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眾禍祓除 SHU-KA-FUTSU-JO  作者: タカノ
第三章
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第三十九話『魔法少女現る』

「やめなさーい!」


「うおっ!」


 現れたのは中学生くらいの少女。

 白と金色を基調としたセパレートのメイド服のような服を身に纏っており、髪は金髪のツインテール。

 右手には先端に星のついたステッキを握っている。

 全体的にアニメキャラのコスプレのような出で立ちのその少女は本多を見ると、ビシッと指を指す。


「アナタが絞殺魔ね!」


 そう言うやいなや右手のステッキで本多の頭を思い切り殴りつける。


「ええっ!?」


 やめなさいと言いながら天平の攻撃を阻止した少女が、次の瞬間には本多に暴行を加える。

 その光景に面食らう天平。

 一方の少女は本多が気を失ったのを確認すると、くるりと振り返る。


「私は魔法少女りりさ!」


「魔法少女!?」


「アナタも寄処禍ね! 悪人!?」


「え!? いや、俺は拝揖院って組織の……」


「嘘つき! アナタみたいな人見たことないよ!」


「俺は本部の所属で……って、え? 拝揖院を知ってるの?」


「こら〜! 莉々紗ちゃ〜ん!」


「ヤバっ!」


 天平の困惑をよそに場の流れがさらに変わる。


「もう行かなきゃ! 絞殺魔はあのオバサンに預けて! お姉さんとの約束だよっ!」


 少女はそう言うと、可愛らしくウインクをして去っていく。


「お姉さんって……どう見ても年下……」


 嵐のように現れ去っていった少女を天平はただ呆然と見送るしかなかった。



           ☆



 絞殺魔を捕らえ拘束した天平たちは島根支部に帰還。

 現在は先ほど出会った"魔法少女"についての説明を受けていた。


「あの子は一色(いっしき) 莉々紗(りりさ)。この島根支部で保護している少女です」


 二人に説明を行う四十代くらいの女性。

 莉々紗がオバサンと言った女性で、名を野津(のづ)

 島根支部の職員だ。


「生まれつきの霊能者で七歳の頃に両親を禍霊によって殺され、それ以降ここに。十三歳になった先月に寄処禍に覚醒しました」


「先月。まだ成り立てという訳ですね」


「それで、あの魔法少女っていうのは?」


 天平がもっとも気になっていたことを聞くと、野津は難しい顔をする。


「なんと説明したらいいか……。まずはこれを見て下さい」


 野津はタブレットを二人に見せる。

 その画面には『魔法少女ティンクルいろは』というアニメのキービジュアルが映されている。

 

「アニメですか? あれ、このキャラ……」


 キービジュアルの中心にいるキャラクター。

 このアニメの主人公であるそのキャラクターの姿は、まさに先ほど見た莉々紗そのものだった。


「このキャラクターのコスプレをしてるってことですか?」


「コスプレではなく変身しているんです」


 そう言うと、野津はタブレットを操作し別の画像を。

 そこには一人の少女。


「これが莉々紗ちゃんの普段の姿です」


 そこにいるのは眼鏡をかけた黒髪の少女。

 顔立ちは整っているが地味な印象で、先ほど出会ったのは殆ど別人のようだ。


「つまり、このキャラクターに変身するのが憑霊の能力ってことですか?」


「随分と珍しい能力ですね」


「覚醒したばかりなうえに、あまりこちらに協力的でもないので詳しいことは……」


「協力的でないというのは? そういえば先ほども野津さんから逃げるように去っていきましたよね」


 純礼の言葉に野津が頷く。


「元々、莉々紗ちゃんは禍霊と戦いたがっていたんです。自分を庇って両親が亡くなったことに罪悪感があるようで……。禍霊を祓うことでそれを拭い去ろうとしているような」


「サバイバーズ・ギルトというやつですね」


「とはいっても戦う力はありませんし、なんとか言い聞かせていたんですが……」


「寄処禍に覚醒したことで事情が変わったと」


「はい……」


 野津が弱々しく返答する。


「こちらの指示に従ったうえでなら何の問題も無いのですが、独断専行が常で。このままでは矯正施設行きになりかねません……」


「矯正施設って?」


 天平が小声で純礼に耳打ちをする。


「保護観察が必要な寄処禍を収容する施設よ。()(きゃく)(りょう)の内部にあると聞いてるわ」


「へぇ〜」


「我々としてもそれは本意ではありません。しかし、まともに話も聞いてくれない状態でして……」


「それなら俺たちが話をしてみますよ。同じ寄処禍で歳も近いし、多少は心を開いてくれるかも」


「本当ですか? ありがとうございます!」


 礼を言う野津に「いえいえ」と返す天平。

 純礼はまたお人好しを発揮していると半ば呆れていたが、今回は問題が問題なため口には出さなかった。



            ☆



 島根支部でそんな会話が交わされている頃、話題の中心人物である一色莉々紗は松江市内をぶらついていた。

 本人がパトロールと呼ぶこの行為は、彼女が寄処禍に覚醒して以降の日課となっている。


「あっ!」


 人に紛れ道を歩く禍霊を発見。

 赤いワンピースを着た三メートルはあろうかという長身の女性。

 目のない空っぽの眼窩で周囲を見回している。


「禍仕分手!」


 大声で禍仕分手を発動し禍霊とともに間世に移動。

 周囲の歩行者は突然の大声に何事かと莉々紗に注目。

 次の瞬間には莉々紗が忽然と消え失せる。

 それを見た数人の歩行者は狐につままれたような気持ちになりながらも、それぞれに納得のいく答えを自分で出しながら去っていく。

 莉々紗のこうした行為は寄処禍の存在が露呈しかねない危険なものであり、矯正施設行きになりかけている最大の理由だが、彼女はまるで気にしていない。


「アラ? アラアラアラアラアラアラ」


 間世に転移された禍霊は首をかしげながら莉々紗を見る。

 一方の莉々紗は既に戦闘態勢。


「行くよ! "愛痣めであざ"!」


 莉々紗の身体を光が包む。

 光が消えると、Tシャツにショートパンツという服装から白と金色を基調としたセパレートのメイド服に様変わりした莉々紗が現れる。

 眼鏡が消え、髪も黒から金髪に変わりツインテールに。

 両腕には白のフィンガーレスグローブ。

 アニメ『魔法少女ティンクルいろは』の主人公そのものだ。

 アニメのファンが見たらさぞ驚くだろう姿だが、生憎と今その姿を見ているのは禍霊だけ。


「変身完了!」


「アラアラアラァ!」


 変身を終えた莉々紗に禍霊が蹴りを放つ。

 莉々紗はそれを軽やかな動きで回避し、右手に握る先端に星のついたステッキで殴りつける。


「アウッ!」


 怯む禍霊をさらにステッキで殴打。

 その次は蹴り。

 攻撃というよりは暴行といった感じで莉々紗の攻勢は続く。

 しかし禍霊もやられっぱなしではない。


「アラァッ!」


「わっ!?」


 禍霊がバレリーナの如くに足を振り上げる。

 そのまま高速で回転し莉々紗に迫る。


「おとなしくしなさい!」


 ステッキで殴りかかるが、蹴り飛ばされる。


「あっ!」


「アラアラアラアラァ!」


 武器を失った莉々紗を追撃。

 先ほどのお返しとばかりに蹴りで暴行を加える。


「うっ! あっ!」


 身体を丸めガードする莉々紗だが、着実にダメージは蓄積している。

 さらにステッキを手放している状態では反撃もままならない。 

 寄処禍に覚醒して日も浅く、戦闘経験も少ない。

 さらに莉々紗は憑霊の能力をほとんど使いこなせていない。

 今まで戦った禍霊はそれでも倒せるレベルの相手だったが、今回は違ったようだ。


「アッラァーン!」


「ああっ!」


 身体を丸めている莉々紗をサッカーボールのように蹴り飛ばす。

 倒れ込む莉々紗に向けて、右足を持ち上げてかざす。

 服と同じ真っ赤なヒールのトップリフトが鋭利化する。

 それを莉々紗の脳天目掛けて振り下ろす。


「っ!」


 思わず目を閉じる莉々紗。

 しかし次の瞬間響いたのは、莉々紗ではなく禍霊の悲鳴だった。


「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!」


「えっ!?」


 禍霊の右足が切断されている。

 右足と血と、星のようなキラキラとした粒子が宙を舞う。

 莉々紗がその光景に目を奪われている間に禍霊は全身を切り刻まれ消滅した。


「大丈夫か?」


 現れたのは高校生くらいの男。

 

「う、うん……」


 莉々紗は呆然とした様子で男を見る。


「アナタは……」


 莉々紗の言葉に男はしっかりと向き直る。

 その右手には鍔に星の意匠が施された純白の日本刀が握られている。


「俺はきょう。君は?」


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