おばあちゃんのホットケーキは涙の味
「お待たせ。パンケーキどうぞ」
親友のミチコがダイニングテーブルにパンケーキを並べた。
「そうだよね。パンケーキ、だよね」
「……うん。パンケーキ、だねぇ」
「ホットケーキって知ってる?」
「ああ、絵本であるよね?」
「うん。小学校の時さ、『ホットケーキ』で揶揄われたことあったんだ」
「ホットケーキで?」
「うん。うちさ、お母さんがいないじゃない?」
「チサコのこと置いて居なくなっちゃったって言ってたね」
「ひどいよね」
「お祖母様が育ててくれたんだよね?」
「うん。おばあちゃんだから『パンケーキ』なんて言葉使ってなくてさ、うちでは『ホットケーキ』が当たり前だったんだよね」
「まあ、絵本もあるし、通じると思うけどね」
「相手が小学生だったからさ」
「あー、残酷なお年頃だよね」
「うん。ミチコは違うクラスだったからアレだけど、大好きな食べ物を作文に書いて授業参観で読むってのがあったのよ」
「あー。うちもやってたかも。もしかして言われちゃった?」
「うん。『パンケーキだろ? ダセェ』ってレンくんが」
「レンってそういう奴だよね。え! まさかお祖母様、参観に?」
「珍しくその時は」
「あちゃー」
「わざわざ仕事を休んでくれて、たまにはチーちゃんが頑張ってるとこ見たいわって」
「レン、罪深い」
「すぐにカズミが絵本読んだことないの? って応戦してくれて」
「カズミ正義感強かったもんね」
「うん。教壇で読んでたからおばあちゃんが目に入ったんだけど、めっちゃ俯いてた」
「そっかぁ」
「二人で手を繋いで帰ったんだけどさ」
「うん」
「終始無言」
「あー、重いー」
「しかも、その日用意してあったおやつがパンケーキ」
「シナジー感じるわー」
「トースターで温め直して食べたんだけど、なんかもう泣けちゃってさ」
「うんうん」
「でも、子供心に食べなくちゃ、完食しなくちゃって気が急いてね」
「お祖母様に悪いなって思っちゃったのかな」
「涙混りのホットケーキ。それ以降、おやつには出てこなくなっちゃった」
「……そっか」
「うん。だからね、久しぶりに食べるんだ。『ホットケーキ』」
「お祖母様の四十九日が終わったばかりだっけ」
「うん」
「……なんか今日、急に作りたくなったんだよ。それ」
「……そっか。あ、冷えちゃったね」
「温め直そうか? うちにもトースターあるよ」
「いいよ。ありがと。大丈夫。いただきます」
「……召し上がれ」
「……おいし」
「そう。ありがと」
あの時の味だ、とチサコは思った。
完




