなりすんなりと剥ける。それでも大量の栗を剥くのは根気がいる。
1人なら途方に暮れるところだが、マークロウ家の料理人は自身を含めて4人。皆、ハイゼンが鍛え上げてきた優秀な料理人たちだ。
総出で包丁を片手に黙々と剥けば、木箱に5箱近くあった栗は半日で剥き終わってしまった。
さて、剥いた栗は何にしようか。
マロングラッセと甘露煮は保存用に瓶詰めして、残りはマロンクリームに栗とサツマイモのタルト、パウンドケーキも欠かせない。栗入りの蒸しパンも作ろう。
秋の収穫祭用に新作も考えなければならない。
忙しくなるな。
しかしそれ以上に楽しみで仕方がない。
何を作ろうかと胸を躍らせるながら渋皮を剥いていく。
横で部下たちが「下処理ぐらい私達でやりますから」と言ってくれるが、愛らしいエルウィン様から笑顔で直に渡されたのだから私も参加すべきだろう。
「見て、見て。いっぱい拾ったの。ね、ね、後でほくほくにして食べてもいい?」
期待に満ちた目でおねだりされ、即座に蒸して割った物をスプーンと共にお出しした。
調理とも言えぬが、旬の今だけ味わえる素朴な食べ方だ。
アルフレッド様も幼少の頃に同じように強請られた事がある。食す量はかなり違うが。
「これ僕が拾った栗かな。おっきいね」とエルウィン様が笑えば「きっとそうだね。美味しいよ」とアルフレッド様が頭を撫でる。
その光景を微笑ましくも懐かしい気持ちで見守った。
領主様がまだエルウィン様ぐらいのお年だった頃の私は、ようやく盛り付けを任されるようになった若造だった。
毎年秋にはご兄弟で栗拾いを手伝ってくださり、当時の料理長が作る料理に目を輝かせていたのを思い出す。
裏庭で先代様と落ち葉で焼き芋をしていた中にアルフレッド様が栗を投げ入れて大騒ぎしたのも良い思い出だ。
マークロウ家の方々は食事を大事にしてくれる。特にアルフレッド様は幼い頃から調理場に足繁く通い、料理人全員から親しまれていた。
特に秋はほぼ毎日顔を覗かせて、その日の料理やデザートの感想を教えてくれたものだ。
時折、こんな物は作れないかと相談されたりもう少し甘くして欲しいなどと要望も伝えてくれる。
絵本に出てくる料理の再現を頼まれた時は苦労はしたがなかなかに楽しかったと思う。
今度はあの黄金色のパンケーキを作って差し上げよう。
アルフレッド様はまだ覚えていてくださるだろうか。
魔国との交易も盛んで様々な食材が手に入る上に、領主のアルフレッド様が食べる事が大好きなのでベイエット領は食文化が豊かだ。
たまに王都の料理人や魔国の料理人が修行にやってくる事もある。
こちらも良い勉強になる。ただし秘伝のレシピは教えられない。舌で盗める物なら盗んでみるがいい。
それだけ自信はあるし、それで盗まれるようなら相手の技量が私よりも上だと言うだけだ。
明日は魔王陛下のお子様もいらっしゃる。
一緒に栗拾いをして葡萄狩りや梨狩り、紅葉狩りを楽しまれるそうだ。
それに伴い、魔国の料理人も2人随従するらしい。
さあ、明日からまた忙しくなりそうだ。
もうそろそろ引退かと考える時もあるが、マークロウ家の方々の笑顔を見るとまだまだ若い者には負けるわけにはいかないと奮起する。
作る喜びと食べてもらえる幸せ。
この幸福をもう少し味わわせて頂こう。
食欲の秋という事で、マークロウ家の食を支える料理長の独白でした。
秋は美味しい物が沢山ですね。




