16話 思うようにはいかない戦況
開戦から一か月が過ぎた。
バーデン王国はプロイス帝国からの攻撃を防いだが、反撃には至れていない。
帝国の最新戦車Mk-Ⅴがバーデン軍の反撃を耐え堅牢に国境を超えさせない。
こちら側の戦線膠着から、帝国は本格的にポスポリタへ侵攻を開始、ポスポリタは総動員令をかけ、プロイス帝国の侵攻を阻止しようと動いたが、すでに国境地帯を超えられてしまっている。
帝国はMk-Ⅴのような最新兵器をこちらへ張り付け、予備兵力であろうMk-Ⅲ、Mk-Ⅳ戦車でポスポリタを攻めている。
「やっぱり三号戦車程度では帝国のMk-ⅣどころかⅢすら止められないわね」
私の発言にケイトも何とも言えない顔をしている。
開戦以降、シュミット家に入り浸り、つい先日もはや既成事実であるとでもいうように正式にシュミット家の籍に入った彼女は、旦那そっちのけで私の執務室にいた。
ちなみにこの流れは、戦争が始まったことで当主が戦場へ赴くことがほぼ決まっている貴族家において後継者となる息子や娘を早急に結婚させ、当主代理とする流れに乗ったものだ。
前線には出ていないにしても、フリッツもしばらく家に帰れないと手紙が若い士官から手渡されたほどだ。
タイプライターで打たれた文字に、直筆のサインだけという手紙だったが、自らの手で書いている暇さえないのだろう。
「航空機についてもF-3では損害が大きくなりすぎるとF-4の大増産を国から求められておりますわ。工場はフル稼働ですのにこれ以上は工場を増やす以外方法がないのです」
「私も、06式を超える新型を用意しろともいわれていますよ。研究は進んでいますがそうすぐに何とかなるものでもありませんからね」
航空機についても、帝国軍の航空機はなかなかの性能だった。
Me009となづけられた戦闘機はF-3複数機でやっと撃墜できるレベルだったらしく、当初の撃破数を稼いだのはF-4。
前線ではF-3はすでに予備役扱いの訓練機でしかなく、F-4が主力となったものの、軍全体の置き換えにはまだ時間がかかるという状態だ。
また、帝国は ”攻撃機” がそこまで強力ではなかったおかげでこちらの国境を抜けなかったというのがある。
こちらの攻撃機は敵Mk-Ⅴをいとも簡単に撃破できるが、護衛の戦闘機が足らない。
A-3だけを飛ばしても敵のMe009に狩られるだけだ。
戦線は膠着しているといっていい。
「膠着しているうちに、こちらは新型戦車を開発するしかないわね。06式でも正面で1,000m離れていれば撃破はされないとわかってきていますから」
「わたくしも前世の記憶やゲームのせいで、戦いはずっと続くものと思っていましたけれど、補給や軍の再編は指示しただけでは互いに終わらないんですものね」
そう、現在偵察などからも、双方の軍は再編や補給の最中。
大規模な作戦を行うには最低でも一か月は準備期間が必要だと試算されている。
一か月では戦力の補充はできても新型が完成することは不可能に近い。
より重装甲化するには現状の足回りでは不安が大きい。
かといって、装甲を減らす選択肢はもはやない。複合走行などの知識があればいいが、現状私一人でどうにかなるほどの知識はない。
あのあたりの現代戦車となると、装甲構造など機密情報であり一般人が知る由もないのだ。
とはいえなんの手も打たないわけにはいかないことから、追加装甲という場当たり的対処しかとることができなかった。
06式に追加の装甲板を固定し、防御力の底上げを行う。
もともと車高がそれほど高くない06式だが、さらに側面にエプロンのように装甲版をとりつける。
前世の記憶にあるシュルツェンだ。
砲弾への防御力は限定的だが、追加装甲としてとりつけるため、それなりの分厚さがある。
といっても10mmが限界。
対戦車ライフルや爆発魔法などへの効果はあるが、砲弾への効果のほどはあってないようなものだ。
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「必要物資の輸入と援助ですか」
「そうだ、ただし武器弾薬じゃない。食料品などの必要物資だ」
フリッツは連合軍司令部の執務室で渡された資料を見ながら部下に話しかけていた。
ロッテル、リュッセブル、メルシュの三か国から物資援助の条約が締結した。
この参加国はバーデン王国の北西部に位置し、デュッセル王国の真西に位置する。バーデンとデュッセルが負ければ、次は自分たちだとわかっているから支援を名乗り出たということだ。
だが、兵器輸出ではないのであくまで人道支援という名目で ”戦争には直接かかわっていない” と周辺各国にアピールしている。
あとはプロイス帝国からの報復の予防か。戦闘行為には加担していないし宣戦布告もしていないという。
「だが、助かるのは事実だ。バーデン国内だけで食料が足りるわけではない。ありがたく使わせてもらうべきだ。それより、新型戦車の設計やF-4の量産体制はどうなっている?」
「戦車のほうは試作車ができるまでまだ2週間はかかると連絡がありました。F-4の量産は現状10機/日が限界です。何よりボトルネックは翼です。薄板板金製造がひっ迫しており、この最大日産数は確保できないといわれています」
「戦争においてこれほど工業力が重要になるなど、だれが考えたか……いやキャロルはずっと言っていたな」
「奥様がですか?」
「あぁ、ルイザン伯爵に高炉のほかに圧延設備の増資をしきりに持ち掛けていた。特にプロイス帝国の動きが怪しくなってきてからは顕著だったが、その投資によって鋼材がダブついて価格が下がりすぎれば採算が取れなくなるからな。伯爵は慎重だった」
「経営者としては当然の判断かと思いますが、今思えば惜しい状況ですね」
「誰も戦争など望んでいなかったからな」
フリッツはため息をつく。
妻であるキャロルは先を見通していたといっていい。しかも自分の息子の嫁となったカタリーナ・フォン・シュミットもだ。
二人ともやたらと重工業の成長を訴えていた。
それはここに紐づいていたことだった。
今ぼやいても仕方がない。どちらの設備も「お願いします」「できました」なんて簡単にいくものではない。
それに、戦時中だから必要なだけであって戦後に必要となるかと言えば、復興などでは使えるだろうが過剰な生産設備というのはダブつくものだ。
王国議会で採決され可決されたとはいえ、F-4の追加の工場については戦後どうするのかという問題がすでに上がっている。
カタリーナ嬢には何か考えがあるらしいが、軍需産業では成り立たないだろう。
何もかもうまくいかないなとフリッツはたまる書類に手を付けた。




