『きらいきらい』のまゆちゃんと、ふしぎな『カナト』くん(前編)
「冬の童話祭2026」のテーマ「きらきら」参加作品です。
…3000字ぐらいの童話と思って書いてたら、いつの間にか1万字超えてたので、前編後編に分けましたー!(笑)ヽ(^o^)丿
更に「童話とは何ぞや?」というお話になってしまったので、どうか温かな目でお読みください…m(_ _;)m
むかしむかし、いまよりも、すこし未来のおはなし。
街はずれの大きなお屋敷に、『まゆちゃん』という小さな女の子が住んでいました。
まゆちゃんのパパもママも忙しくお仕事をしていて、家ではいつもひとりぼっち。
温かくて快適なお部屋には、最新のおもちゃや、高いプレゼントが山のように積まれています。
でも、まゆちゃんは、そのどれも”ほしくなかった”のです。
ほんとうにほしいものは──
『いっしょに笑う時間』
『あたたかい言葉』
『ぎゅっとしてくれる手』
……けれど、それはどの箱にも入っていませんでした。
友だちも、たくさんいたけれど
「まゆちゃん、これちょうだい」
「それくれたら遊んであげる」
「たくさんあるんだから、いいでしょ」
──そんな子ばかり。
だから、まゆちゃんは、なんでも「きらいきらい」と言ってしまう子になってしまいました。
──今年の冬も、家の中には、まゆちゃんひとり。
パパとママは、まだ帰ってきません。
「どうせ帰ってきても、わたしのことなんて、ちょっとも見てくれない…きらいきらい…」
まゆちゃんがつぶやいたとき──ふいに、部屋の窓が『きらきら』と光りました。
「…こんばんは」
まゆちゃんがベランダに出ると、雪みたいに白い息をはく、同じ年ぐらいの男の子がいました。
「だれ…?…どこから来たの?」
まゆちゃんの部屋は、お屋敷の2階……ふつうには入れません。
「ぼく? えへへ。ぼくはね、今は『カナト』っていうんだ」
白っぽい茶色のコートを着て、赤い首輪をつけた子──カナトはにっこり笑って、言いました。
首輪には小さな金色の鈴がついているのに――どれだけ動いても鳴りません。
「…まゆちゃん、いま、さみしいの?」
「…っ、なんで、わかるの?」
「だって、心がきゅうってしてる音が、ぼくには聞こえるんだ」
まゆちゃんは、少しだけムッとしながら聞きました。
「…カナトくん、なんでそんなことができるの?」
「んー…それはね。まだ言えない、ひみつなんだ」
そっと笑うカナト。
「ひみつって……へんな子…」
でも、その笑顔はあたたかくて、まゆちゃんの胸のつめたいところが、少しだけゆるんでいきました。
「ねぇ、まゆちゃん。ほんとうの気持ち、教えて?」
カナトがそう言ったとたん、まゆちゃんの胸の前に、ふわあっと光の文字が、たくさん浮かびあがりました。
──ひとつめは、『友だちがきらい』
──ふたつめは、『パパとママがきらい』
──みっめは、『見せかけだけのやさしさがきらい』
他にも、
『がんばってるのに、ほめてもらえない日』
『笑い声のない、ばんごはんを食べるとき』
『ひとりぼっちで、泣いている夜の部屋』
…いろんな『きらい』が、雪みたいに舞いあがりました。
「こんなに……いっぱい、あったんだね」
重たくて、苦しくて、まゆちゃんしか知らない気持ち。
まゆちゃんは顔を真っ赤にしてふるえます。
「みないで……こんなの、いやだよ……」
まゆちゃんの目が、うるうるとしてきてしまいます。
「大丈夫。ぜんぶ、ぼくにまかせて」
そう言ったカナトは、そっと手をのばし、うかんでいる文字の中から――
『い』だけを、ぱくっ。ぱくぱくっ。
「えっ…た、食べてるの!?」
「うん。“い”はね、苦い気持ちのタネなんだ。これを食べちゃえば…」
カナトは、ごっくんと『い』を全部のみこんで、ベランダでくるんと宙返りしました。
その瞬間――。
リンリンリーン!
いままで一度も鳴らなかった”カナトの首輪の鈴”が、星をはじくみたいに澄んだ音をたてたのです。
するとどうでしょう。
目の前にあった 『きらいきらい』 の文字は、やわらかくほどけて、反対むきにくるんっと裏返り……
『きらきら』の光の粒になって、まゆちゃんの胸の中に すーっと溶けこんでいきました。
「あっ!?…あったかい…!?」
きらきらが、つめたかった まゆちゃんの胸をすこしあたためてくれました。
「うん。”きらいきらい”は、まゆちゃんが、ほんとはずっと持ってた “きらきら”だったんだよ……ぼくは、それを見つけにきたんだ」
カナトは、まだまだ食べ足りないみたいにお腹をさすりながら、
「まだまだ、まゆちゃんには『きらい』のタネがあるみたい……ねえ、どこか行きたいところ、ある?…ぼくが、どこへでも連れていってあげるよ!」
まゆちゃんに手を差し伸べて、力強く言いました。
「…どこへでも?……いま、じゃなくて、むかし、でも行けるの?」
不安そうな言葉に、カナトは「もちろん! まゆちゃんが望むならね!」と答えました。
「……行きたい。パパとママの“むかし”が見たい…どうして、今みたいになっちゃったのか……」
まゆちゃんは、アルバムで見た写真のことを思い出していました。
「わたし、知りたい! むかしは、みんなニコニコしてたから!」
写真の中のパパとママは、きらきらの笑顔で、赤ちゃんのまゆちゃんを抱きしめてくれていたのです。
「お願い、カナトくん! パパとママのむかしに連れてって!」
まゆちゃんは迷わず、カナトの手をぎゅっと握ります。
「わかった。じゃあ――いこう!」
カナトは夜空に向かって、ふうーっとキラキラに光る息を吹きました。
──シャンシャンシャンシャン!
すると降りてきたのは、星のつぶをつなぎ合わせて作ったような光のソリ。
「すごい……!」
「さあ、のって!」
ふたりはソリに乗りこみ、風よりもやさしく、光よりもはやく――夜空へと舞いあがっていきました。
そして、ふわりと世界がゆがみ、気がつくと暗い古いアパートにいました。
──向かった先は、まだ小さかった パパ の日。
そこでは、小さなパパが、ボロボロの布団にくるまりながら、つぶやいていました。
「…プレゼントなんて、なくてもいいよ。ぼく、がまんできるから…」
部屋の中はちらかっていて、電気もつきません。
「…ぼくね……いっぱい、がんばるよ。大人になったら、たくさん働いて……いっぱいお金をかせぐよ…」
すきま風が吹きこむ部屋で、パパの声は、どんどん冷えていきました。
「…パパ、こんなにお金がなかったの?」
「そうさ。だから大人になったパパは、『二度とこんな思いはしない』と働きつづけるようになったんだ。……なんでも買えるようにね」
カナトの言葉に、まゆちゃんの胸が、きゅっと、音をたてました。
「……パパ、とても、さむそう……」
まゆちゃんは、思わず胸の前で手をにぎりました。
小さなパパは、窓のすきまからこぼれる月の光を見つめながら、ぽつりとつぶやきます。
「…もしも、ぼくに子どもができたら……子どもには、ほしいものを、ぜんぶ、あげるんだ…ぜったいに……」
その声は、ふるえていました。
やさしい願いなのに、どこか、さびしい音。
「…パパ……でも…わたしは……」
まゆちゃんの胸から、また文字が浮かびあがります。
『パパがきらい』
カナトは、そっとその文字に近づき、
先ほどのように――『い』だけを、ぱくり。
「パパはね、“だいじなこと”を、まちがえたわけじゃないんだ」
カナトは、やさしく言いました。
「ただ、“だいじなもの”を、しまいこんじゃっただけ」
「……しまいこんだ?」
「うん。“いっしょにいること”とか、“わらうこと”とか。寒い夜が長すぎて、忘れちゃったんだ」
カナトのことばが、まゆちゃんの胸に、じわじわと沁み込んでいきます。
「…パパもほんとうは、プレゼントより……ぎゅって、してほしかったんだよね…」
まゆちゃんは、小さなパパを見つめて、そっとつぶやきました。
「…パパは、わたしのために…わたしも、パパに、なにかしてあげたい…」
その瞳から、ぽろりと涙が一粒おちます。
すると、カナトの金色の鈴が、リーン!と短く鳴り、まゆちゃんの『きらいきらい』が『きらきら』に変わりました。
「じゃあ、パパに まゆちゃんのきらきらをわけてあげよう」
そして、きらきらは、小さなパパの胸のあたりに吸い込まれ、ほのかに光ったように見えました。
「うん。これでパパは、だいじょうぶだよ」
にっこりと笑うカナトの言葉を、まゆちゃんは信じられるようになっていました。
「…ありがとう…カナト……じゃあ、ママは?」
涙をぬぐった まゆちゃんが聞くと、カナトは静かにうなずき、また空を指さします。
光がくるりとほどけて――次に、光のソリが降り立ったのは、にぎやかな校庭でした。
──そこにいたのは、まだ小さなママ。
「えー、その遊びはいやだよ」 「じゃあ、こっちにしよ?」
友だちの声に、ママは一瞬、言いかけて――やめました。
「……うん。いいよ」
ほんとは、ちがう遊びがしたかったのに。
「あの子って、生意気だよね」「調子乗ってるよね、やな感じ」
友だちの声に、ママはいつも、にこっと笑って、うなずきます。
「…そうかもしれないね…」
ほんとは、言いたいことがあったのに。
「アナタは、私の言うことだけを聞いていればいいの! それ以外は認めませんよ!」
──家の中でも、小さなママは自分の好きなこと、言いたいことをガマンしていました。
「…はい。お母様、言いつけには絶対に逆らいません…」
でも、その笑顔は、どこか、ぎゅっと固まっていました。
「……ママ、いやって、言えなかったんだ……じゃあ、どうして……ママは、わたしに…」
まゆちゃんの胸が、ずきん、と痛みます。
そのとき、また文字が浮かびました。
『ママがきらい』
カナトは、静かに『い』を食べます。
「ママはね、“じぶんの声”を守るより、“だれかにきらわれないこと”を、守ったんだ」
小さなママは、ひとりで校庭のすみを歩いていました。
「…もし、子どもができたら、『自由にさせよう』…どんなことがあっても、ガマンさせないように…」
泣きそうな顔で、その声は木枯らしよりも、ふるえていました。
「ほんとは……ママも、こわかったんだね……ひとりぼっちになるのが……」
リーン!と鳴る カナトの鈴が、まゆちゃんの涙を、きらきらに変えます。
小さなきらきらが、ママの肩に、寄り添うように留まりました。
「…これで、ママの心が、かるくなるのかな?」
カナトはそっと、まゆちゃんの肩に手を置きました。
「うん。ほんとうのきらきらは、じぶんのままでいいんだよっていう、あたたかさのことなんだよ」
まゆちゃんは こくんっとうなずいて、ふたりは、またソリに乗ります。
「さあ、次へ向かおう!」
カナトの大きな声が、空にひびきます。
──まだまだ、『きらいきらい』を『きらきら』に変える旅は、続くのでした──
(後編へつづく)
童話じゃないお話ですが、お読み下さり、ありがとうございます!m(__)m<よければ、後半もお付き合いのほど、宜しくお願いします!
カナトの正体| ; ・`д・´)<賢明な読者様ならば、すでにバレてますよね~?




