407.マルティル家
ゴーレに起こされて、目が覚める。
「マスター。イタロさんから夕食のご招待がありました」
「あー。結構寝てたみたいだね。行ってくるね」
「わかりました」
俺が客室を出ると、使用人が待っていた。
案内をしてもらい、食堂に行くとイタロと数名の人が座っていた。
「えー。夕食にご招待いただきありがとうございます。ワイアット王国で商人をしているライルです」
俺は自己紹介をして頭を下げた。
「そんなかしこまらなくて平気だよ。ライルくん」
声をかけてくれたのはイタロ似のおじさん。
この人が元首だろう。
「私はハリド・マルティル。イタロの父だ」
「マルティル元首。御挨拶が遅れて申し訳ありません」
「はは。大丈夫だよ。そんなかしこまらなくていいってイタロからも言ってくれ」
マルティル元首は少し困っているようだ。
元首というから厳しい感じかと思ったら、ブライズさんくらい物腰が柔らかい。
「ライル。家の中なら普通のおじさんと話すようにしていいから」
さすがに無茶ぶりすぎるが、そこまで言うなら少しだけ崩そう。
「マルティル元首。できる限り話し方を崩せるようにします」
「うん。そうしてくれると助かるよ」
マルティル元首は嬉しそうに笑った。
「家族の紹介をさせてほしい。まずは妻のナイラ。そして長男夫妻のラシードとアエラ。アエラは知っていると思うがワイアット国王の長女だ。そして次男ザヒルだ」
「よろしくおねがいします。ライルです」
俺は全員に頭を下げた。
するとナイラ夫人とアエラ夫人が口を開いた。
「私達にも崩して話してね。ねえアエラ」
「そうですね。ライルくん。ぜひ私達にも崩して話してね」
アエラ夫人が笑顔で言った。
アエラ夫人は綺麗なロングの金髪で、ものすごく美人で驚いた。
「わかりました。アエラ夫人。ワイアット国王から手紙を預かってますので、夕食後お渡しします」
「お父様から?嬉しいわ。ありがとう」
そんなことを話していると、使用人が料理を運んできた。
俺も使用人に促されて、イタロの隣の席に座った。
まずはスープが運ばれてきた。
緑と灰色の中間のような色をしている。
「ライルくん。これはサオラル名産の砂豆のスープだ。砂豆は知ってるかな?」
「王都でいただきました」
「そうか。イタロが家に呼んだのか?」
「うん」
それを聞くとマルティル元首は嬉しそうにしていた。
イタロは前に言っていたように自国に友達がいないようだ。
次々と料理が運ばれてくる。
マルティル元首とナイラ夫人は卒業試験を見ていたようで、イタロの特訓を手伝ったことについてお礼を言われた。
そして俺や弟子達やヒューズさん達の話を興味深く聞いてきた。
ペパイドが現れた時も闘技場にいたから、いろいろ気になるのだろう。
色々話を聞いた。
サオラルについては前にゴトフに聞いた話通りだった。
マルティル家を含めた10の家は古くから歴史が続いている。
マルティル家は農業に力を入れている家で、各家で別々の生業をしているらしい。
マルティル家は平民の農家と力を合わせて農業を成功させてきたため、あまり平民と分け隔てなく関わる家。
元首だから最低限のことはするが、基本的には同じ目線に立つようにしているらしい。
それを手助けするのは元平民のナイラ夫人。
ワイアットから嫁いできた生粋の貴族のアエラ夫人は最初戸惑ったが、すぐにマルティル家の雰囲気にも慣れたという。
色々と面白い話を聞けて良かった。
料理もパッチャオやクスクスが食べれて満足だった。
▽ ▽ ▽
夕食後、イタロが部屋にやってきた。
「ライル。家の件なんだけど」
「あ?無理そう?」
「ライルが良ければでいいんだけど、サリルハムっていう地区に作ってもらうのは無理かな?」
「サリルハム?」
「うん。卒業したら僕が管理する予定の地区なんだ」
「ここからどれくらいの距離なの?」
「馬車とかなら2、3時間の場所だね」
「ああ。それなら全然大丈夫」
「本当に!?」
イタロは何故か嬉しそうだ。
なんかあるのだろうか?
「イタロはなんでサリルハムがいいの?」
「それは…」
イタロは少し申し訳なさそうにしている。
「ここ数年、僕が管理するサリルハム地区は作物の採取量が減っていて、来年の春に帰ってくる頃にはもっと状態は悪くなっているかもしれなくて」
「なるほどね。それで俺から助言みたいなのをもらいたいってことか」
「そうです」
イタロは申し訳なさそうに縮こまった。
「まあ、ちゃんと意図がわかったから協力するよ」
「本当に?」
「やれることは限られるけどな」
「ありがとう!!」
イタロは嬉しそうに部屋から出て行った。
▽ ▽ ▽
翌朝、サリルハム地区に到着した。
フリードのおかげで1時間ちょっとで着いた。
当然イタロとみんなを連れてきている。
馬車に乗っている間、イタロからサリルハム地区について聞いた。
マルティル家は農業を主にやっている家。
なのでマルティル領には沢山の農家がいるし、農業地区がある。
当主のハリド元首が大きな農業地区を2つ管理。
そこの収穫物が国内で消費される作物の7割だという。
長男のラシードさんが農業地区を2つ管理。
ここでは国内で消費される3割と他国へ売りに出す用の作物を作っている。
ラシードさんが将来的に当主になった時に弟2人にも農業地区の管理をしてほしいらしく、3年前から次男のザヒルさんが小さい農業地区を3つ管理していた。
そのうちの1つがサリルハムだ。
ザヒルさんは上手く行かなくなったサリルハムに手を付けなくなり、収穫量がどんどん落ちて行った。
失敗してもいいと言われているらしいが、イタロは学園でいろいろ学んだことでどうにか復活をさせたいと思っているらしい。
サリルハムには3つの村があり、住民は50人前後。
自分達が食べる分は収穫できているため、貧困とかではない。
農業地区として認められなくなって、マルティル家からの支援が無くなっても生活はできる。
なので失敗前提でイタロにサリルハムの管理を任せるみたいだ。
育てている作物は砂漠で育つことができる砂豆のような作物。
砂漠で育つ作物は殻が厚くて熱に強かったり、地下深くの水脈からゆっくり水を吸い上げていたり、夜露のような少量の水で成長するらしい。
実際に見てみないと分からないが面白そうだ。
俺達はサリルハムにある村の1つにやってきている。
村は砂漠の中にあり、シャハルードと似たような家だが壁の色が砂色だ。
建材の砂の配分が多いのだろう。
頑丈さも劣っていそうだ。
畑らしきものもあるが、本当に畑なのか不安になるくらい不作みたいだ。
イタロはこの村の村長に話を聞きに行った。
「うーん。これは水分不足だな。少量の水分さえないってことなのか?」
俺は色々考えてみたが、砂漠の畑なんて初めてすぎてわからなかった。
専門家達に聞くしかないよな。
イタロが戻ってきた。
「今見ている畑が村で一番大きな畑みたいだね…」
「なるほど。それがこのありさまだと中々だね」
「うん…」
イタロは少し不安そうにしている。
「イタロ。とりあえず、3つの村の中心地に行きたい。そして可能なら土地を買いたい」
「わかった。契約書などはその場で少し書き込むだけで完成するから」
「ありがとう」
俺達はサリルハムの中心地へ向かった。




