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異世界商売記  作者: 桜木桜
第三章 拡大編 第二部
31/60

第30話 家

時間が加速する!!


※3月24日 14時40分

 たった今、収支報告に税金を入れていないというミスに気付きました。よく見ると塩・薪代も入ってませんでした。修正します。

 17時36分

 修正終わりました。だいぶ収支が違いました。申し訳ありません。変更に伴って24話と30話を少し修正します。話の展開には支障はありません。

 「いやー、ハルトさん。思えば一年ですよ。1億円借りてから一年、私たちが出会ってから二年です。見てください、サマラス商会を!閑古鳥が鳴いてますよ。愉快ですね。このまま出ていけ!!」

 ロアはハイテンションな声で叫んだ。

 「お前は早朝からうるさいな。もう少し静かにしろ」

 「でも1億返済したんですよ。利子込みで。追加で3億ドラリア借りましたけどね。めでたいじゃないですか!」

 「まあ、そうだけどな」


 4月になった。本当にあっという間だ。1月には新しい奴隷宿舎と工場が完成して大量の労働力を確保することができるようになった。石鹸の大量生産も軌道に乗っている。雇った2級市民も仕事を覚えて、生産効率も急上昇している。


 一方サマラス商会は最初こそ好調だったようだが、あっという間に売り上げが落ちてしまったようだ。ハルトの作った高級石鹸にかなりの客を取られてしまったのが原因だ。ブランド名のおかげでギリギリ経営できているようだがかなり厳しいようだ。数か月後に販売する牛乳石鹸でとどめを刺す予定だ。


 「石鹸はまだまだ量産できますね。クラリスの需要はすでに満たしてしまいそうですが、砂漠の民……ウマルさんからかなり注文が来てます。それとクラリス以外の国の商人からも注文が殺到してますよ」

 「まあ、石鹸は腐らないからな。ちょっと重いが宝石ほどではないし。交易には使いやすいだろ」

 誰だって体はきれいに保ちたいのだ。わずか500ドラリアで買えるならみんな欲しがるのも当たり前だろう。


 とはいえアスマ商会にまったく問題がないわけではない。


 「でも最近材料費が上がってますね。好景気だと売れ行きもいいんですが材料費も高くつきますね。しかも昨年はオリーブが不作だったせいでかなり値段が上がってます。値上げしますか?」

 ロアは収支報告書を見ながら顔をしかめる。

 「仕方ないな。安いのが取り柄だから値上げはしたくないが……まあ、好景気だから大丈夫だろ。いくら上げるか……そうだな石鹸は600ドラリアにするか。高級石鹸は……4000ドラリアまで上げてしまうか?」

 ハルトはロアに言う。ロアは少し考えてから答える。

 「特に反対はありません。ですが急激にあげたら客が一気に離れる危険があります。ゆっくり値上げすべきですね」

 確かにその通りだ。ハルトはロアの意見を採用する。



 「あと問題といえば工場だ。もっと拡張したいが土地がない。安くて井戸があって広い土地があればいいんだが……」

 石鹸作りには大量の蒸留水が必要だ。逆に言えば条件はそれだけしかないがこれが意外に厳しい。

 「いっそのこと城壁の外に作りません?農村や漁村からの出稼ぎ労働者を集めるんです」

 「なるほど。2級市民よりも高くはつきそうだが土地が安いからいいかもな。……ところで今更なんだが農村とか漁村の人ってどういう扱いなんだ?1級市民なんだよな?」

 ハルトがそう聞くと、ロアはあきれた顔をする。クラリスに来て2年も経つのに身分制度を把握していないのだから呆れられても仕方がない。とはいえハルトにも言い分はある。アルカリやラードは城壁の外から仕入れているが、あくまでビジネス上の付き合いだ。今まではほかのことに気をまわしてあまり不思議に思わなかったのだ。


 「クラリスは商人が集まってできた都市です。それは分かりますね?」

 「それは耳が腐るほど聞いた」

 ハルトもまったく調べなかった訳ではない。図書館でいろんな本を暇を見つけて読んでいるのだ。クラリスの身分制度や建国史はかなり調べたが、なぜか漁村や農村はスルーしてあったのだ。


 「とはいえ商人が集まるまでまったく人がいなかった訳ではありません。いくつか農村もあり、漁村もありました。今の農村や漁村にいる人達はその子孫なんです」

 

 ロアの話によるとクラリスには世界中から集まった商人と、もともとこの地に住んでいたキリシア人の子孫の二つがいるらしい。商人は次々と先住民から土地を買い上げて大規模な農場を作ったり、工場をつくったりした。先住民と最初は共存していたが、財力の差によって先住民はどんどん追い込まれていき、今の農村や漁村の形になっている。今でも商人による搾取は続けられていて、具体的な名前は伏せるがユー○ックやブ○ンチ何かがその筆頭だとか。


 「というわけで城壁の外側の方々は法律的には1級市民ですが、生活レベルで言えば2級市民と同等、それ以下です。通称準市民です。もっとも、クラリスの商人も後ろめたい気持ちがあるせいかこの国では農村、漁村の存在はタブーです」

 「なんで農村や漁村の人は商売をしないんだ?それで解決するような……」

 ハルトがそう言うと、ロアは大きなため息をつく。正直かなりむかつく。


 「商人になるのは簡単じゃないんですよ?ハルトさんは石鹸の知識があって、加護の力で文字の読み書きができて、何より高度な教育を受けてきたから成功出来たんです、どれかが欠けていたらこんなに成功してませんよ。準市民の方は文字の読み書きもできないんですよ?どうやって狡猾なクラリスの商人と戦おうというんですか。具体的な名前は出しませんが……ブ○ンチさんに買い叩かれ、困ったところをユー○ックさんに付け込まれて借金漬けにされるという連携コンボで奴隷コースです。それに先祖伝来の土地というのは手放せないものです」

 「なるほど」

 偉そうな言い方はむかつくが分かりやすい説明だ。ハルトはようやく納得した。


 「要するに俺はそんな人達のために新しい職場を作るわけだ」

 「……それは視点の問題ですね。彼らから見れば安い賃金で働かせる資本家……いえ、なんでもありません」

 ハルトもだいぶクラリスの商人に染まってきていた。良くも悪くも。


 「ところで話は変わりますが……最近窮屈だと思いません」

 「え?何が?」

 ハルトは聞き返した。


 「部屋です」

 「狭いのは前からだと思うが……」

 ハルトは部屋を見回した。最低限必要な家具しかない質素で狭い部屋だ。2人で生活するにはかなり狭いが、寝るだけなのであまり気にしたことはない。


 「そもそも私たちは何でこんな部屋で生活してるんでしたっけ?ここは客室ですよ?」

 ロアはハルトに聞く。

 「金がなかったからだ」


 2年前、当時は金がなかった。できるだけ支出は避けたかったので、寝ることができればいいと思い、客間で寝泊まりしていたのだ。もっとも、現在はこの店を買い取れるほど稼いでいるが。


 「今のハルトさんの月収はいくらですか?所得税を抜いて」

 「えーと、3000万は超えてるよ」

 ハルトの月収は嬉しいことに毎月上昇している。だからハルトも詳しい月収は把握していなかった。


 「ここが月収3000万の人間の家ですか?」

 「要するに家を買えと、そう言いたいのか?」

 ハルトはロアに聞き返した。

 「そういうことです。別に豪邸を買えとは言いませんよ?でも人並み以上の家は買えるはずです。それに金持ちはお金を使わないといけないんですよ?」

 金持ちにとって金を使うことは義務だ。金持ちが金をたくさん使うことで経済は回るのだ。今やかなりの金持ちであるハルトには金を使う義務がある……っというのがロアの主張だ。


 「でも生活できてるじゃん。俺は趣味……今は仕事だけど石鹸作りができればいいんだよ。あとは寝泊まりできる場所と旨い飯があればいい」

 「夢のない人生感ですね……」

 ロアはあきれた目でハルトを見た。

 

 「だって俺、さとり世代だし……」

 「何ですかそれ?そんなローカルな話題出さないでください」

 ロアはそう言ってハルトの服をつかむ。


 「とにかく、ハルトさんは満足していても私は満足してないんです!それにほら、お風呂付きの家なんてどうですか?いつでも入れますよ?」

 「うーん、それは魅力的だな。でも広いと掃除が……」

 「掃除は私がしますから!とにかく、買いましょう!!」

 ロアは大きな声を上げてハルトの言葉を遮り、ハルトに家を買わせようとする。


 「そうだな。買うか」

 「やった!!」

 ロアは飛び上がって喜んだ。


________


 「で、家を建てたいんですけどどうしたらいいですかね?」

 ハルトはドモールに聞いた。


 ハルトは家の建て方を知らない。そもそも日本で家を建てたこともないのに、この世界での家の建て方なんて知りようがない。当然のことながらロアも知らない。


 「まずは建売で探してみたらどうだ?案外探せばあるものだ」

 ドモールはそう言って分厚い紙の束を取りだした。紐でまとめある。


 「安心しろ。俺は建売から建築まで全部やっている。俺にすべて任せてもらえれば問題ない。それで、どんな物件が欲しいんだ?」

 ドモールは紙の束をめくりながら聞いた。


 「俺は風呂があればいい」

 ハルトは興味なさそうに言った。

 「台所が広い方がいいです。小さくていいので庭も。できるだけおしゃれな家がいいですね、それでいて店……中央通りに近い方が便利ですね。将来的に子供は6人以上産む予定なので家は広い方がいいです。子供一人ずつに一人部屋を上げたいんで部屋の数も多めで。できれば新築で。他には(以下略」

 

 「さすがにないだろ」

 ハルトは呆れながらロアを見た。

 「あったぞ!」

 「え、マジで!?」

 ドモールはハルトとロアに資料を見せる。


 「ほら。条件はすべて満たしているはずだ。値段は2000万ドラリア!」

 ハルトは資料を読む。確かにロアの言った条件はすべて満たしていた。

 「でも安すぎません?」

 2000万ドラリアはいくらなんでも安すぎる。小さくて狭い店が2000万だったのだ。交通の便がいい場所なので土地代が安いということはあり得ない。怪しすぎる値段だ。


 「実は9か月前にここで新婚夫婦が心中自殺してな。そのすぐ後、3か月後に住んだ夫婦も自殺したんだ。そして2か月後……今から4か月前に住んだ老人も事故死してな。しかも夜な夜な叫び声が聞こえるだか聞こえないだか。でも条件は良いぞ」

 「面白そうだな。ここにするか」

 今まで興味なさそうにしていたハルトが急に興味を示した。


 「いやいや、何ですか!お化けが出るなんて!絶対嫌です。死んでもいやです。面白いで住居を決めないでください!!」」

 ロアはそう叫んで資料をドモールに押し付けた。


 「いいじゃないか。安いぞ」

 ドモールは資料を押し戻す。不良債権を何が何でも売りたいようだ。


 「絶対嫌です!!これ以上勧めたら破ります!!」

 ロアは資料を人質に購入を拒否する。ドモールは諦めて資料を戻した。


 「じゃあ普通に家を建てるか……土地はどうすればいいんだ?」

 ハルトがそう聞くと、ドモールは再び資料を取りだした。ロアは警戒するような顔で身構える。

 「土地はここに書いてある。確か交通の便がいいとこだよな?ほら、該当するのはこの15件だ」

 ハルトとロアは資料を読む。


 「これはどうだ?交通の便は良さそうだ。近くに店もたくさんある」

 「でも狭いですよ。こっちがいいです。馬車を使えばあんまり変わんないですよ」

 「こっちもおすすめだぞ。少し交通の便は微妙だが土地は広い。馬車があれば気にならんぞ?」

 ハルトとロアとドモールは暫く話あって、1つの土地を決めた。


 「分かった。こいつでいいんだな?取り敢えず3日後までに仮の設計をしておく。3日後来てくれ」

 ドモールはそう言って立ち上がろうとする。ハルトは慌ててドモールを引き留めた。

 「ちょっと待ってくれ。新しい工場を建てたいんだ。城壁の外側に。城壁の外の土地はあるか?」

 ハルトがそう聞くと、ドモールは肩をすくめた。

 「すまんがない。まあ、役場に聞いてくれ。農村の奴らから土地を買うのは大変だけどな。あ、工場を建てるときは言ってくれ。すぐに建てよう」


ハルトとロアはドモールに礼を言って別れた。


______


 ハルトとロアはドモールの勧め通り役場に向かう。


 「あ、ハルトさん。見てください。エル・スミスさんです。いま薬局に入っていきましたよ。胃腸薬でも買うんでしょうか?」

 ロアはエル・スミスを指さしながら言った。ハルトはロアの指をつかむ。

 「人を指さすな」


 そんな会話をしているとあっという間に役場に着いた。


 「すみません。城壁の外の土地を調べたいんです。資料を見せてください」 

 ハルトがそう言うと、係員は地図と資料をハルトに渡した。地図に書いてある土地は破線で小分けされている。それぞれの土地には番号が振ってあった。


 「なるほど。この番号の土地を資料で調べるわけか」

 ハルトは試しに扇状地にある広い45番の土地を調べてみる。

 「地権者は……ブランチ・エインズワースか。すごいな。リンゴを生産しているのか」

 さすがはクラリス三大商人のお一人である。これくらい大きな土地は当たり前に持っているのだ。


 「じゃあ早速探しましょう。水のことや輸送を考えると、街の近くで川に面した広い土地がいいですね」

 クラリスは大都市だ。大都市には大量の水が必要で、クラリスは大量の水を確保できる場所にいある。要するに川はたくさんあるのだ。ただし問題がある。


 「ほとんど誰かの土地になってますね。所有者は議員さんばっかりです」

 そういう便利な土地のほとんどは有力商人に買いつくされ、大規模な農業が行われている。

 「これはだめかもな。おとなしく城壁の内側の土地を買った方が……」

 ハルトが諦めかけたその時、ロアが大きな声を上げた。

 「見てください。ここ、農家の人の土地になってますよ。隣接している土地もです。全部買い取れば今の工場の4倍の規模になるんじゃないですか?」

 ハルトはロアが指をさした土地を見る。クラリスから少し遠いが、十分許容範囲だ。川も近くにある。


 「確かに……でもなんでだ?まあ、いっか。取り敢えず行ってみれば分かる」

 「そうですね。早速行ってみましょう」

 ハルトとロアはその土地に向かうことにした。


_______



 「さて、ようやく着いたわけだが……寂れてるな」

 ハルトは周りを見回した。人が一人もいない。畑も放置され、雑草まみれだ。

 「なんで放置されてるんですかね?別に土も極端に痩せている訳ではなさそうですし」

 ロアは自分の背の高さまで成長した雑草を見る。

 「でも工場を建てる分は問題なさそうだな。さて地権者の住所だが……」

 ハルトはメモと地図を取り出して、現在地を確認した。

 「ここから西の方の農村か。みんなここに固まっているな。すこし歩くか」

 ハルトとロアは農村を目指して歩きだした。


 「なんで放置されてるんですかね?」

 ロアは周りの畑を見ながらもう一度ハルトに言った。

 「さあ?誰かが自殺したとか?」

 ハルトが笑いながら言った。ロアは身震いする。

 「やめてください。まったく」

 ロアがそう言った瞬間、畑から草が擦れる音がした。ロアは飛び上がった。

 「な、何ですか!」

 「ほんとに幽霊だったりしてな」

 ハルトは楽しそうな顔で落ちていた木の枝を拾い、身構えた。ハルトは幽霊を見たことがない。だから楽しみなのだろう。


 草の擦れる音は大きくなっていく。間違いなくこちらに近づいている。

 「きゃああ」

 目の前の草が大きく揺れ、何かが飛び出してくる。ロアは思わず悲鳴を上げてハルトに抱き付いた。


 「ふむ、幽霊じゃなくて鬼だったか」

 出てきたのは鬼だった。とても恐ろしい顔をしている。牙をむき出しにして怒っていた。

 「出ていけ!!この土地から痛!!」

 「調子に乗るなガキ」

 ハルトは鬼……正確に言えば鬼のお面を被った子供を枝で叩く。子供は逃げようとするが、ハルトは子供の肩をつかんで逃がさない。

 

 「ひえ、助けて!差し押さえられる。奴隷にされる!!」

 「落ち着け。俺は金貸しじゃない」

 ハルトがそう言うと子供は逃げるのをやめてお面を取った。

 「え!?兄ちゃん達商人じゃないの?」

 ハルトは頭を掻きながら答える。


 「商人だけど金貸しじゃない。お前はあそこの村の人間か?」

 ハルトは前方に見える村を指さす。

 「そうだけど……何しに来たの?」

 「この土地を売ってもらいに来た」

 ハルトは地面を指さした。ハルトがそう言うと、子供は顔を輝かせた。

 「なんだ。じゃあお客さんじゃん。最初に言ってくれよ」

 

 ハルトとロアは顔を合わせた。ロアは子供と同じ目の高さになって聞いた。

 「どうしてこの畑は放棄されたんですか?」

 子供は笑って答える。

 「病気がはやったんだよ。作物のね。それで畑がダメになっちゃったから捨てたんだよ。村から東側の畑は全滅だけど、西側は生き残ってたから何とかなったわけ。生活はかろうじてできるんだ。でも借金があってさ。収入が半減したから利子が払えなくなったんだよ。それで金貸しは土地を売って返済しろっていうんだけどさ……東側の土地は200万ドラリアとか言って買い叩こうとするわけ。それに村長が怒っちゃてさ。宙ぶらりんな状況なんだよ」

 「で、お前は何で鬼になってたんだ?」

 ハルトがそう聞くと、子供は頭を下げて謝った。


 「ごめん。ふざけた。こっちに来て。たぶん村長が歓迎してくれるから」

 ハルトとロアは子供の道案内で村に向かった。




_____


 ハルトとロアが村に着くと、最初は訝しい目で見られた。だが子供がハルトとロアを『お客さん』と説明するととたんに好意的な目になった。

 しばらくすると偉そうな老人が現れた。村の寂れように反して非常に元気そうな老人だ。

 「ついてきなされ」

 老人はそう言って踵を返して歩いていく。ハルトとロアは老人についていく。

 

 ハルトとロアは村で一番大きな建物に案内され、イスに座るように促された。


 「さて、どのようなご用件で?商人殿」

 老人……村長は言った。

 「単刀直入に言うとあそこの土地を買いたいんですよ。2000万でどうですか?」

 金貸しが提示している金額の二倍だ。ハルトからすれば現在の工場の4倍近い広さの土地が2000万で手に入るなら何の問題もない。


 村長は少し眉を上げてから言う。

 「ダメだな。話にならん。1億でどうだ?」

 村長がそう言うと、ロアが横から言った。


 「それはこちらのセリフです。病気で死んだ土地が1億ですか?話になりませんよ。この辺りの地価から考えれば良くて6、7000万です。病気であることを考えれば2000万でも高いですよ。話になりませんね。他を当たりましょう。ハルトさん」

 ハルトとロアはそう言って立ち上がろうとする。村長は慌てて引き留めた。


 「冗談だ、冗談。だが2000万は安すぎる。我々にも事情があるんですよ。せめて4000万、いや3000万で」

 村長は手を合わせてハルトとロアに頼み込んだ。ハルトはため息をつく。


 「じゃあ2500だ。これ以上は安くできない」

 村長は暫く悩んでから契約書を取りだした。了承してくれたようだ。


 「一つ言っておきますよ」

 ハルトは名前を書きながら村長に言う。

 「同情を買う作戦はやめた方がいい。足元を見られる」

 ハルトとロアは立ち上がってその場を後にした。


_____


 「それにしても本当は5000万でも買い取って良かったんですけどね。工場だから病気とか関係ないですし」

 店に帰った後、ロアは笑いながら言う。

 「騙された奴が悪い。それにぼろうと思えばもっとぼれたぞ。1000万とかな 」

 作物を植えられない畑なんてただのゴミなのだ。


 「あ、何ですか?」

 ロアはハルトが手紙を持っているのを見て、尋ねた。

 「漁村……灰の仕入れ先の漁村の村長の方々からの手紙だ」

 一つの漁村からでは灰の供給は追いつかなくなったので、ハルトは複数の村と契約を結んでいた。今回の手紙はその漁村からの代表を名乗る人物からのだ。


 ハルトは手紙を広げて読み始める。

 「なんて書いてありました?」

 ロアはベットに座りながら聞いた。


 「値上げ交渉だそうだ」

 ハルトは無表情で言った。

8月から1月 新工場完成前


収入 3億9540万

支出 2億2200万(いろいろ)2000万(店)1186万(売上税)3954万(所得税)

売上-支出 1億200万

負債1億

残金1億2674万

実質財産2674万


その他財産

奴隷60

従業員

会計担当兼奴隷取締役 ロア・サマラス

会計輔佐 デニス 

現場指揮 アッシュ兄弟(姉妹)

傭兵 ラスク&プリン ラング・タルト


2月〜3月新工場完成後


収入 3億(借金)3億3000万(高級石鹸6万個+石鹸30万個)

支出 1億2160万(いろいろ) 1億1000万(年利10%)3000万(奴隷)990万(売上税)3300万(所得税)

売上-支出(元手は含まない) 1億2550万

負債 3億

残金 4億5224万

実質残金 1億5224万

奴隷 160

従業員

会計担当兼奴隷取締役 ロア・サマラス

会計輔佐 デニス 

現場指揮 アッシュ兄弟(姉妹)

傭兵 ラスク&プリン ラング・タルト


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