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ユナの旅【連載中】  作者: りな


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夜更け。

村長は灯りを絞り、物音を立てぬように旅支度をしていた。布袋に干し肉を詰め、古びた外套を畳む。誰にも気取られぬよう、静かに、静かに。

そのとき、背後の闇がわずかに揺れた。

「――何をしてる?」

振り返った村長の目に映ったのは、ユナの小さな姿。けれど、声が違った。低く、澄んで、どこか冷たい。

村長はすぐに背筋を伸ばし、頭を垂れた。

「御供をしたく、存じ上げます」

「要らぬ」

間を置かず、きっぱりと返る。

「しかし」

「待つ人が居るのだ。うつけめ」

その青い瞳が、闇の中で強く輝いた。人のそれではない光だった。

「命令だ」

短く、重い言葉。

村長は唇を引き結び、深く頷く。

「……は」

次の瞬間、そこにあった小さな影は、音もなく闇に溶けた。

残されたのは、かすかな冷気と、村長の呼吸だけだった。


そうして、ユナとガルドは村を発った。

村長は村に残った。



ユナは、魂の欠片について何も知らない。

あの夜に何が起きたのかも、詳しくは覚えていない。

ただ、像はあるべき所に戻った。

それでいいのだと、ガルドは言った。

もう心配はいらない、と。

その言葉は、不思議と胸にすとんと落ちた。

理由を考える前に、納得してしまった。

「一緒に、像を集めよう」

ガルドのその言葉に、ユナは迷わずうなずいた。


ある夜。

焚き火の音だけが、静かに揺れていた。

ユナは眠っている。

規則正しい寝息。何も知らない顔。

その影から、ふっと空気が歪んだ。

青い瞳が、闇の中で開く。

「……起きているか、ガルド」

低い声。

ユナの喉から出たとは思えない声だった。

ガルドは即座に片膝をついた。

音は立てない。

「は。ナハト=アエル=ユルナス様」

「固いな。昔と変わらん」

魔王は焚き火を見つめた。

炎が、わずかに風もないのに揺れる。

「旅は、順調か」

「……はい」

「嘘はつくな」

一拍。

ガルドは、視線を伏せた。

「……集めれば集めるほど、ユナは“器”として完成していきます」

「そうだ」

魔王は、満足そうに微笑んだ。

「それでいい。恐れるな。あれは我だ」

「しかし――」

ガルドの声が、わずかに掠れた。

「最後に残る“意識”は……」

魔王は、そこでガルドを見た。

懐かしむように。

「案ずるな。完全に消えるわけではない」

「……では」

「ただ、“主”が変わるだけだ。おそらく、だがな」

ガルドの拳が、ぎゅっと握られた。

「お前は優しいな、ガルド。昔から」

魔王は立ち上がり、ガルドの額にそっと触れた。

その仕草だけは、驚くほど丁寧だった。

「だからこそ、最後まで付き合え」

「……はい」

「この子が、どうなろうと」

次の瞬間、青い光は消えた。焚き火の音だけが残る。ガルドはしばらく動けなかった。

再び、ユナは眠りについていた。そっと毛布をかけ直す。

眠るユナは、何も知らずに寝返りを打った。

「……必ず」

誰に向けた言葉かもわからないまま、

ガルドはそう呟いた。


ユナとガルドの旅は続く。

終わりがどこにあるのか、誰にもわからない。集め終えたその先に、何が待っているのかも。

それでも、ユナは歩き続ける。

理由はわからない。

ただ、進むべきだと感じているからだ。

だが、ガルドは知っていた。この旅が何を意味するのかを。

――これは、魔王再生の儀式。

そして同時に、現魔王の破滅へと至る道であることを。

彼は何も言わない。

言えば、ユナは立ち止まってしまうだろうから。

だから今日も、剣を背に、ユナの隣を歩く。

その先に待つ結末を、すべて背負う覚悟を胸に秘めながら。


この先。

ユナは、少女から大人へと変わっていく。

それはゆっくりとした成長というより、光の中で輪郭がはっきりしていくような、眩しい変化。

背丈や顔立ちだけではない。言葉の端に宿る芯の強さ、まなざしの奥に揺るがない意志、息遣いの間に生まれる静かな自信。そして、愛。

これまでそこにあったはずの幼さは、いつのまにか淡く溶け、代わりに、目を離せなくなるほどの確かな存在感が、ユナの中に満ち始めていく。


いつしか、すべてが、終わろうとしていた。

長く続いた旅も、手に入れた像も、交わされた約束も――ひとつの結末へと収束しようとしていた。


けれど、残された選択肢は、あまりに少ない。

何を選んでも、何かを失う。

何も選ばなくても、何かが崩れる。

その中で、ただ一つだけ確かな未来があった。

ガルドが、彼女を守り通すこと。

それだけは、揺るがない。


ユナの旅は続く。



物語は、ここで一度筆を置く。

まだ語られていない未来を残したまま。



これで終わり……にしたく無いのですが。

時間が作れなくなってきたので、とりあえず終わりにします。

(自分が読者なら、酷すぎる、と糾弾してます……)

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

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