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『陰俺』袋詰め!  作者: 松尾からすけ
俺がまた一つ宝物を手にするまで
19/51

13.白いマントを羽織るのって敵キャラ? 味方キャラ?

 コツ……コツ……コツ……。


 床を弾くかかとの小気味いい音で静流は目を覚ました。どうやら椅子に座って考え事をしているうちに眠ってしまっていたようだ。心配事を抱え、眠れぬ夜を過ごしているがゆえ、致し方のない事だろう。

 静流は椅子から立ち上がり、ゆっくりと鉄格子の方へ歩いていく。ここに閉じ込められてから一週間ほど経過したが、こんな靴音は聞いたことがなかった。不審に思いつつ、目をすぼめてこちらに近づいてくる人影が何者なのか判断しようとする。


「──久しぶりだね。静流さん」


 だが、その必要はなかった。その声、そのしゃべり方。姿を見ずとも声の主が誰なのかわかる。


「あら、わざわざ私の所までぶん殴られに来たのかしら、康介?」


「ははっ。相変わらず君はおっかないね」


 徐々にはっきりしてくる康介の姿。純白のマントに身を包むその様は、正義をこよなく愛するヒーローのようでも、世界の破滅を目論む悪の親玉のようでもあった。そう、それは静流の知っているお人好しの康介のものではない。脚光を浴びてこなかった過去の自分とは決別し、物語の主要人物になり切っているように彼女には見えた。


「随分趣味の悪い恰好をしているじゃない」


「これでもこの世界の雰囲気に合わせたつもりなんだけどね。ファンタジーには無縁の君にはそう見えてしまうかもしれないな」


 軽く笑みを浮かべながら康介は静流の向かいにある部屋に目を向ける。


「紗季さんの姿が見えないようだけど?」


「さぁ? あんたの顔なんて見たくないから部屋の奥にでも籠っているんじゃない?」


「…………そう」


 部屋から視線を移した康介の顔に、僅かに浮かぶ寂寥せきりょうの色を静流は見逃さなかった。紗季だけじゃない、この男も本当にわかりやすい。


「それにしても、隼人は静かだね。ここに来れば怒声の一つでも浴びせられると思ったけど」


「…………」


 康介の問いかけに答える声はない。静流は心配そうな顔で隣の部屋がある壁の方を見つめる。紗季が無謀な脱出を果たした時ですら、隼人は一言も発しなかった。


「まぁ、それならそれで気が楽でいいや」


「……ここへ何しに来たのよ?」


 明らかに敵意が込められた声が康介の身に突き刺さる。だが、彼は穏やかな表情のまま、鋭い視線を向けている静流の顔を見た。


「いやなに……どうやらここへお客さんが来そうでね。少しの間城を空けるから『いってきます』をしようと思っただけさ」


「そう。それならさっさと行けばいいじゃない」


「そうした方がいいようだね。どうやら僕は歓迎されていないみたいだし」


 康介は頬を掻きながら笑うと、静流に背を向けて来た道を戻っていく。その背中を静流は黙って睨み続けていた。


「──なぁ、教えてくれよ」


 僅かにかすれた声が地下牢に木霊する。康介はピタッと足を止めると、首だけ動かし、声をかけてきた男に目をやった。


「俺の事がずっと憎かったのか?」


 康介の視線の先には生気のない顔でぼーっとこちらを見ている隼人の姿があった。その言葉を聞いた静流はハッと息を呑み、慌てて康介の様子を窺う。


「…………」


 彼は何も言わずにしばらく自分の親友だった男の顔を見つめていたが、微かにため息を突き、不貞腐れたように隼人から視線を外した。


「……どうでもいいよ、もう。そんなことは」


 感情を完璧に脱色した声。鉄格子に手をかけ、力なくうなだれる親友を無視して、少しだけ大きな音を立てながら、康介は地下牢の扉を閉めた。



 康介が作り出した城から抜け出してから二日が経った。紗季のやる事は何も変わらない。魔物の影にビクビクと怯えながら森の中を突き進み、助けを探す事。


「はぁ……はぁ……康介君……待っててね……」


 身体中泥だらけになっている紗季が息を切らしながら呟いた。もちろん、誰かに話しかけているわけではない。なぜなら彼女は単身で凶暴な魔物が徘徊する森の中をひたむきに歩いているからだ。


「すぐに……すぐに君の所へ行くから……」


 彼女の意識はすでに朦朧もうろうとしている。何かあった時のために地下牢で少しずつとっておいた食料も、僅かに持ち出した水ももうとっくに底をついていた。紗季の体力が限界を迎えているのははた目から見ても明白だった。それでも、彼女は足を止めることはしない。


「そして、私が……私があなたの目を……!!」


 だからこそ、それは必然だったのかもしれない。森を抜けた先で彼女を待っていたのは断崖絶壁。止まることはおろか、踏ん張ることもできなかった紗季は、腐った木の実が地面に落ちるように、何の抵抗もなく崖下にある激流へと呑み込まれていった。

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