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異世界商売記  作者: 桜木桜
第三章 拡大編 第二部
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第24話 返済

 奴隷の売買システム。指摘が出る前に書いておきます。

 高級奴隷(見た目がキレイだったり、頭が良かったりする場合)

 警吏→国→競り→商人→消費者

 通常奴隷

 警吏→国→商人→消費者

 ロアの場合

 警吏→国(ユージェックが代理)→ユージェック→ハルト


 ユージェックは議員なので多少の無理がききます。

 「ほら、まずは利息の800万ドラリアだ」

 ハルトはユージェックに金貨の詰まった袋を渡した。

 ハルトが異世界に転移して1年がたった。今は4月だ。年利は40%。日本の銀行と比べるとかなり高い。


 「これが借りた1000万だ。確認してくれ」

 さらに二つの袋を取り出してユージェックに渡す。ユージェックはホクホク顔だ。


 「これはどうも。借金はゆっくり返してくれていいぞ」(その方が搾り取れるからな)

 本音が丸聞こえだ。


 「で、追加で借金するか?お前の儲けはは確か月500万だよな?お前の儲けから考えれば1億は貸せるぞ。それにお前は金を返してくれたからな。次からはもう少し金利を安くしてやる」

 当然だがハルトはユージェックに自分の収入を教えたことはない。いったいどうやって調べているのか気になるところだ。


 「結構だ。安定してきたからな。もう1000万返したらにするよ」

 ハルトはそういって立ち上がった。


______


 「あ!返済してきました?」

 「ああ。それにしても800万は高いよ」

 ハルトが不満を言うと、ロアは苦笑した。


 「ハルトさんはユージェックさんに信用されてるから安い方です。あの人は貧困層に金利100%で金を貸してますから」

 「金利100%なんて返せるのか?」

 ロアは首を横に振った。

 「返せません。ユージェックさんも奴隷にさせる気で貸してるんでしょう」

 ハルトはユージェックの黒い笑顔を思い出す。間違いなく地獄行きだろ。


 「でも法律にはギリギリ触れないラインを守ってるんですよね。それに貧困層に金を貸すもの好きはユージェックさんくらいですから。だから誰も批判できないんです」

 

 「ハルト!!爺さんから手紙が来たよ。今月中には届くって!!」

 アイーシャがそう言いながら駆け込んできた。

 

 「そうか。じゃあこっちも準備しておかないとな」

 すでにブランチにはパーム油とひまし油を頼んである。来月には売り出す予定だ。配合の割合を奴隷に教える必要がある。


 「ねえ、借金の利息払った記念で今からデートしない?」

 「なにアホなことを言ってるんだ。今から開店だぞ。お前は早く工場に行け!!」

 ハルトはアイーシャを追い払う。アイーシャは頬をふくらました。


 「意地悪!!たまには生きぬきしないと息が詰まっちゃうよ!」

 「ハルトさん。実は私も行きたいところが……」

 ロアが小さく手を上げた。

 

 「ん?どこに行きたいんだ?」

 「宝石の展覧会に……次の休日に行きませんか?」

 次の休日の予定は特にない。ハルトとしては特に問題ない。それにアイーシャの言い分も一理ある。


 「じゃあ行くか」

 「やった!!」

 飛び跳ねて喜ぶアイーシャ。ロアも嬉しそうに笑う。美少女二人が笑顔でいるのだ。ハルトは幸せな気持ちになった。


______


 「見てください!!綺麗ですよ」

 ロアは嬉しそうにガラス越しに宝石を見る。入場に一人銀貨一枚も掛かったのだから喜んでもらわなくては困る。


 「それにしても金が掛かってるな。一体いくら掛かったんだ。この会場?」

 ハルトは宝石を見ながら思う。宝石そのものも高価だが、宝石のケースもガラス製。ガラスはこの世界ではまあまあ高価だ。


 「警備にも金が掛かってそうだしな」

 ハルトは後ろを見る。そこには警吏が10メートル間隔で並んでいる。ところどころ傭兵が混じっているのは人手不足だからだろう。


 「何しろ議会運営ですからね。クラリスの大金持ちの共同出資です。これくらいは用意できますよ」

 ロアはハルトを振り返って答える。


 この宝石の展覧会は毎年、議会の運営で開かれる。この展覧会の意味は二つ。一つはクラリスの国力を都市国家連合全体にアピールするため。二つ目はクラリスの職人の作品を宣伝するためだ。どちらかというと二つ目はおまけに近いが。


 「それにしてもどうして同じ国同士、牽制し合ってるんだ?」

 「それ、私も気になる!!仲良くできないの?」

 ハルトの疑問にアイーシャが同調する。ロアは二人に説明をする。


 「都市国家連合は仲良くないんですよ。仲が悪いからこそ『連合』という形を取ってるんです。仲が悪いから国境ができるとはよく言ったものです。クラリスと特に仲が悪いのはアルトを含むキリシア南部の都市です。逆に帝国との交易の要のリンガ、対王国の最前線であるレイム、農業が盛んなスフェルトなどのキリシア北部とは比較的友好を保っています」

 ロアはニコニコしながら二人に教える。うんちくを話すのは楽しいものだ。


 「なるほどな。北部と南部は仲が悪いのか」

 「はい。南部は昔から豊かで、歴史の古い国が多いです。逆に北部は帝国に征服された後に、帝国の農業技術の導入や、帝国との交易によって急激に発展しました。クラリスは最たる例ですね。エンダース帝によって東征の拠点になって以降、急激に発展しました。今では北部の方が豊かです。南部のキリシア人はそれが気に入らないんですよ。正直逆恨みもいいとこですけどね」

 そういうロアの言い方は南部を嫌っているようだった。相当北部と南部の対立は激しいようだ。


 「へえー、すごいね!!ロアは物知りだね!!」

 そういってアイーシャはロアの手を握る。ロアは照れ臭そうにもう一方の手で頭を掻いた。


 「いやー、それほどでも、って痛いです!!ブンブン振り回すのはやめてください!!」

 アイーシャは慌てて手を話す。ロアは振り回された手を抑えた。


 「加減してください……」

 「ご、ごめん……」


 三人は気を取りなおして宝石を見ていく。ハルトは宝石には興味がないが、二人は楽しそうだ。


 「そんなに楽しいか?」

 「うん、キレイだよね!」

 「女の子はみんな宝石が好きなんです。宝石が嫌いな女子は女子じゃないですね」

 

 「それはさすがに言いすぎじゃないか?」

 ハルトはロアの発言に首をひねる。世の中には宝石があまり好きじゃない女子がいてもおかしくない。

 (宝石よりも私の方がきれいだもの。私に比べたら宝石何て石よ。なんてな。流石にいないか)

 ハルトはそんなことを考えて、首を振った。確かに女子はみんな宝石が好きかもしれない。


 「私宝石をたくさん見るのが夢だったんです。一年前までは門前払いでしたし」

 一瞬空気が凍りつく。ロアは宝石を見るのに夢中で空気が凍ったことに気付いていない。


 ハルトとアイーシャは目配せして、ロアの発言を無視することにする。


 「見てください!!あれ白金と金剛石が使われていますよ!一体いくらするんでしょう?」

 ハルトはロアが指さした方をみる。そこにはプラチナとダイヤの指輪が飾ってあった。だがほかのルビーやサファイアの装飾品と比べると少し地味な印象を受けた。


 「そんなにすごいか?ダイ……金剛石も小さいし、装飾品そのものも小さいだろ。あっちの杖の方がすごくないか?」

 ハルトは展示してあった杖を指さす。金でできていて、上の方には大きなエメラルドがはめ込んである。他にもルビーやサファイアなどの宝石がちりばめられている。実用性はないが派手さならロアの指さした指輪よりも上だ。


 「ハルトさん。言っておきますが白金と銀は違いますよ?」

 「そのくらいは知っているが……」

 ハルトは眉を顰める。そのくらいは常識だ。プラチナと銀を同一視する日本人はいないだろう。見分けられるかは別として。

 

 「何が違うか知ってますか?」

 「そもそも物質の種類から違うだろ」

 ハルトがそう言うとロアはため息をつく。正直かなりむかつく。


 「そう言うことを聞いてるんじゃないです。性質の違いを聞いてるんです!銀と白金は融点が全然違います。白金の方が溶けにくいんです。つまり白金の方が加工が大変なんです。それに産出量が圧倒的に少ないんです。だから銀よりも何倍も価値があるんですよ。溶けないんで粉末合金という方法でしか作れません」

 得意顔をするロア。当然ハルトもこれくらいは知っている。だが知っていると答えたら強がっている風にしか見えないだろう。ハルトは適当に相槌を打っておく。


 「すごいな。さすがロアだ」

 「何か棒読みですね……」

 ロアはハルトを不審そうに見つめる。


 一方アイーシャは目を輝かせてロアを見る。

 「すごい!!物知りなんだね、ロアは!!」

 「いやあ、それほどでも」

 ロアは嬉しそうに頭を掻いた。アイーシャはロアの腕をつかもうとする。ロアは慌てて引っ込めた。


 「危ない!!なんでいちいち私の腕をつかんで振り回そうとするんですか!?」

 「ごめん……つい癖で」

 アイーシャはロアに謝る。ロアは気を取りなおしてハルトへの説明を開始する。


 「次は金剛石についてです。金剛石の最大の特徴はその固さです。固すぎて磨くことができなかったので、つい200年前までは宝石としてはあまり注目されていませんでした。ですが100年前、なって金剛石を金剛石で磨くという方法が考案されて金剛石の価値は跳ね上がったんです。それに金剛石は東方で産出されます。交易でしか手に入らないので非常に高価なんです」

 「そう言えばルビーも東方が産地なんだよな?」


 ハルトはふと思い返す。ロアはハルトの言葉に頷いた。


 「はい。というか大部分の宝石は東方が産地なんですよ。宝石以外にも絹とか象牙、香料に香辛料、そして茶葉。嗜好品の大部分は東宝が産地です。クラリスや砂漠の民はそのおかげで儲けているわけです」

 「なるほど。じゃあクラリスが輸出している物は何だ?確かブランチがワインやオリーブを売ってると聞いたが……もしかしてそれだけか?だとしたら……」

 「はい。西方は輸入超過の状態になっています。この輸入超過は帝国の衰退の理由の一つです」

 ロアの言葉にアイーシャが続く。


 「西方のものはあんまり人気がないんだよね。ワインやオリーブは珍しいから売れるけど……絹なんかには敵わない。お酒と油なら東方にもあるからね。だから西方は金で払うしかない。それに東方では金よりも銀が使われている。私たち砂漠の民も銀をおもに使ってる。だから西方が物を売っても戻ってくるのは銀ばかり。金は流失する一方。本当に同情するよ」

 砂漠の民の族長の娘であっただけあって、交易については詳しいようだ。楽観的な言い方なのはハルトと同じように所詮外国人だからだろう。


 「でも近年では輸入超過や金の流出は緩和されてきているよ」

 アイーシャは続けて言う。


 「西方は魔法という分野で東方よりもずっと進んでいるんだ。魔法具も西方でしか製造されていない。だから西方の魔法具は東方に高く売れるんだよ。それに最近、クラリスの商人達は決算に銀を使うようになったんだよね。銀の方が取引に便利だからね」

 「ちなみに魔法具を売ってるのはアドニスさん。金と銀の両替をしているのはユージェックさんです。二人ともいち早く目を付けて他の商人よりも早く富を築いたんです!!」


 アイーシャに負けまいとロアは会話に割り込んでくる。ハルトは取り敢えずロアの頭を撫でておく。

 ロアは嬉しそうな顔をする。とても可愛らしい。ハルトの表情も緩む。


 「さすが族長の娘だな。詳しいじゃないか」

 ハルトはロアの頭を撫でながらアイーシャに言う。アイーシャは照れたように頭を掻いた。


 「それほどでも。でもこれくらいは常識だよ。大したことないよ」

 アイーシャは笑いながら続ける。


 「できれば私も撫でてほしいな。ロアばっかり撫でるのは不公平だよ」

 その言葉にロアは反応する。

 

 「なんでそうなるんですか!!」

 「だって本当じゃん。私の情報の方だってロアに負けないくらい重要だったし。それにロアばっかりずるいよ。砂漠では妻は全員平等に愛さなくちゃいけないんだよ」

 妻という言葉にロアはピクリと反応する。それだけは譲れないとばかりにロアはアイーシャを睨んだ。


 「お前らこんなところで喧嘩するな。撫でてやるからロアを煽るな」

 ハルトはそう言ってアイーシャの金髪を撫でる。


 「あと俺はお前を妻にする気はないぞ」

 ハルトが撫でながらそう言うと、アイーシャはにやりと笑う。


 「砂漠の民では頭を撫でるという行為は婚約するってことだよ」

 アイーシャがそう言った途端、ハルトとロアの表情が凍りついた。アイーシャは凍りついた二人をひとしきり笑ってから言う。

 

 「嘘だよ。だいたい砂漠の民に結婚の習慣はないって言ったじゃん」

 ハルトはこめかみに青筋を浮かべる。ハルトは軽くアイーシャの頭を叩いた。


 「痛た!!」

 アイーシャは大げさに頭を押さえる。そしてハルトを上目遣いで見上げて言った。


 「女性に暴力をふるうのはどうかと思うなあ」

 「暴力の内に入らん。それに今お前によって受けた俺の心の傷はこんなもんじゃない」

 ハルトと言葉にロアが便乗する。


 「やーい。怒られた!!」

 アイーシャは不満そうな顔をする。反論しないのは自分が悪かったことを自覚しているからだろう。


 「そう言えば何でこんな話になったんだ?」

 「えーと、確か白金と金剛石の価値について話していたんです。そこから話が脱線して頭を撫でる話になったんです」


 「脱線し過ぎだろ」


 ハルトは思わず笑った。ロアとアイーシャもつられて笑う。3人の間で和やかな空気が流れる。ロアは幸せそうな顔でハルトに言った。


 「私今幸せです」

 「だから重いんだよ」

 ハルトは思わずツッコんだ。


______


 「いらっしゃいませ」

 ハルトは今日何度目か分からない言葉を口にする。今日は雨が降っているため客の数は少ない。それでも200個は売れていた。


 「石鹸を3つ」

 「ありがとうございます」

 ハルトは石鹸を手渡し、代金を受け取る。石鹸は順調に売り上げを延ばしていた。クラリスの人口は約30万(2級市民及び奴隷は除く)なので、需要はまだまだある。


 「いらっしゃいませ」

 次の客が入ってくる。その客は黒いスーツを着ていた。かなりの高級品であることが分かる。石鹸を買いに来た客ではないのは一目で分かった。


 男性はハルトに近づいて名乗った。


 「すみません。ハルト・アスマ様はいらっしゃいますか?」

 『人に名前を聞く前に自分から名乗れ』っと言ってやろうかとハルトは思ったが、それを堪えて笑顔を作り男性の問いに返答する。

 

 「私がハルト・アスマです」

 ハルトがそう言うと男性は目を丸くする。


 「これは失礼しました。まさかこんなにお若いとは……おっと自己紹介がまだでしたね。私はこういう者です」

 男性はハルトに名刺を渡した。そこにはこう書かれていた。


 『サマラス商会・クラリス支店長・エル・スミス』

 

 雨はますます激しくなりそうだった。

1月〜3月(まだ借金を返済していない)


収入 約6750万(石鹸13万5千個)

支出 4278万+202万(売上税)+675万(所得税)

売上-支出=1592万

負債 2000万

残金 2273万

実質財産 273万


その他財産

奴隷60

従業員

会計担当兼奴隷取締役 ロア・サマラス

傭兵 ラスク&プリン&アイーシャ

倉庫に関する情報はいらないような気がするのでやめます。


都市国家

アルト……都市国家連合最古の都市。人口は1番多い。連合の盟主。

リンガ……大きな港を有する。帝国の物産が集まる。クラリスとは仲がいい。都市国家連合では最大の海軍を持つ。人口は3番。

スフェルト……農業が盛ん。特に泡の実。サマラス商会で有名。人口はまあまあ多い。

レイム……クラリスと同じように王国と接する。王国侵攻時にはクラリスと連携するのでクラリスとは友好的。広い平原があるため、騎兵が主な王国が必ず攻め込んでくる。そのため国を挙げて武術に励んでいる。

レンバード……ロアの説明にはない。帝国と国境を接する。帝国領になったり都市国家連合に戻ったりを繰り返す。風見鶏。強力なラクダ騎兵を有するため無視できない。

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