第52話 評議の亀裂、忍ぶ影
「議題は一つだ。王都の新しい秩序をどう築くか。」
「解放者に導かせるしかない! あれほどの戦いを生き抜いた者は他にいない!」
「馬鹿な! 怪物を旗にしたら、次は我らが滅びるだけだ!」
「現に救ったのだぞ! あの力がなければ、我々は廃墟に呑まれていた!」
「救った? いや、奴は廃墟そのものを抱えた存在だ! 時限爆弾を王座に座らせる気か!」
「座らせる必要はない! 彼女は旗でいい! 我々が議を握り、彼女は象徴とすればよい!」
「象徴で済むか? 民はすでに“解放者が決めるべきだ”と叫び始めている!」
「沈黙こそ危険だろう! 曖昧な旗印は、やがて分裂を招く!」
「……解放者本人の意思は? 彼女はどう言う?」
「『私は王にはならない、だが旗印は降ろさない』と。本人はそう告げている。」
「ならば尚更だ! 空席の王座を人々は埋めようとする。結局、有無を言わせず祭り上げられる!」
「……評議としては、これ以上裂け目を広げる訳にはいかん。だがどうする?」
「決断を急げば、より深い溝になるぞ。」
「既に溝は広がりつつある……」
「聞いたか?」
「ええ、評議は揺れに揺れていますね。」
「セラフィエル、民を焚きつければ……」
「ええ、簡単よ。どちらの声を強めても、彼女は孤立する。」
「記録するに値する瞬間だ。“絆の旗は亀裂を孕む”――」
「その通り。そして忘れてはならないわ。地下の残骸はまだ完全には沈黙していない。」
「鼓動を聞いた?」
「ええ。弱いけれど確かに響いている。」
「ならば、次の頁は決まっている。“再び芽吹く”。」
「……胸の痛みは増している?」
「ああ、抑え込めていると思っていたが……影が囁き始めた。」
「やはり……」
「アリエル様、無理は……」
「無理をしなければ守れない。議がどうなろうとも、私は旗を降ろさない。」
「私も支えます。裂け目が増そうとも、必ず戻す。」
「俺もだ。たとえ街が割れようが、この旗だけは割らせねえ。」
「……ありがとう。評議が裂けても、人々が割れても……私が折れなければ、必ず繋がる。そう信じている。」




