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眾禍祓除 SHU-KA-FUTSU-JO  作者: タカノ
第三章
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第四十六話『lose control(a top)』

「どこまで行くねん!」


「うおっ!」


 洋館前から離脱し、いつまでも走り続ける廻に、夏鳴太が怒鳴りながら電撃を放つ。

 廻は振り向きながら回避する。

 

「やっぱ大阪人は気が短いじゃんよ」


「アホか。並の大阪人やったら、もう五分早よどついとるわ」


 刀の峰で肩をとんとん叩きながら夏鳴太は言う。


「こう見えて俺は鷹揚おうようやねん。鷹揚て分かるか? 分からんやろな。熟語なんて四つくらいしか知られへん顔してるわ。お前」


「いきなりすっげえディスるじゃんよ」


 廻は言いながら両手で周囲の木に触れる。

 みしみしと音を立てながら木が抜け、回転しながら夏鳴太に迫る。


 夏鳴太はそれを電撃を帯びた斬撃で斬り裂く。

 迸る電撃と斬り裂かれてバラバラになる木で夏鳴太の視界は一瞬だけ完全に遮られる。

 廻はその隙をついて回り込み、横合いから蹴りかかった。


「ちっ。うおおおおおおおおおっ!」


 蹴りは腕で防いたが、独楽の能力で身体が回転する。

 そのまま飛んでいくが、四方を木に囲まれた山の中では長く吹き飛んではいられない。


「痛った!」


 木に数回の衝突を繰り返して、倒れ込んだ。

 そこへ廻が追撃をしかける。

 拳が触れる瞬間、夏鳴太は自身の身体を雷へと変えた。


「──ッ!?」


 感電し、すぐさま腕を引っ込める廻。

 夏鳴太は追い打ちをかけるように刃を振るう。

 廻は後ろ向きに跳躍。

 刃は上半身をわずかに掠め、少量の血が飛び散る。


「身体を雷に変えられんのか? 面倒な能力じゃんよ」


 言葉とは裏腹に余裕気な廻。

 右手を前方にかざす。


「"独楽つむくりてん"」


 廻の右手の前方にある空気。

 それが回転を始め渦となり、やがて竜巻と化した。


「ん?」


 雷は本来、不定形だ。

 決まった形などなく、様々に変化する。

 今の夏鳴太は霳霞霹靂の力によって人間の姿を保っているが、外から力が作用すれば、それは揺らぐ。

 ましてやそれが、竜巻となれば──


「うおおおおおおおおおおっ!?」


 夏鳴太の身体が拡散・・する。

 首や腕や足が本来の形を失ってゆく。


「あかんあかんあかん!」


 慌てて雷化を解除。

 それにより人の形を取り戻すが、竜巻が直撃。


「どわあっー!」


 上空に巻き上げられ、そこから急降下。

 そこへ廻が迫る。

 着地に意識が行き過ぎていた夏鳴太は気づけず、蹴り飛ばされた。


「ぐおおっ!」


 回転しながら吹き飛ぶ。

 先ほどよりも回転が早く、木をへし折って突き進む。


「こんのっ!」


 一瞬だけ身体を雷に変え、強引に回転を止める。


「ドタマきたわ」


 着地する夏鳴太。

 身体のあちこちに裂傷と打撲を負っているが、それに構わず、立て膝の状態で抜き身のまま居合斬りの構えを取る。


「"どうためし・一ツ胴"──"えん迅雷じんらい"」


 刀を鋭く振り抜く。

 横薙ぎの雷が放たれる。

 それはやがて燕を象り、凄まじい速度で廻に迫る。


「なんっ……がああああああああああああああっーーーーー!」


 自身の反応速度を大きく超えた攻撃に、廻は防御も回避もかなわない。

 上半身に直撃を受けて吹き飛んだ。


「完璧に決まったわ」


 江戸時代、刀剣の斬れ味を確かめるための試し斬りが行われていた。

 試し斬りの対象は人間。

 生きた人間を使う生き胴試しや、死体を使う死人試しといった方法で行われていた。

 その際には人体を重ね、いくつ斬り落とせるかが試された。

 一つなら一ツ胴、二つなら二ツ胴、三つなら三ツ胴と呼ぶ。

 

 帶刀家の開祖はその試し斬りを御役目とする御様御用おためしごよう・山田浅右衛門家の弟子。

 蠱業物の担い手となり独立してからも、御様御用として培った技術は帶刀家でも継承されていった。

 夏鳴太が今放った技は、霳霞霹靂の歴代の担い手たちによって、御様御用の技術と霳霞霹靂の力を組み合わせて作られた剣術だ。

 生き胴様は対霊能者用、禍霊相手には死人しにんためしとなる。

 呼び名が違うだけで、技は同じ。

 夏鳴太はその指南書も霳霞霹靂と一緒に持ち出していた。

 そして、この夏休みの間に鍛錬し、いくつかを習得していた。


「こんくらいじゃ死なへんやろ。いつまで寝てんねん」


 夏鳴太の言葉が聞こえたのか、廻がゆらゆらと立ち上がる。

 上半身には裂傷があるが、雷で焼け焦げて血は止まっている。


「うっ……ううああっ……」


 その裂傷ではなく、頭を押さえながら呻く。

 夏鳴太はそれを静かに見つめる。


「ああああああああああああっ!」


 廻を中心に霊力の奔流が巻き上がる。

 そして現れたのは、二本の腕。

 肘から先の部分だけが虚空から伸びており、手の平には口がある。

 

「これが純礼の言いよったやつか」


 掛祀禍終じみた力に、明らかに正気を失った様子。

 純礼から聞いた話を思い出し、夏鳴太は警戒を強める。 

 

「ほな第二ラウンドといこか」


 夏鳴太が刀の鋒を向ける。

 二本の腕はそれに反応し、手の平をかざす。

 独楽の抖擻発動である転颶てんぐによる竜巻攻撃が放たれる。

 先ほど放たれたものより大きく、数も二つ。

 夏鳴太はそれに平突きの構えを取る。


「"生き胴様・二ツ胴"──"蛇舌じゃぜつ雷光らいこう"」


 突きと同時に、まるで光線のように雷が放たれる。

 それはやがて二股に分かれ、二つの竜巻を貫き消滅させ、なお突き進む。

 廻目がけて突き進む雷を、腕の一本が盾になって防ぐ。


「アマメーッ!」


 雷を受け、手の平の口から絶叫をあげる。

 大きく開かれた手の平の口に、もう一本の腕が手を突っ込む。


「オエエエエエエエエエッ!」


 そして口から長い紐が取り出される。


「なんや?」


 怪訝な表情で見つめる夏鳴太。

 口から紐を出した方の腕が、周囲の木を数本へし折り、握る。

 するとそれが、みしみしと音を立てながら変形してゆく。

 やがて出来上がったのは、巨大な木製のこま。

 もう一方の腕が、それに紐を巻く。


「触れた物を回転させる能力から触れた物をこまに変える能力に進化したゆうことか? やっぱ掛祀禍終ちゃうんか、これ」


 怪訝な表情のまま言う夏鳴太。

 それに対して巨大なこまが放たれる。


「"生き胴様・一ツ胴"──"飛燕迅雷"」

 

 雷の燕が飛ぶ。

 こまを容易く破壊し、二本の腕へと襲いかかる。

 それを紐を持たない方の腕が握る(・・)

 すると、雷の燕はバチバチと音を立てながら、こまに変形。


「は?」


 呆然と見つめる夏鳴。

 その間に紐が巻かれ、雷のこまが放たれた。


「──っ!? があああああああああっ!?」


 木製のこまとは比較にならない速度の雷のこまに回避も防御も間に合わない。

 

「かっ……あっ……!」


 身体を焼き焦がし、うずくまる夏鳴太。

 蠱業物も担い手が自身の刀で傷つくことはない。

 霳霞霹靂によって発生した雷ではあるが、こまになった時点で独楽の能力という扱いになる。

 そのため、夏鳴太にダメージが通ってしまった。


「さすが霳霞霹靂の雷や。痺れるわ」


 ふらつきながらも立ち上がる夏鳴太。

 それを見た独楽はこまを作り出す。


「雷までこまに変えられるんは驚いたわ。せやかて雷しか出せんからな。ゴリ押しさせてもらうで」


 言いながら、刀を上段に構える。

 刀身にバチバチと雷が迸る。


「"生き胴様・三ツ胴"──"しょう雷鳴らいめい"」


 刀を振り下ろす。

 雷の斬撃が放たれ、それはやがて虎を象り疾走する。

 ゴロゴロゴロ。

 雷鳴そのものの咆哮音を響かせながら駆ける虎を、こまが迎撃。

 しかしそれは、容易く喰い破られる。


「アマメー!」


 その虎をもこまに変えんと、独楽の手が迫る。

 それに対し、虎も自身の前足を差し向ける。

 雷そのものの爪に、握る暇もなく独楽の手は斬り裂かれた。

 もう一本の手も同じように斬り裂き、その奥にいた廻に突撃。


「ぐああああああああああああああーーーーっ!」


 雷に噛みつかれ(・・・・・)大絶叫。

 周囲の木々を吹き飛ばして出来た大きなクレーターの中心に倒れ込んだ。


「死んでへんよな……」


 クレーターに降り、廻の安否を確認する。

 全身に火傷を負う重体だが、息はあるようだ。

 それを確認し、夏鳴太は「ふぅー」と息を吐いた。


「思ってたより強かったわ。天平や純礼は大丈夫やろか」


 ひとりごちて、洋館のある方向を見る。


「少し休んだら加勢に行ったるか……」


 夏鳴太も少なくないダメージを負っている。

 連戦は難しいと判断し、クレーターに座り込んだ。

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