第三十七話『調査開始』
カフェで軽食を取った二人はタクシーで出雲市に移動。
青駕来に憑霊術の扱いを教えた人物が運営しているという児童養護施設に。
施設のリビングで純礼が職員の女性に話を聞く。
そこの窓から見える広い庭では、天平が施設の子供たちとサッカーをしている。
子供の一人からパスを受け、右足を振り抜く。
放たれたシュートはゴールポストの上を飛んでいった。
「外したー!」
「宇宙開発ー!」
「お兄ちゃんヘタクソー!」
「ごめーーーーーん!」
子供たちに野次られる天平。
その後も純礼が聞き込みを終えるまで子供たちと遊び続けた。
「なにか分かった?」
子供たちと別れ施設を後にし、聞き込みの成果を聞く。
「成果はあまりないわね」
首を振って純礼が答える。
「ここを運営している社会福祉法人は、五年ほど前に変わってるのよ。施設の場所も移転して、当時の職員ももう全員退職されてる。青駕来に憑霊術を教えたとされる人物が運営していたのは以前の話になるわね」
「じゃあ、知ってる人は誰もいないんだ」
「でも、それ以前に施設で働いていた方の情報を貰ったから、今から会いに行きましょう」
タクシーで松江市に戻る。
やって来たのは松江フォーゲルパーク。
花と鳥のテーマパークだ。
「ここ?」
「ええ。定年されていて、ここでよく絵を描かれているそうよ」
しばらくパーク内を探索するとベンチに座り、スケッチブックに絵を描いている女性を発見。
「山口信子さんですか?」
「ええ。そうですけど。どちら様?」
純礼は山口という女性に適当な事情を説明し、聞き込みを行う。
「あの児童養護施設が設立された頃から勤務されていたんですよね」
「そう。去年定年退職して、今はここで絵を描く日々よ」
「凄い。お上手ですね」
「ふふふ。ありがとう」
スケッチブックに描かれたいくつもの花と鳥の絵を見て、天平は感心したように言う。
「以前にあそこを運営していた社会福祉法人の代表の方はご存知ですか?」
「勿論。天見 逸臣という方よ」
「あまみいつおみ。あまみは天に見ると書く字ですか?」
「ええ、そう。いつは逸脱の逸で、おみは大臣の臣ね」
「ありがとうございます」
純礼はメモ帳を取り出し書き留める。
「どういう人物でしたか?」
「物腰が柔らかくて、とても感じの良い人だったわね。でも、自分の話は全くしない人だったから、謎めいた人でもあったわ。だから知ってることは殆ど無いのよ」
「そうですか……。ちなみに、移転する前の施設はもう取り壊されて?」
「いいえ。まだ、そのままの状態で残ってる筈よ。場所教えましょうか?」
「お願いします」
山口から移転前の施設の場所を聞き別れる。
「移転前は随分と山の方にあったのね」
「そりゃあ移転する訳だよ」
教えてもらった場所を地図アプリで確認する二人。
「ここからまた出雲に行くのもなんだし、今日はここまでにして、明日の朝に再開しましょうか」
「それならさ、ちょっと回ってみない? せっかく入園料払ってるのに、すぐ帰ってたんじゃ勿体ないよ」
「それもそうね」
天平の提案で二人は園内を回る事に。
夏休みということもあって園内は非常に賑わっている。
「そういえば、純礼ちゃんの憑霊の臈闌花ってどんな花なの?」
センターハウスというエリアで色とりどりの花を眺める二人。
そこでふと思い出したように天平が問いかける。
「臈闌花は花の名前じゃないわ。臈闌けるという言葉があるのよ」
「じゃあ臈闌けた花って意味?」
「そうなるわね。意味合いとしては美しく洗練された花ってところかしら」
「へ〜。純礼ちゃんにピッタリだね」
なんの気無しに言った言葉だったが、すぐにキザな台詞を言ったと気づく。
「いや! 思ったことを言っただけで別に変な意味は無いよ!」
「なにを慌ててるのよ」
呆れたように言う純礼。
しかし、若干照れくさそうに前髪をいじる。
──なんか……すっごい青春って感じだ……!
純礼との間に流れる甘酸っぱい空気にテンションを上げる天平。
そんな彼を、試練が待ち構えていた。
☆
「ダ、ダブルブッキング……!?」
「大変申し訳ございません」
松江フォーゲルパークを後にした二人は松江市内のビジネスホテルに。
そこでホテル側のミスによるダブルブッキングが発覚したのだ。
「ツインルームが一室空いておりますので、そちらで宜しければご案内致します」
「それで構いません」
「ええっ!?」
こともなげに言う純礼に驚く天平。
「なに?」
「いや、なにって……」
──え? 男女が同じ部屋に泊まるのって普通のことなのか? 俺がおかしいのか? そりゃ確かに俺たちは偽装カップルではあるけどさ。ここでその設定守る必要別に無いし……。気にするほうが意識してるみたいでキモいか!?
「なんでもないよ! うん!」
天平は考えるのをやめ、ツインルームへの宿泊を受け入れた。
「シャワー浴びてくるわ」
「あ、うん! 行ってらっしゃい!」
シャワールームに行く純礼を見送り、ベッドに腰掛ける天平。
しばらくして、シャワーの音が聞こえてきた。
「………………」
──いやいや馬鹿! 想像するな!
シャワーを浴びる純礼の想像をしかけ、頭を振る。
「もうさっさと寝ようかな……。うん。それが良い。そうしよう」
ひとりごち、ベッドに入る。
コンフォーターをめくると、中に異様に青白い子供型の禍霊がいた。
某ホラー映画で見たような光景に天平は一瞬フリーズ。
「ミエテル?」
「明星ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
天平が絶叫で憑霊術を発動。
光り輝く球体が禍霊を消し飛ばす。
「どうしたの!?」
天平の絶叫を聞いた純礼がシャワールームから飛び出してくる。
一糸まとわぬ姿で。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「え? きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
それを見て先程以上の声量で絶叫する天平。
そのリアクションに自分の姿に気づき同じように絶叫する純礼。
この後二人は言葉少なめに夜を過ごし、かなり早めに就寝した。




