10話 滅びを齎す者
急にシリアスです。
グラピアン山脈から帰路に着き、間もなく公都クランが見える。
そう思いながら街道を走っていると
「門の辺りに騎士団が居ませんか?」
ヨーマンが皆に問いかけてきた。
「お〜確かに居るわ」「何があったんでしょうか?」「行けば分かる」
まぁカーウィンの言う通りなのだが、私は何故か胸騒ぎがしてカーウィンに先を急ぐよう言おうとするも...
「最大速度で往くのじゃ!魔素が乱れておる!良からぬ者が居そうじゃ!!」
先にリアが恐ろしい物言いをし、皆が驚くも
「分かりました!リア殿!!」
カーウィンがいち早く反応し、その言葉に従った。私も
「皆、シートベルトして!」「「はい!」」「おぅ!」「ヤレヤレ、我もするかのぅ」
思い思いにシートベルトに手を掛けたのを確認して、私も掛けた。因みにゲビックは仮眠スペースで泥のように眠っている。
やがて壁門に着くと、騎士が三人程やってきて
「ドール家御一行とお見受け致しますが」
車の家紋を見たのだろう。一人の騎士が丁寧ではあるが、やや侮蔑めいた物言いをし案の定...
「貴様!ここに御わすお方を何方と心得る!公爵家令息セシル=クランドール殿下にあらせられるぞ!!!頭が高い!控えおろう!!」
あっ!?そっち?練習した甲斐あってスラスラ出たのは褒めてあげたいけど、使い所間違えて...ないか、な?そんな私の憤りは何処へやら
「ハッ!大変申し訳ありませんでした!」
話しかけて来た騎士が一歩下がり公国式の敬礼をすると、残る二人もそれに習った。
「御理解感謝する。所で、この騒ぎは何事か聞いてよろしいか?」
堂に入っている(と言うか実年齢より5歳程老けて見える)お陰で上手くやり取り出来ている。
「実は賊が入り込んだと知らせがあり、全ての通用門を閉鎖せよとの御命令で...」
そこで言葉を濁す騎士に、私はカーウィンを通じて夜営場所を指定するよう伝えよと促す。
コチラが問題にせず大人しい対応をしてくれると感じた騎士たちは、ホッと胸を撫で下ろしたようだ。
「ここでしたら水場も近いので、余り御不便無く夜営出来るかと思われます」
そう言った騎士に、男装を終えた僕はカーウィン越しに
「大義、下がって良い」と声を低く抑え労う。
「公国に忠義を!貴方様に感謝を!」
私の謝意に、騎士三人が儀礼して職務に戻って行くのを見ながら
「ラッキー♪」
私は小躍りした。この水場...実は公爵家に繋がっているのだ。
「リア?念話ってどれくらい届くの?」
「ん?我を...あぁそうか。仕方ないの。心配せんでもここからなら屋敷程度造作もない」
一瞬で人の考えを読めるのって便利ね。そう思ってリアに話しかけようとすると
「それは要らん。早う行け!時間がないぞぇ」
全てお見通しなら後は行動あるのみ...だけど、回りが置いてけぼりになるのよ。
「アヴェイルとカーウィンだけ連れて行け。どちらにしろ戦力はその二人のみじゃし、ここは我が居る」
「分かったわ。アナタがどれほど強いのか知らないけど、ここは任せます」
そう言って私は側付き二人を伴い、隠し通路を行くことにした。
「殿下、明かりを灯して先行します。指示を」
カーウィンが通路を折れ曲がったところで、暗くなる前に進言してきた。私は
「頼むわ」と短く答える。程なくしてランタンに火を灯したカーウィンが
「どちらに」と向かう先を聞いてきたので
「右の通路をしばらく進むわ」
そんな感じで私の指示に従いながら、三人は1時間程かけて公爵家への隠し通路を進むのだった。
「あなた...どうして...」
儀礼用とはいえ十分な殺傷能力を秘めた剣で、フェルナンド=ノア=クランドールは己が妻を切り裂こうと凶刃を振るった。
「ノアではないな...貴様、何者じゃ?」
「爺のクセに中々の反応速度じゃないか」
とっさに近くにあった椅子を盾にシェリアとフェルナンドの間に割って入ったが...
「お義父さま?!腕から血が!?」「気にするな、かすり傷じゃ」
本当は今にも千切れ落ちそうな位綺麗に裂けている...が、腕を力で抑え付け身体に引き付ける事で出血を誤魔化す。
「儂の質問に答えぬか...じゃが、じきに誰かが来る。この騒ぎ、逃げられんぞ」
「狙い通りなので構いませんよ。アナタも標的の一人ですから、誰かに観て頂かないといけませんからねぇ」
(そういう事か!?)狙いが分かった儂はシェリアに指示を出す!
「テラスから逃げよ!なるべく人目を避けるんじゃ!」
流石は公国騎士長の妹、儂の言にいち早く気付き、テラスに出て迷いなく飛び降りる。
「おやおや、身を挺して守ってくれた方を躊躇なく見捨てるとは!さすが貴族様!」
甲高い笑い声を伴いながら近づいてくる偽の息子に
「計画は失敗したのではないか?引くなら見逃してやるぞ?」
儂は精一杯強がってみたが!?
ドスッ!?
突然腹に衝撃が走る...自分の腹を見下ろすと
...眼の前の偽息子の変質した腕が儂の腹を貫いていた...
ゴフッ...「貴様、もしや...」「死にゆくモノに興味はありません」
......滅びを齎す者......
「悪魔族...まさか...」
儂の言葉に見向きもせず儀礼用の剣を振りかざし、その刃が儂の頭上に迫る!!!
ザジュッ!......
鮮血...ではなく青くやや紫がかった悪魔族の血が飛び散る。
「...ノア」「父上!?」「あぁ...これはいけません」
本物の息子が来た事で今すぐ絶命する事は避けられたが...
シュッ!トタッ!
見た目と質量の合わない動きで悪魔族がテラスに立ち、儂を見ながら
「時間の問題ですね。次に行きますか」
そう言ってテラスから吸い込まれるように消えた。
「ノア!追え!シェリアが...」
まともに喋る事も出来なかったが息子は
「ありがとう...父さん」
一筋の涙を残しつつ儂への想いに身を捩りながら、テラスに向かおうとしたその時!
「父上ぇぇぇぇぇ!!!!」
声のする方を見ると、そこには孫と側付き二人が居た。
だが息子は、孫の顔を見ても意に介さずテラスから飛び降りた。
「待ちなさい!!!」激昂して後を追う孫とそれに従う騎士見習い二人の内一人の手を掴む。
「伝言がある!」吐血しながら儂はカーウィンだけを見つめた。
「先に行って下さい!直ぐに追います!」
カーウィンの言葉に孫は
「分かったわ!」手短に答え容疑者と決めつけた息子の後を追いかけて行った。
死を覚悟した儂は、カーウィンに全てを託した。
次回、閑話入ります。
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