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眾禍祓除 SHU-KA-FUTSU-JO  作者: タカノ
第三章
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第五十話『星と屑』

「ふん」


 突き出される刃を素手で止める天平。

 輝きを纏っているが、手の平が斬れ血が流れている。

 皎は刀を強引に引き抜き、距離を取る。


「純礼ちゃん。莉々紗ちゃん。大丈夫?」


「私は大丈夫。ありがとう」


 純礼が莉々紗を胸元に抱きしめたまま答える。


「莉々紗ちゃんは?」


「眠ってしまったみたい」


 先ほどまで小さな子供のように、わんわん泣いていた莉々紗。

 今はそれが嘘のように、純礼の胸の中で眠っている。


「莉々紗ちゃんを連れて下がってて。アイツは俺がやるよ」


「ええ。気をつけて」


「あ、そうだ」


 莉々紗を抱きかかえ離れて行く純礼に、天平が思い出したように声をかける。


「かっこよかったよ。純礼ちゃん」


 天平の言葉に純礼は一瞬きょとんとし、やがて微笑む。


「貴方も、かっこいいところ見せてね」


 天平はそれに笑みだけを返して皎に向き直る。

 そこに皎から斬撃が飛ぶが、球体との位置交換で回避。

 回避先でもう一つの球体をセッティングし、手を銃の形にして構える。


「"明星・射光"!」


 レーザービームを放つ。

 皎は避ける素振りすら見せず直撃。

 しかし、殆どダメージは見られない。


──アイツの蠱業物の能力は多分、受けた攻撃の威力を低下させることだ。

 

 天平は今までの戦闘から皎の持つ甲斐無星の能力を推測する。


──攻撃の無力化とかじゃないはずだ。さっき隊長に蹴り飛ばされてたし、そもそも、そんな能力なら隊長の翳月を封じる必要もない。


 皎から放たれる斬撃をかわしつつ、分析を続ける。


──どのくらい低下させるのかは分からないけど、隊長の蹴りは結構くらってたよな。ん? 待てよ。てことは、俺の抖擻発動より隊長のただの蹴りのほうが威力上なのか? マジ?


 知りたくなかった事実にショックを受ける天平。

 しかし落ち込んでもいられない。


「考え事か?」


 皎が迫る。

 天平は思考を中断し、上空を指差す。


「"明星・遍照"!」


 上空に位置する球体が強烈な輝きを放つ。

 それは触れるものを焼き焦がす灼熱の光だが、


「目眩ましか? ちゃちな技だ」


 甲斐無星の薄い光を纏う皎には、ただ眩しいだけのようだ。


「くそっ!」


 照射される灼熱の光をものともせず突きを繰り出す皎。

 天平はバックステップで回避。

 

「球体との位置交換でかわせよ。お家芸だろ?」


「いちいち嫌味な奴だ」


 天平は言い返しながら、五つの球体をすべて自分の前に配置する。


「他の使い道があんだよ」


 球体から球体へ光の線が伸び、光り輝く五芒星が出来上がる。


「"明星・射光──"光芒桔梗"!」


「──っ!?」


 五芒星状のレーザービームが放たれる。

 周囲を照らし、突き進むレーザービームは皎を呑み込み、やがて消える。

 残光に影が浮かぶ。

 人型の影が。


「おいマジかよ……」


 その影は勿論、皎。

 多少の火傷を負っているが、戦闘に支障がでる程ではない。


「今のが奥の手か? なら終わりだな」


 嘲笑うような言葉を吐き、刀を構える。

 天平は脱力したように棒立ち。

 それを見た皎は酷薄な笑みを浮かべる。

 しかし次の瞬間、驚愕の顔に変わる。


「まさか……使えるのか!?」


「"かけつい"──"てんてん明星あけぼし"」


 右手で刀印を組み、顔の前でかざし、憑霊術の極致と擬神の名を唱える。


 そして降臨するのは、霊験あらたかに光り輝く巨大なオニヒトデ。

 棘に覆われた触手をうねうねと動かし、中央部分の宇宙空間のような空洞に無数の星々を煌めかせている。


──勝部め……! 詳細な情報を寄越せと言った筈だぞ……雑な仕事をしやがって。


 目障りな程に光り輝く明星を苦々しい表情で見上げる皎。

 彼は勝部に天平や純礼の戦闘能力に関する情報などを調べさせていたが、どうやら不足があったようだ。


「なんだ知らなかったのか?」


 天平は言いながら、小石を蹴り上げる。

 次の瞬間には、それが皎と位置を入れ替える。


「なっ!? がっ!」


 いきなり天平の目の前に移動し驚く皎。

 目を見開き困惑する皎の顔面を、思い切り殴る。


「どうした? レーザービームくらっても平気そうにしてたくせに、ただのパンチでずいぶん痛そうだな」


「ハッ……。お前もたいがい嫌味な奴だよ」


 神威によって甲斐無星の力が無力化される。

 それにより、天平の攻撃は本来の威力をダメージとして皎に与える。

 皎が刀で斬りかかる。

 それは天平に直撃したにも関わらず、皮膚で止まり、斬り裂けない。

 次の瞬間には、刀が小石と入れ替えられた。


「ぐおっ!」


 さらにもう一発殴りつける。

 皎は小石を投げ捨て、手を開く。


「甲斐無星!」


 小石との位置交換で遠く離れた場所に打ち捨てられていた甲斐無星がひとりでに飛び上がり、皎の手元へ。


「そういうことも出来るのか」


 感心したように言う天平に、再び位置交換を発動。

 入れ替えたのは自分と甲斐無星。

 先ほどまで天平のいた場所に甲斐無星が現れ、甲斐無星を握る筈だった皎の右手は天平の左手を握っている。


「なにっ……ごあっ!」


 皎を引き寄せ、腹に膝蹴りをいれる。

 さらに立て続けに頭突き。

 それでも皎は怯まず、甲斐無星を引き寄せながら距離をとる。


「"射光"」


「うおおおおおおおおおおっ!」


 明星の中心部にある宇宙空間から無数の星が降り注ぐ。

 それに晒されながらも皎は後退を続ける。

 剥がされ飛び散る地面の破片を足場に上空へ逃れようとする皎。

 そこに明星の触手が迫る。


「ちぃ!」


 刀を振るい迎撃する皎。

 刀と光り輝く棘だらけの触手がぶつかる。

 当然、触手が打ち勝ち、皎の身体へ刀ごと沈む。

 全身を襲う激痛と骨が軋む感覚を最後に、皎の意識は暗闇の底へと叩き落された。



           ☆



 皎という名前は本名ではない。

 本名は荒薦あらごも 恭太郎きょうたろう

 生まれは島根。

 どこにでもいるような普通の子供だった。

 両親がクズであることを除けば。


 父親は刑務所に服役中の人殺し。

 母親は股に脳みそがあるような淫売。

 

 二人暮らしの狭いアパートが母の仕事場だった。 

 自宅売春。

 身体を売って金を稼ぐ。

 そんな家で恭太郎の居場所は押し入れの中だった。

 朝学校に行って、夕方に帰る。

 食事や入浴を済ませた後、母に促され、押し入れに入る。

 押し入れの中にランドセル、靴、ほんの僅かな服とともに押し込まれる。

 家の中に恭太郎の存在を示す痕跡はなにもなかっただろう。

 

 暗い押し入れの中でひたすら時間が過ぎるのを待つ。

 慣れてしまえば退屈なだけだったが、母の仕事中・・・は辛かった。

 耳を塞いで、ひたすら終わるのを待つ。

 押し入れの襖には、針で開けられたような小さな穴があった。

 外を覗くこともできないような小さな穴。

 そこから漏れる、今にも消えてしまいそうな光を、恭太郎はただじっと見つめていた。


 そんな生活は、ある日突然終わった。

 学校に行く時間になっても母が押し入れを開けてくれない。

 仕方なく、恭太郎は勝手に出た。

 母の姿は無く、テーブルにお金が置かれていた。

 それから数日、恭太郎は一人で過ごした。

 朝学校に行って、夕方に帰る。

 食事や入浴を済ませた後、誰に言われるでもなく、自分から押し入れに入る。

 それでも、母は帰ってこなかった。


 結局、母は失踪扱いとなり、恭太郎は児童養護施設に入所。

 そこで、ある男と出会った。

 彼が"父さん"と慕うことになる男。

 その男に新たな名と力と居場所を与えられた。

 人を殺したことも何度もある。

 それに罪悪感を抱いたことはない。


 皎は思った。

 血は争えない。

 クズの子供もまた、クズなのだ。



           ☆



 皎がハッと目を覚ます。

 気を失っていた時間は、一秒にも満たない。

 彼はまだ落下の最中だ。

 一回転し、着地を決める。


「弑逆礼法使えないんだろ? 勝ち目はないぞ。投降しろ」


 天平が降伏を促す。

 しかし皎に、その意思はない。


「投降だと? 笑わせる」


 そう言って、刀を水平に構える。


「弑逆礼法は使えないが、対抗手段はある。お前ごときに使うのは癪だが」


 左手で刀身の根本をぐっと握る。

 それにより出血。

 蠱業物が担い手を斬ることはないが、ある儀式・・を行う場合に限り例外的に担い手の肉体に刃を通す。

 血を刀身に塗るように、左手を鋒の方向へ動かす。

 刀身が、血で真っ赤に染まる。


「"神衂かむさび"──"しろぼし"」


 突如、純白の光が場を包んだ。

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