表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眾禍祓除 SHU-KA-FUTSU-JO  作者: タカノ
第二章
28/58

第二十八話『私刑人』

 串間弟との戦いの翌日。

 天平は池袋のあるヘッドショップを張り込んでいた。

 ヘッドショップとは大麻用品の専門店のこと。

 大麻が合法ではない日本のヘッドショップで扱われているのは主に煙草だが、中には密かに違法薬物を売っている店も存在する。

 天平が張り込んでいるのは、まさにそういう店だ。

 私刑人のターゲットには蛇蝎のメンバーだけではなく、ザナドゥを売る者、そして買う者も含まれている。

 この店は蛇蝎のメンバーが経営しており、当然ザナドゥの売買も行われている。

 そのため私刑人がやって来るかもしれないと考え張り込んでいるのだ。


「張り込みって暇だな」


 なにもない殺風景な部屋。

 その部屋で床に座ってスマホをいじる天平がいる。

 ここはあるテナントビルの一室。

 空き店舗だったのを捜査の為だけに第四部隊が借り上げている。

 すぐ隣がヘッドショップだ。

 壁に耳を当て様子を伺う天平。

 聞こえるのは微かな人の声と、店内BGMのヒップホップ。


「これなんて曲だろ?」


 BGMが気になった天平は楽曲検索アプリを開き、スマホを壁に押し当てる。


「う〜ん? これか? なんか違うような……」


 アプリが提示した曲を再生するが、普段ラップミュージックを聞かない天平にはいまいち判別出来ない。

 そんなふうに過ごしていると、店内から女性の悲鳴が聞こえた。

 天平は空き店舗から出ると、すぐさま隣のヘッドショップの店内に。

 そこで目にしたのはフードの男。

 すぐそばには汚泥と化した死体。

 さらに店員と思しき男と尻もちをついている客であろう女性。


「禍仕分手!」


 天平はすぐさま禍仕分手を発動。

 フードの男とともに間世に移動。


「お前が私刑人だな。拘束させてもらう」


「拝揖院か? 邪魔をするな」


 私刑人は手をパンッと叩き、消える。

 現世に戻ったのだ。


「え……? やべっ!」


 天平も慌てて手を叩き現世に戻る。

 店員らしき男は逃げたのか居なくなっているが、尻もちをついていた女性はそのまま。

 どうやら腰が抜けてしまっているようだ。

 私刑人が女性に手をかざす。


「やめろ!」


 天平は再び禍仕分手を発動。

 しかし私刑人はすぐに戻る。


──寄処禍相手だとこういうパターンもあるのか!


 間世に引き込んでもすぐに現世に戻る私刑人に辟易する天平。


──なら……!


「"明星"!」


「ッ!」


 憑霊術を発動し、球体を私刑人に飛ばす。

 それは避けられたが、球体との位置交換で私刑人と女性の間に移動。

 身体に纏っている光を消し、左肩に女性を担ぎ上げる。


「ちょっと失礼!」


 そこから別の球体と位置を交換し私刑人から距離を取る。


「なんでこの人を狙う? ただの客だろ?」


「ザナドゥを買おうとしていた。その金は蛇蝎に流れ奴らの資金源となる。共犯者と同じだ」


「だからって殺す必要はないだろ」


「議論をする気はない」


 私刑人が右手をかざす。


「"()端正(たんしょう)"」


 紫黒色の光が発生。

 それが天平へ迫る。

 球体との位置交換で回避。

 壁に当たると、壁が腐り落ちる。


──光に当たったものをドロドロに腐らせる能力か。

 

「女を置け。そうすれば君は見逃してやる」


「やなこった」


「なら、君ごと殺すだけだ」


 再び光を放つ。

 先ほどより範囲が広い。

 天平は店の外に待機させていた球体と位置を交換し逃げる。


──まずはこの人を避難させないと。


 そのままビルから脱出するべく走る天平。

 それを私刑人が追う。


「ん?」


 前を走る天平が階段を下ではなく上へ進む。

 私刑人はそれを訝しみながらも追う。

 やがて屋上へ出た。


「鬼ごっこは終わりか?」


 屋上の中心で立ち止まる天平に私刑人が言う。


「別にこのまま逃げても良いんだけどさ。ようやく見つけたのになんの手がかりもなしじゃなと思って」


 天平の言葉を無視し、私刑人が光を放つ。

 天平は球体との位置シャッフルで攻撃を

かわしながら私刑人に迫る。


「お荷物を抱えたまま戦う気か?」


「抱えてるんじゃなく担いでるんだけど?」


「お荷物を担いだまま戦う気か?」


「……律儀な奴だな」


 軽口に真面目に返す私刑人に面食らいながらも、するどい蹴りを放つ。

 私刑人は身体に紫黒色の光を纏う。

 それに触れれば足が腐り落ちるだろう。

 しかし天平は足と私刑人の間に球体を移動させ、サッカーボールのように蹴り飛ばした。


「ぐっ!?」


 球体を叩きつけられ片膝をつく私刑人。

 紫黒色の光に触れた球体はどろりと腐り落ちる。


「あれヤバいな」


 球体を一個失った天平だが、一旦解除したうえで、もう一度発動すれば戻る。

 これは明星のように物体を出す憑霊術に共通する特性だ。


「もういっちょ」


 再び球体をサッカーボールのように蹴り飛ばす。

 私刑人は光を放ちそれを防ぐ。


「ぜんぶ泥にされたいか?」


 強烈な光を放つ私刑人。

 それに向けて天平は手を銃の形に構える。


「"明星・射光"」


 球体からレーザービームが放たれる。

 それは私刑人の放つ紫黒色の光を素通りし、フードを掠める。

 それによりフードが焼き切れ、素顔が露わになる。

 整った顔をした大学生くらいの若い男。


「ちっ」


 露骨に顔を顰める私刑人。

 それを天平は銃の形にしたままの手でビシッと指す。


「顔、覚えたぞ」


 そして、ビルの下まで移動させていた球体と位置を交換し一気に屋上から離脱。

 そのまま走り去った。


「……」


 それを屋上から見下ろす私刑人。

 天平の能力を把握した彼は、逃げに徹されれば追いきれないと判断し、追撃を諦めた。

 そのまま禍仕分手を発動し、屋上から消え失せた。



           ☆



 私刑人から逃げおおせた天平は助けた女性を警察に引き渡した後、拝揖院本部へ来ていた。

 

「帚木くん。こっちこっち〜」


 拝揖院本部へ天平を呼び出した人物である梓真が手を振る。

 一緒にエレベーターに乗り、二階にある部屋へ。

 山積みの段ボールばかりで資料室かと思う天平だが、奥の方に明かりが見える。

 そこにはデスクとパソコン、そして仕事をしているらしき一人の男性。


「やっほ〜山岸く〜ん。頼みたいことがあるんだけど〜」


 山岸と呼ばれた男は梓真をちらりと見てため息を吐く。


「なんです? こんな時間に」


「こんな時間ってまだ六時じゃ〜ん」


「僕は遅くとも七時までには上がるので。それで頼みとは」


「探したい人間がいるんだよね〜」


 山岸はまたため息を吐くとパソコンを操作する。


「手早く済ませましょう。残業は人生の無駄ですから」


「それじゃ帚木くん。私刑人の顔の特徴を言ってくれる? なるべく細かくね〜」


 梓真に言われた通り、屋上で見た私刑人の顔を思い出しながら、その特徴を事細かに伝える。

 山岸はそれを聞きながら、パソコンになにかを打ち込んでいく。


「この中にいますか?」


 山岸に言われ、パソコンの画面を見る。

 そこには大量の顔写真。


「これは拝揖院の顔認証システムだよ〜。都内全域の監視カメラの映像から、今みたいに特徴を打ち込んで当てはまる顔を照合してくれるんだ〜。山岸くんがこのシステムを管理してる。こう見えて結構凄い人なんだよ〜」


「こう見えては余計です」


 梓真の説明を聞きながら、天平はゆっくりと確認していく。

 そして見つけた。


「あっ! こいつです!」


 天平が指を指す。

 間違いなく屋上で見た男だ。

 山岸が写真をクリックすると男のプロフィールが表示される。

 拝揖院のデータベースにはほぼ全国民の個人情報がある。

 

青駕来(あおがき) (たぎり)。岡山県出身で二年前に進学のために上京」


「私刑人の事件が起き始めた時期と一致するね〜。いや〜昨日の串間弟といいお手柄だよ〜帚木くん」


 梓真に褒められ天平は「ヘヘッ」と笑う。


「住所は荒川区のアパートです」


 山岸が住所の地図を出す。


「なんだうちの管轄に住んでたのか〜」


 梓真はスマホを取り出し、地図を写真に取り、なにかを打ち込む。


「禅を向かわせるよ〜。一応帚木くんも行ってくれる?」


「了解です!」


 天平はビシッと敬礼をして部屋を出る。


「貴方は行かないんですか」


「僕は別の仕事があるからね〜」


「そうですか。僕はしめやかに帰宅します。お疲れ様です」


「お疲れ〜」


 素早く静かに準備を終え部屋を出る山岸。

 

「さて。僕も行くかな〜」


 それを見送った梓真も、背伸びをしながら部屋から出ていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ