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眾禍祓除 SHU-KA-FUTSU-JO  作者: タカノ
第三章
45/58

第四十五話『ANTI DARK SUPER STAR』

「……」


 弾かれた刀身を見た後で、視線を光線が飛んできた方向にやる皎。

 最初に天平、続いて純礼と夏鳴太、最後に喬示が現れる。 

 四人は蕎麦屋からタクシーで山の麓まで行き、そこからは徒歩でここ──移転前の児童養護施設である洋館にやって来た。


「思ったより早かったな」


 天平は皎の言葉には答えず、球体を飛ばす。

 皎が後退すると球体と位置を交換し、野津を抱きかかえ、また位置を交換し戻る。


「大丈夫ですか?」


「はい……ありがとうございます」


 礼を言いながら、よろよろと立ち上がる野津。 

 左肩上部を斬り裂かれているが、命に別状はないようだ。


「こいつが蠱業物持ちか」


「高嶺喬示だな? お会いできて光栄だ」


 喬示と皎の視線が交錯し、場の緊張感が高まる。


「廻! 海石榴つばき!」


 皎が叫ぶと館から廻が出てくる。

 その数秒後に名を呼ばれたもう一()


「これ……」


 それ(・・)から感じる異様なプレッシャーに天平が冷や汗を流す。

 この感覚に彼は覚えがあった。


癲恐てんきょう禍霊かりょう……!?」


 白装束に身を包んだ妖艶な女。

 見た目は人間にしか見えないが、全身から禍々しい霊気と癲恐禍霊特有の恐怖の波動を放っている。


「あ……あああああああああっ!」


 野津が全身をガタガタと震わせ、膝から崩れ落ちる。


「野津さん!」


「う、うああ……」


「俺たちは間世に転移するから、あんたはここで応援を呼んで待機しててくれ。良いな?」

 

 膝をついて目線を合わせ、言い聞かせるような喬示に、野津は首を何度も上下に振る。

 

「禍仕分手」


 それを待って、純礼が禍仕分手を発動。

 野津以外の場にいる全員が間世に転移される。


「なんで寄処禍と禍霊がつるんどんねん」


「なにも知る必要はない。お前らは今から死ぬんだ」


「誰が死ぬって?」


「っ!?」


 目にも止まらぬ速度で駆け出した喬示が皎に蹴りを放つ。

 皎は咄嗟に刀身を盾にすることで直撃は防ぐ。

 しかし蹴りの威力を受け止めることはできず、吹き飛んだ。


「"独楽つむくり"」


 喬示の先制攻撃によって戦いの火蓋が切られる。

 廻が憑霊術を発動し純礼に接近。


「"臈闌花"」


 大量の花びらが宙を舞う。

 それらは廻を迎え撃とうとするが、そこに大量の水が飛来した。


「水を操るのね」


 水を放ったのは癲恐禍霊・海石榴。

 

「分析してる暇はないじゃんよ」


 大量の水に地面に叩き落された花びらを踏み荒らしながら廻が迫る。


「"霳霞霹靂"」


「ぐおおっ!」


 そこに雷が落ちる。

 直撃こそ避けたが、それなりのダメージを負い後退。

 そこへ、


「おらよっと」


「がっ!?」


 喬示の蹴りが飛ぶ。

 身体をくの字に曲げて、海石榴目がけて吹き飛ぶ。

 海石榴はそれをひらりとかわすと、喬示を指差す。 

 すると虚空から大量の水が発生。

 それは逆巻きながら喬示に迫る。


「"翳月かげづき"」


 喬示は棒立ちで憑霊術を発動。

 黒い靄が発生し、喬示の全身を包み込む。

 逆巻く水が喬示に直撃。

 しかし喬示が纏う黒い靄に触れたそばから消滅する。

 翳月の能力は靄に触れたものを消し去るというもの。

 こうやって身に纏えば、あらゆる攻撃を寄せ付けない無敵の鎧となる。


「お前らの攻撃なんざ聞かねえよ」


「そう言ってられるのも今のうちだ」


 見下すような喬示の言葉に、復帰した皎が反論する。


「莉々紗」


 皎に名を呼ばれ、莉々紗は頷く。


「"愛痣めであざ"」


 莉々紗が憑霊術を発動。

 光に包まれ、魔法少女の姿に。

 そのまま浮遊し、ステッキを天にかざす。


「『世界が闇に包まれた時、もっとも明るい星とともに輝く』!」


 宣誓めいた言葉が放たれる。

 その言葉通りに、莉々紗の纏う服が光り輝く。


「"星をおいて(アンタイダーク・)闇の敵なし(スーパースター)"」


 光が消えると、莉々紗の姿に変化が。

 メイド服のようだった服がゴシックなドレスに。

 白を基調とし、細部に金の装飾。

 頭部には純白のティアラが輝いている。

 これはアニメ『魔法少女ティンクルいろは』の主人公いろはの強化フォームだ。


「なんだぁ?」


 怪訝な表情で見上げる喬示。

 次の瞬間には、彼の纏う靄がすべて消え失せた。


「あ?」


 困惑する喬示。

 自分の意思で憑霊術を解除したわけではない、にも関わらず靄は消え、新たに出すこともできない。


「なんなんだ?」


「彼女の能力ですね」


 状況を飲み込めない喬示に純礼が言う。


「彼女の能力は『魔法少女ティンクルいろは』というアニメの主人公に変身する能力です。そのキャラの能力に闇の力を封じるというものがあります。翳月が闇の力と判定されてるのかと」


 説明を行う純礼。

 彼女は野津から莉々紗の力を聞いた後で、アニメについて調べていたのだ。


「つまり、どういうことだよ?」


「彼女があの力を使っている限り、隊長は憑霊術を使えないってことです」


 思いっきり顔を顰める喬示。

 そこに皎から斬撃が飛ぶ。


「猿回しに猿無しで芸やれって? 冗談きついぜ」


 それを回避し、喬示は純礼に言葉を返す。


「私に言われても困りますよ。彼女に発動を止めてもらわないと」


「つってもな……」


 どうしたものかと考える喬示に、皎、廻、海石榴が迫る。

 まずは廻。

 身体のどこかに触れようと手を伸ばす。

 喬示はそれをかわし、逆に手首を掴み返して投げ飛ばす。


 次に海石榴。

 巨大な水の砲弾を放つ。

 喬示は右足を上げ、地面を思いっきり踏みつける。

 地面に亀裂が入り、礫が舞い上がる。

 それは水の砲弾を瓦解させ、飛散させる。


「"甲斐かい無星なきぼし"」


 最後に皎。

 キラキラとした薄い光を纏いながら突撃。

 刀での突き。

 喬示は横に移動しかわす。

 それを追うように薙ぐ。

 喬示はかがんでかわす。

 これでもかと、刀が振り下ろされる。

 喬示はかがんだ姿勢からバク宙。

 その際に刀を蹴り上げ、着地の瞬間に宙を舞う刀の柄のかしらを蹴りやる。

 それは皎の腰に提げられた鞘に向かって飛び、そのまま収まった。


「なにっ!? があっ!」


 強制的に納刀された刀に視線をやる皎。

 その隙をつかれ、腹に蹴りを受ける。


「……そう簡単に行かないか」


 軽業師さながらの曲芸に翻弄され、またしても蹴り飛ばされた皎。

 鋭い目つきで喬示を睨むが、彼の視線は上空の莉々紗に。


「お嬢ちゃんは来ないのか?」


「う……」


 喬示にそう言われ、逡巡する莉々紗。

 憑霊術を封じられた状態で皎たちを一蹴した喬示の実力に恐れをなしているようだ。


「莉々紗ちゃん」


 そんな莉々紗に今度は天平が声をかける。


「もうやめるんだ。あいつらになにを吹き込まれたのか知らないけど、君は利用されてるんだよ」


「……うるさい」


「野津さんを斬ったのはアイツだろ。それなのに、なんでまだそっちにいるんだ!」 


「うるさいうるさいうるさい!」


 莉々紗は叫び、両手を広げる。


「"星に願いを(アナイアレイション)"」


 周囲一帯の空を光が埋め尽くす。

 強化フォームで繰り出されているためか、朝の戦いの時よりも格段に範囲が広い。


「おいおい」


「隊長! 私のそばに!」


 純礼は花びらの壁を頭上高くに作り、自身と防御手段を持たない喬示を守る。

 天平と夏鳴太も朝の時の戦いと同じ手段でやり過ごす。


「馬鹿かよおい!」


 爆撃に晒されているのは天平たちだけではない。

 味方への配慮がない範囲攻撃に廻が非難の声をあげる。

 こちらも各々のやり方で爆撃をやり過ごす。


「落ちつけ莉々紗。まずは高嶺喬示から始末するんだ」


 皎は莉々紗にそう言うと再び喬示に突撃。


「"臈闌花・刳為咲"」


 それを花びらのドリルを携えた純礼が阻止する。


「隊長の能力を封じて四人がかりで仕留める。良い考えだとは思うけど、こっちも四人いるのよ」


 刀とドリルが何度もぶつかり合う。

 純礼は花びらの刃を舞わせ、それでも攻撃を行うが、薄い光を纏った皎の身体には殆ど傷がつかない。

 それを見て訝しむ純礼だが、ゆっくり考えている暇はない。

 

「っ!」


 海石榴から水の散弾が放たれる。

 花びらでは防ぎきれず、腕や足に傷を負う。


「"明星・射光"」


 天平から海石榴にレーザービームが飛ぶ。

 海石榴は攻撃は中断。

 天平はそのまま海石榴を追撃しようとするが、


「ヘレルベンサハル!」


「うおっと!」


 モーニングスターを振り回す莉々紗の襲撃を受ける。

 

「"明星・射光"──"きん"!」


 二本のレーザービームが放たれる。

 一つはヘレルベンサハルの先端を弾き、もう一つは海石榴に。

 海石榴はそれをかわし、標的を天平に変更。

 それにより純礼は皎に集中。

 さらに喬示もそれに加勢する。


「ちぃっ!」


 純礼と喬示の二人相手に劣勢に追い込まれる皎。

 纏う光の力かダメージは殆どないが、防御に追われ攻勢に出ることが出来ない。


──やはり他の連中が邪魔だな。


 喬示の憑霊術を封じ、四人がかりで殺害するという作戦は現状でまったく上手くいっていない。

 その最大の理由は喬示以外の三人の存在。

 皎は当初、大した障害にならないと考えていた。

 高嶺喬示に攻撃を行いながら、その片手間で殺せると。

 しかし、天平たちの実力は皎の想定を大きく越えていた。

 その結果、喬示を四人がかりで殺すどころか、その喬示に加え純礼まで一人で相手をする羽目になっている。

 自分や海石榴が最大戦力を解放すれば状況は変わるだろう。

 だがその場合、味方がそばにいるのはかえって邪魔になる。

 そこで、皎はやり方を変えることにした。


「プランBだ! 海石榴!」


 皎が叫ぶと、天平と交戦している海石榴の足元から水が湧き出る。

 それは瞬く間に周囲を浸す。


「ん?」


 喬示の足元に達した水が球状に収束し、喬示ごと宙に浮く。

 それと同じように、海石榴も水の球体に乗って浮く。

 皎の言うプランBはバラけて戦う一人一殺。

 その場合、喬示の相手を海石榴が請け負うことも決めていた。

 癲恐禍霊の海石榴なら、一対一でも─憑霊術を封じられた状態の喬示になら─勝てるだろうという考えだ。

 仮に勝てなくとも、負けはしないはず。

 自分や廻が各々の相手を始末したうえで加勢に行けばいい。

 皎はそう考えている。

 自分が負ける可能性は微塵も考えていない。


「隊長!」


 天平が球体を撃ち落とそうとするが、皎から斬撃が飛び阻止される。


「タイマンがお望みなら受けて立ってやるさ。お前らも負けんなよ」


 喬示が手を振りながら言うと、水の球体はさらに上昇し飛んでいく。


「俺らも場所変えるじゃんよ」


「好きにせえや」


 夏鳴太と廻も場を離脱。

 場には天平と純礼、皎と莉々紗の四人が残された。

 ここから戦いは激化の一途をたどる。




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