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異世界商売記  作者: 桜木桜
第五章 番外編
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裏話 第三話 恋愛Ⅱ

お待たせ

 レア・アスマという少女がいる。

 母親の髪色と、父親の瞳を受け継いだ女の子だ。

 母親は言うまでもなく、父親もそこまで悪くない顔を持っていたため、その子供であるレアが美少女なのは自明と理であった。


 両親と違うのは表情。

 いつも眠そうで、つまらなそうな表情をしていた。

 不機嫌だからではない。

 デフォルトである。


 レアの最大の特徴は天才であることだ。


 レアの天才エピソードの始まりは三歳のころからだ。

 三歳でレアはキリス語の読み書きがすでに出来るようになっていた。これだけならまだ早熟な子供で説明できる。


 あるとき、ハルトが読書をしているレアに声を掛けた。

 一体何を読んでいるのかと。

 絵本かな? と思ってハルトは覗き込んだ。

 そして仰天する。


 レアはデニスが趣味で収集している哲学の本を読んでいたのだ。


 ハルトはデニスを呼び出して、どうしてこんな本を貸したか尋ねた。


 デニスは言った。

 「この子は天才ですよ! 今日、レアちゃんを家に呼んだ時、レアちゃんは俺の本を読んでたんです。どうせ内容は理解してないだろうと思って聞いてみたら、しっかりと理解してるんですよ! さすがにそれを読んだうえで自分の意見をもつまでには至っては居ませんでしたが……それでもすごいことです!」

 デニスはレアが如何に天才か持て囃した。


 ハルトは親馬鹿である。

 だがさすがにスケールが大きすぎて、信じなかった。


 ハルトは哲学の本を買ってきてレアに読ませ、内容を聞いてみた。

 レアはすらすらと答えた。


 ハルトはさすが俺の娘だと全力で褒めた。褒めまくった。


 五歳になり、レアの興味は言語に移った。ハルトはレアの為ならばとロマーグ語、ガリア語、シルシニア語の家庭教師を付け、アイーシャとセリウスに頼んで砂漠の民と雪原の民の言葉を教えさせた。


 レアは七歳までにそれらを全てマスターした。


 だがレアはそれら五言語を習得すると、あっという間に言語への興味を失ってしまった。興味を失えば努力することもせず、他の言語を憶えることはなかった。


 レアが次に興味を持ったのは錬金術である。

 ハルトは金に物を言わせて当時、高名な錬金術師を呼んだ。最初はハルトとレアをバカにした術師も、数時間後には顔を青くした。


 レアは一年で錬金術師の持っていた知識を吸収しつくした。


 そして錬金術師が

 「もうわしが教えられるものなどない」

 と言って去ると、レアはまたも興味を失ってしまう。


 次にレアが興味を持ったのは石鹸である。ハルトは大喜びした。ついに俺の出番が来たと。

 ハルトは自分の分かる限りの石鹸の知識や技術をレアに伝授する。レアはスポンジが水を吸収するように覚えていく。


 だがハルトも多くは知らない。地球ではあくまで趣味のレベルでやっていたのだ。本業になったのは異世界に来てからである。


 だがレアとしては不満である。だからレアは自分で勝手に調べ始めた。今まで覚えた知識を総動員して。

 そして思ったのだ。このグリセリン使えないのか?


 (お父さんが言うにはただのお肌にいい不純物……でも勿体無い!)


 そう思ったレアはグリセリンの研究を始めた。

 だが研究にはお金がかかる。


 八歳の少女に多大なお金を援助する人間など……居る。


 ハルトである。

 親馬鹿病という不治の病に侵されていたハルトは喜んで資金と人材を提供した。当然、もしかしたらもしかするかもという期待くらいは抱いていたが、本当に何かを作れるとは思っていなかった。


 二年が経過した。そしてレアは硝酸と反応させることで爆発物を作りだした。ニトログリセリンである。

 さすがのハルトもびっくり仰天した。そしてレアはそれだけでなく、当時、製造方法が公開された火の秘薬―黒色火薬とニトログリセリンを組み合わせることでダイナマイトを作りだした。


 さすがのハルトも焦った。これほどのものとなると、国に報告せざるを得なくなる。


 ハルトは急いで帝都まで出向き、ダイナマイトについて報告をした。



 「さすがはハルト・アスマと言ったところか? まさか俺も公開して五年で新しいモノができるとは思わなかったぞ」

 ウェストリア帝は上機嫌でハルトを褒めた。


 火の秘薬は元々国の防衛機密で、製造方法は秘せられていた。だがいつまでも秘せていては新しい発明品が生まれない。

 そう判断したウェストリア帝が思い切って公開したのだ。

 現段階、帝国と剣を交えることができる……というかそもそも国がない。とはいえ、重要機密をそんな簡単に公開するのはやめた方がいいと多くの家臣に大反対された。だがウェストリア帝はそれらを強引に押し切った。


 そういう背景があったため、ウェストリア帝は大喜びしたのだ。


 ハルトはダイナマイトを作ったのは自分の娘だとことは伏せた。

 

 ウェストリア帝は有能な人材が大好きだ。

 しかも女好きである。繰り返し書くが女好きである。


 そんなウェストリア帝に天才で美少女で天使が舞い降りたのかと間違えてしまいそうになるレアのことを話したら間違いなく登用しようとするに違いない。


 ハルトはそう思ったのだ。


 当然ながらウェストリア帝は無理強いはしない。忠義のない人間をそばに置いても仕方がないからだ。

 そしてロリコンの気もない。ウェストリア帝の女最低ラインは十四歳だ。さすがに十歳の女の子を抱こうとするほど鬼畜ではない。


 とはいえウェストリア帝はイケメンである。年は取ってはいるが、そのイケメン顔は健在だ。


 故にレアが騙されてしまう可能性は十分にあり得た。ハルトの中では。




 ちなみにダイナマイトは国が指定した商会が指定された分だけ製造するという仕組みになった。ダイナマイトの供給の四割をアスマ商会が担うことになり、後にアスマ財閥を支える根幹商品となるのだがそれは別の話である。



 話を戻そう。


 レアはダイナマイトを製造し終わると、石鹸への興味を失った。

 次にレアが興味を持ったのは歴史である。


 歴史の書物を読み漁り、一年でロアの薀蓄の間違いを指摘して泣かせるレベルにまで理解を深めた。

 もう一年で歴史の専門家と議論を重ねられるほどにまで知識を深める。


 この頃になって、レアの興味は歴史から神話に移る。

 世界各地の神話という神話をレアは学んだ。


 レアは神話や歴史をひも解いていく過程で古代語にも興味を持ち始める。

 そして当時、解読ができていなかった古代語を解読して、一躍有名になった。レアが十五歳の頃だ。


 ハルトはウェストリア帝に再び呼び出される。

 今回はさすがにごまかしが効かず、レアのことを―ダイナマイトを開発したのもレアだと言うことも話してしまう。

 

 「その子を呼んで来い」


 勅命には逆らえない。ハルトは泣く泣くレアをウェストリア帝の目の前に連れてきた。


 ウェストリア帝はレアを舐めるような目で、特に胸や髪を見てから言う。

 「国営研究所に来ないか? 君がそこで出世したら君のお父さんも鼻が高いと思うよ」


 ウェストリア帝はあの手この手でレアを勧誘した。レアは眠そうな興味なさそうな目でウェストリア帝を見て、全て断ってしまう。


 「そうか。振られちゃったか。女の子にはあんまり振られた経験がないからショックだな……」

 ウェストリア帝は悔しそうな顔でそう言って、二人を下がらせた。



 二人が謁見の間から去った後、ウェストリア帝は額に手を当てる。


 「ああ! クソ。『麒麟児の加護』持ち……欲しかったのになあ。興味のある事柄に対して能力が数十倍に増大する加護。あの子が政治や軍事に興味を持ってくれればいいのに」

 ウェストリアは悔しそうな声で嘆いた。




 こうしてレアの貞操は守られた。



 レアは解読を終えると、考古学への興味を失ってしまう。


 次にレアが興味を持ったのは哲学。レアは哲学の本を読み始めた。


 現在十九歳。哲学の本を出版予定である。



_________


 

 ロズのという男がいる。


 彼はセリウスとマリアの間に生まれた子供だ。


 ロズはセリウスの『闘神の加護』こそ受け継がなかったが、『闘争の加護』をもって生まれた。


 ロズは十二歳の頃、父を下して剣聖の名声を手にした。


 セリウスが衰えたからではない。

 ロズが強かったのだ。


 セリウスの剣技はお粗末な物だ。

 腕力を生かして剣を振る。

 それだけだ。


 とはいえ、セリウスはそれだけで十分に強かった。

 そもそも雪原の民や砂漠の民は武術を習わない。


 彼らの敵は竜種。武術など役に立たないのだ。


 だがロズが住んでいるのはクラリス。普通の人間の街。

 彼は武術に触れる機会があった。


 ロズは武術を研究し、セリウスに勝利したのだ。


 父親を越えたロズに新たな敵が立ちふさがる。


 恋だ。


 ロズは十二歳。

 女の子を意識する年頃だ。

 そんなロズにとって一番身近な女の子はレアだ。

 幼いころから遊んでもらった、ロズにとっては姉に近い存在だ。


 そしてレアは当時十六歳。

 調度胸が膨らむ年頃。


 段々とエロくなるレアにロズは苦悩する。


 しかもレアはとても無防備な子だった。


 レアにとって男は種を用意する方で、女は植木鉢を用意する方。

 その程度の認識だ。


 実質弟に対する警戒心など無いに等しい。


 

 寝ぼけてボタンを掛け間違ってブラジャーを見せる。

 暑いからと言ってボタンを開けて、その状態で前かがみになって胸の谷間をロズに見せる。

 風が吹けばパンチラ。

 

 挙句の果てではロズが見ていないからと言って、同じ部屋で着替えを試みようとする。



 ある夏の日、ロズはレアを呼び出した。

 無防備なレアを叱るためだ。


 カフェでそれぞれ注文を終え、ロズは本題を切り出す。


 「姉さ……」

 「あ!」


 レアは水をこぼした。レアにはよくあることだ。


 季節は夏。

 夏になればみんな薄い生地の服を着る。


 レアも白いワンピースを着ていた。


 そのワンピースに水がこぼれたらどうなるだろうか?



 「あちゃー、零しちゃった。ハンカチ貸して」

 「……」


 ロズの視線はレアの胸元に釘づけになった。

 意外にもエロい下着をレアはつけていて、それが微妙に透けてすごいエロいことになっていた。


 パンチラ、胸チラはしょっちゅうだが、透けブラはロズにとって新しい。



 「ねえ、聞いてるの?」


 レアはロズに顔を近づける。長い睫に、良い匂いのするルビー色の髪の毛、黒真珠のような瞳、色っぽい唇、そしてDカップの大きさのおっぱい。


 「あ……」


 ロズはパンツが何かで濡れるのを感じた。


 ロズはこうして精通と初恋を同時に経験した。


________



 自分はレアのことが好きだ。

 

 ロズはそれを自覚した。


 手を繋ぎたい。

 デートに行きたい。

 劇場を見に行って、帰りに星空を見ながら笑いあいたい。

 あーんとかしてみたい。

 大通りの真ん中で見せびらかすようにキスをしたい。

 唇を貪りたい。

 嫋やかな双丘を掴みたい。

 揉みたい。

 喘がせたい。

 

 セックスしたい。セックスしたい。セックスしたい。


 だがロズにとってレアは高値の花である。


 

 美少女で、頭が良くて、千年遡れば帝室にも縁がある名家アルベルティーニの血を引いていて、父親は皇帝に一目置かれる存在で、レア自身も皇帝に勧誘されるほどの才覚を持っていて、キリスアのみならず帝国全土に影響力を広げているアスマ商会の跡取り第一候補。


 一方ロズは何なのか?


 剣聖などペンティクス皇子が死んだ時点で自称に過ぎない。

 父親は傭兵部門の副部長であるが、所詮副である。

 母親は宿屋と飯屋の跡取りだが、アスマ商会に比べれば吹けば飛ぶレベル。



 レアはいずれ貴族か豪商の息子を婿に向かえるだろう。ロズはそう思っていた。


 ロズは運命のXDAYを、レアから「結婚するから婚約者以外の男性と会えないんだ。ごめんね。さようなら」と言われる日を怯えながら待った。


 そして一年が過ぎた。

 XDAYは現れなかった。


 西方では結婚は早いに越したことがないと言われている。

 二十歳以上で結婚してないのは相当顔が醜いか、深い事情があるのどちらか。

 二十五を越えたら地雷物件だ。


 レアは十七歳。結婚しても可笑しくない。

 でもしない。


 ロズは知る由もないが、元凶はハルトである。


 ハルトはお見合い相手を難癖付けて全て断っていた。


 

 こいつは遺産目当てだ。ダメ。

 こいつは血筋目当て。ダメ。

 こいつはアスマ商会を乗っ取るつもり。ダメ。

 こいつはレアとは別の恋人がいる。ダメ。

 こいつは美人と結婚するということに満足したいだけ。ダメ。

 こいつは酒癖が悪い。ダメ。

 こいつは怪しい薬をやっている、ダメ。

 こいつは暴力を振るう。ダメ。

 こいつは口だけの男。ダメ。

 こいつは勉強以外取り柄のないバカだ。ダメ。

 こいつは貧弱。ダメ。

 こいつは間抜け。ダメ。

 こいつは顔だけ。ダメ。

 こいつはブサイク。ダメ。

 こいつは性癖が特殊すぎる。ダメ。 

 こいつはレアの顔しか見てない。ダメ。

 こいつはレアのおっぱいしか見てない。ダメ。

 こいつはレアの太腿しか見てない。ダメ。

 こいつはレアの尻しか見てない。ダメ。

 こいつはレアの髪の毛しか見てない。ダメ。

 こいつはレアの脇しか見てない。ダメ。

 こいつはレアの耳しか見てないダメ。

 こいつは……

 こいつ……

 こい……

 こ……

 ……



 といった具合である。『言霊の加護』を全力行使して人柄を調べ、少しでも日掛かったら即アウト。ハルトとしてはレアに幸せになって欲しい。その一心からの行動だ。



 ロズはそんな事情は知らない。

 だがチャンスであるということは分かった。

 野生の勘だ。


 ロズはついにレアに告白した。薔薇の花を九百九十九本そろえて。

 

 「好きです。俺とお付き合いしてください!!」

 世の女の子が憧れるようなロマンティックな告白を受けたレア。その解答は……







 「ごめんね。ロズは好きだけど、そういう好きじゃないんだ」



 



 玉砕した。




 ロズは自室にこもって泣いた。産声以来の初めての号泣だ。

 

 やはり自分にはレアは釣り合わない。

 別にいいじゃないか。ハルトさんが選んだ相手ならレアは幸せだろ。

 男なら女の幸せを祝えよ。

 俺は妄想で十分さ。一生独り身で孤独に生きていこう。


 ロズはぐずぐずと考えた。



 その時、ドアが開いた。


 「おい、ロズ。なんで泣いてるんだ!」

 「だって振られたから……」


 セリウスはロズを殴った。


 「そんなんでどうする? 一回ダメなら二回、三回告白しろ。ストーカーの罪で捕まるまでチャレンジしろ!!」

 セリウスは怒鳴った。

 

 「いいんだよ! 俺はレアが幸せならそれでいいんだ。本当に愛してるから、あいつが幸せならそれで……」

 「嘘だろ」

 セリウスはロズの胸倉を掴んだ。

 「耳障りの良い言葉で自分を慰めてんじゃねえぞ、馬鹿野郎!! お前はレアちゃんが欲しいんだろ。違うか!? じゃあ想像しろ。レアちゃんが他の男と抱き合ってる姿を。ベッドの上で愛し合ってる姿を! 他の男の子供で腹を膨らまして、嬉しそうに腹を撫でてる姿を! それでお前はいいか? お前は幸せか?」


 ロズは嫌悪感に顔を歪ませて顔を横に振った。


 「じゃあもう一度玉砕して来い!!」


 セリウスの言葉にロズは飛び上がり、走っていった。

 レアの元へ。


 「姉さん―いや、レア! 俺と付き合ってくれ」

 「ごめんね」


 「お願いします!」

 「興味ないから」


 「ちょっとだけでも!」

 「……五月蠅い」



 こうして二年が経過した。


_________



 「レア! 俺と」

 「五月蠅い、ストーカー!」

 レアはロズの頬を思いっきり張った。


 ロズは悲しそうな目でレアを見てから、言う。

 「……今日のところは引き上げます。明日また来ます」

 「もう来るな!」

 レアはトマトをロズに投げつけた。ロズの服が真っ赤に染まる。



 周りでは


 「また振られたか」

 「あれを見ると一日が始まったって感じがするねえ」

 「可哀想に。そろそろ答えてあげればいいんじゃねえ」

 「可哀想なのはレアさんだろ。あんな奴に付きまとわれて」

 「クソ、振られた。また俺の負けだよ」

 「お前はいつも成功する方に賭けるな。何でだよ」

 「ロズが可哀想だろ。それに成功の倍率は今じゃ千倍だぜ」

 「ひでえ商売だよな。男女の恋愛を賭博場の公式なゲームにするなんてよ」

 「でもクラリスの商人らしいよな」

 「ぎゃははは、それな! この街はやっぱり面白いね」

 「そう言えば知ってるか? レアちゃんから告白するが二十万倍だってよ」

 「すげえじゃん。でも賭けてる奴居んの?」

 「ネタでやってるやつは居るだろうな。マジで狙ってる奴はいなさそう」

 「でもさ、ロズってそこまでブサイクでもないし、強いだろ? この前だって一人で盗賊団を壊滅させたって聞いたぞ」

 「普通に優良物件よねえ」

 「モテる女の余裕ってやつでしょ。ムカつくわ」

 「そんなに余裕か? ハルトさん、また断っちまったそうだぞ」

 「誰が振られたんだ?」

 「中央のお偉い伯爵家の次男さんだとさ」

 「本当? どこに振られる要素があるのよ」

 「意地でも見つけてるんだろ」

 「レアさん、マジで行き遅れになるかもな」

 「あと一年か……」

 「もしかしたら俺が告ったらイケるかも?」

 「無理だろ。お前の顔じゃあ警察呼ばれるぞ」



 そんな声を聞いてレアはため息をついた。



 レアは別にロズのことは嫌いではない。今でも可愛い弟だと思ている。

 だがそろそろウザい。


 周りの人間にネタにされるのも不快だ。


 そもそもレアは結婚する気はない。

 子供は欲しいが、ロアやアーシャの「出産は鼻からスイカを出すようなものですよ」という言葉を聞いて諦めた。

 そんな辛いのは嫌だ。


 レアは周りのからかう声を耳を塞ぐことでシャットアウトして、その場から移動する。

 暫く歩いていると、人通りの少ない場所に出る。

 

 ようやく一息つけると思い、安心していると声を掛けられた。


 三人組の男だ。

 キリシア人ではない。

 服装と訛りからゲルマニス人であることが推測できる。


 レアは嫌な予感がした。

 鈍いレアでも分かるほど、三人はレアの体を嫌らしい視線で見ている。


 「……なに?」

 「いや、道に迷っちゃってさあ。教えてくんない?」


 三人はレアを取り囲んだ。


 「あっちを真っ直ぐ行けば大通りに出ますよ」

 「それは御親切に。お礼に俺たちと良いことしようぜ」


 一人がレアの腕を強引に捻りあげる。悲鳴を上げようとするレアの口に布を噛ませる。


 「……っつっぐんっぐく」


 レアは暴れるも、三人の男に抑えられては抵抗できない。

 男の一人がレアの顎を掴み、じっくりとレアの顔を観察する。


 「……間違いねえ、レア・アスマだ」


 レアは強引に裏路地に連れ込まれた。



 「袋を被せろ!」

 レアは袋を被されてしまう。どんなに抵抗しても拘束はほどけない。


 「これで遊んで暮らせるだけの身代金が手に入る!」

 「身代金をふんだくった後は……」

 「当然奴隷として売る。返してやるわけないだろ」

 「だよなー」

 「これなら高く売れるぜ」

 「なあ、ウィル。売る前に俺たちで調教しようぜ」

 「処女の方が高く売れるが……まあ身代金があるから良いか」

 「穴の調子が良かったら売らずに俺ら専属奴隷にしようぜ」

 「いいねえ」


 レアはその言葉を聞いて暴れる。手足を縛られ、布を噛まされて、袋に入れられている状況ではいくら暴れても無駄だ。


 暫く暴れていると、腹に衝撃が走る。続いて吐き気と鈍痛。


 「大人しくしてろ」


 その言葉を聞いて、レアは暴れるのをやめる。怖いからだ。



 「さて、馬車に詰めるぞ」

 「干し草の中に入れておけば絶対にばれねえ」

 「こんなところまでチャックしないからな」


 そんな声が聞こえ、しばらくすると袋に差し込む光の量が減る。干し草の中に埋められてしまったのだ。

 

 もうだめかもしれない。


 そう思った途端、レアの瞳から涙が零れ落ちる。


 (お父さん、お母さん、アイーシャさん……助けて……)


 レアがそう思った時、レアの耳にある男の声が聞こえた。


 「おい、そこの馬車! 止まれ」

 ロズの声だ。


 「何だ、お前?」

 「俺はロズ。その干し草の中を確かめさせてもらいたい」

 「一体どんな権限があってそんなことをするんだ、兄ちゃん」

 「権限はない。だがその干し草の中から女性―レアの匂いがする。だから確かめさせてもらいたい」

 「嫌だね。ふざけるっぐあ!」


 男の悲鳴が上がった。何かが壊れる音と、呻き声を響く。


 ガサガサと干し草を掻き分ける音が響く。


 「大丈夫か、レア!!」

 上から光が差してくる。レアが頭を上げると、そこにはロズが居た。いつもよりも七割増しにかっこよく見える。


 「ロズ君……」

 レアは思わず抱き付いた。そしてロズの胸の中で泣く。ロズは何も言わずにレアを抱きしめる。


 十分後、レアは顔を上げた。ロズの顔が見える。


 (あれ、いつの間に身長抜かされたんだっけ?)


 二年前はレアの方が高かった。レアは二年間、碌にロズの顔を見ていなかったことを自覚した。


 (こんなにがっちりした体格だったんだ……)


 レアはロズの筋肉の感触に驚く。

 


 レアはロズの服に付いたトマトと自分の涙のシミを見る。胸が押しつぶされるような感覚がレアを襲った。


 「……ごめんね」

 「ん? 何謝ってるんだ。好きな女の子を守るのは男として当たり前だろ。送ってくよ」


 ロズは笑顔でレアに言った。


 その言葉と笑顔を見た途端、レアの心に何かが落ちるような音が響いた。



______



 心に響いた音の正体が、自分が恋に落ちる音だと気づいたのは助けられてから三日後だった。


 三日間、レアはロズに顔を合わせるのが嫌で部屋に閉じこもってため、ロズの告白は受けていない。


 「よし!」


 レアは朝起きてすぐにクローゼットを開けて、母親が強引に寄越した余所行きの服を着る。いつもはしない化粧をして、ロズの家を訪ねた。



 「ねえ、ロズ君居ない?」

 「まあ、レアちゃん。今呼んでくるね」

 そう言ってマリアはロズを呼びだす。


 「レ、レア! ど、どうしたんだ?」

 そう言って慌てて飛び出てきたロズは寝間着だった。

 「ねえ、ロズ君」

 「な、何だよ」

 

 「私と結婚して」







 「は!?」


 

 ロズは目を見開いた。



 「……やっぱりダメだよね。ロズ君のこと、散々振って、ストーカー扱いして、トマトまで投げつけて……」

 レアは声のトーンを下げる。我ながら虫の良い話である。



 「なあ、レア」

 「なに?」

 レアは少し涙目で答える。


 「俺の頬を引っ張ってくれない?」

 レアは首を傾げてから、ロズの頬を思いっきり引っ張る。



 「痛てえ……夢じゃない……」



 ロズはレアに抱き付いた。



 「レア、その言葉に嘘はないよな?」

 「な、ないけど……」

 ロズはレアを絞めつけた。


 「よし、結婚しよう。今すぐ結婚しよう。早速ハルトさんのところへ向かうぞ!!」

 「い、痛い、ロズ君痛い……」


______



 「絶対にダメだ。認めない。断じてあり得ない!!」


 ハルトの声が響きわたった。

三人組「俺たち、恋のキューピット」

テンプレでごめんね

今度から俺の作品に出てくるレイプ魔(恋のキューピット)の頭の名前はウィル君にします。

新作にもウィル君は出てきます。


次回、恋愛Ⅲ

二人の愛に前に立ちはだかる大魔王(ハルト)

ハルトは二人の結婚の条件にあることを提案する。

だがそれは死の危険すらある条件で……

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