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眾禍祓除 SHU-KA-FUTSU-JO  作者: タカノ
第四章
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第五十五話『旧第二部隊』

 翌日の昼。

 喬示と怜也は指示された通りに本部へとやって来た。


「事務所じゃなくて本部へ呼び出しって、マジで嫌な予感しかしねえよな」


「なんかやらかした?」


「道行く人に『マスクするな!』って絡んでたおっさんシバいたくらいかな」


「なにしてんの……」


 話しながらエレベーターに乗り込もうとする二人。

 そこに、


「おーい! 喬示! 怜也!」


 一人の女性が声をかけてきた。

 

「涼」


 振り返った喬示が女性の名を呼ぶ。

 くに すず

 拝揖院禍霊対策局第二部隊所属。

 高校を卒業したばかりの十八歳で喬示や怜也の先輩となる。


「お前も呼ばれたのかよ」


 しかし喬示は名前も呼び捨てにして敬語も使わない。

 しかし涼は特に気にしていない様子だ。


「全員集合じゃんね。なにかあったのかな。てかアンタら学校は?」


「休校中です」


「あ、そっか」


 言葉をかわしながらエレベーターに乗り込む三人。

 喬示が四階のボタンを押す。

 ボタンに伸びる喬示の腕をなんの気無しに見ていた涼がぎょっとする。


「喬示アンタ、なにその時計」


「あん? ああ、これ? イカすだろ」


 涼が指差すのは喬示の左手首に巻かれた腕時計。 

 いかにもな高級感を放つシルバーの腕時計だ。


「ロレックスだぜ」


「アンタまさか、それで学校行ってんの?」


「んな訳ねえだろ。つか休校中だって」


「百三十万円とかですよ」


「引くわー。どこの高校生がそんなもん巻いてんの」


「自分で稼いだ金で買ってんだから良いだろ」


「喬示ってブランド志向だよね。将来、車はロールス・ロイスとかに乗ってそう!」


「ほっとけ」


 エレベーターが四階に着き、扉が開く。

 逃げるようにしてエレベーターから出た喬示を先頭に三人は廊下を歩く。

 目的地は局長室。

 喬示が扉をノック。


「ノックは三回した方が良いよ」


「知らね〜」


 怜也の注意にぞんざいに言葉を返す喬示。


「入れ」


 入室を許可する言葉が室内から届き、喬示が扉を開く。

 部屋にはテーブルとそれを挟んで置かれた黒のレザーソファ。

 その奥にはエグゼクティブデスクがある。

 レザーソファと奥のディスクに一人ずつ男がいた。


「来たか」


 レザーソファに腰掛ける男が喬示たちを見て口を開く。

 オールバックの髪型に、イタリア製の高級スーツを身に纏った男。

 嵯峨野さがの おく

 拝揖院禍霊対策局第二部隊隊長。

 喬示たちの直属の上司である。


「隊長! 見てくださいよ喬示の腕時計。ロレックスなんて巻いてるんですよ。生意気ですよね」


 挨拶もそこそこに、涼は喬示のロレックスをイジる。


「靴とスーツと時計には金をかけるべき、というのが俺の考えだが、高校生でロレックスは流石に早いな」


 嵯峨野は苦笑しながら、涼のイジりに乗っかる。

 喬示は勘弁してくれよとでも言いたげな顔をして、嵯峨野の対面に座る。

 その隣に怜也と涼も腰掛ける。


「全員揃ったな」


「愛生さんがまだっすよ」


 奥のディスクに座る局長──新倉にいくらの言葉に喬示が反応する。

 愛生とは第二部隊の副隊長である早蕨(さわらび) おいのことだ。


「集まってもらったのは、彼女についての話をするためだ」


「愛生さんの?」


 新倉は頷き、咳払い。


「まず彼女は三日前に九州に任務で出張している。任務達成後に、ある寄処禍組織の話を聞き、その調査を行うと報告があった」


「寄処禍組織?」


むしという名前だそうだ。熊本を拠点にしているらしい」


「それで、どうなったんです?」


「分からない。五時間前に最後の報告があったきり連絡が取れない」


 新倉の言葉に場がざわつく。


「つまり、僕たちが招集されたのは愛生さんを助けに行くためですか?」


「そうだ」


「よっしゃ。むしこだかメヒコだか知らねえが、さっさと行ってぶっ潰しちまおうぜ」


「まぁ待て」


 拳を手の平に当てて意気込む喬示を嵯峨野がなだめる。


「今すぐに行くわけにはいかない。今日分の任務をこなしてからだ」


「んな悠長な……」


「愛生さんになにかあったと決まった訳じゃない。単に連絡の取れない状況にあるだけかもしれないし、そこら辺の寄処禍にやられるような人でもない。そうだろう?」


「……そうっすね」


「出発は今夜七時。事務所に集合だ。それまでに任務をこなしておけ」


 嵯峨野の言葉で今後の方針は決定。

 場はお開きとなった。

 喬示たち三人は局長室を出て一階へ。

 ロビーで一人の少女を見つけた。


「あの子……」


 涼の視線の先、職員の女性と言葉をかわしている小学生くらいの少女──早蕨純礼。


「愛生さんの娘さんだよね」


「ああ」


 涼の言葉に喬示が短く返す。

 彼は三人の中で禍対への入隊がもっとも早い。

 入隊当時から副隊長の愛生にはなにかと世話になっており、その娘である純礼とも仲が良かった。


「純礼」


「喬示お兄ちゃん!」


 喬示に声をかけられ駆け寄る純礼。

 その顔は不安気だ。


「こんな場所でなにしてんだ?」


 喬示の言葉に俯く純礼。

 ややあって小さな声で、


「お母さん、帰ってこないの……。もう三日も……」


 そう言った。


「……」


 顔を見合わせる喬示たち。


「愛生さんはな、ちょーっと厄介な仕事をしてんだよ。でも大丈夫だぜ。俺らが手伝いに行くから」


「お母さん、帰ってくる?」


「ああ」


 喬示は屈んで目線を合わせ、純礼の頭を撫でる。


「だから家に帰って待ってろ。休校中でも勉強はしねえと駄目だぜ」


「喬示に言われても説得力ないよね」


「うるせえよ」


 喬示と涼のやり取りに純礼が小さく微笑む。


「分かった。お家で待ってる」


「一人で帰れるか?」


「大丈夫!」


 純礼はそう言うと、喬示たちに手を振って去って行った。


「純礼ちゃん、お父さんを去年亡くしてるんだよね」


 涼が暗い面持ちで言う。

 禍対の補助員を務めていた純礼の父は、去年任務中に殉職している。


「お母さんも、なんてことには絶対にならないようにしないとね」


「ああ」


 怜也の言葉に喬示は短く、しかし力強く、そう返した。

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