表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/43

38  女神降臨



気が付けばグリワムは渦巻く魔力の中捕らわれていた。


「ねぇ、お前、この聖紋はどの聖女からつけられたの?白金に薄紫。こんなに輝いて…おかしいわね?こんな適合者がいたなんて聞いていないわ。アーザスは何をしていたのかしら?」


大聖女はキーラの聖紋を確認してグリワムを宙に縛り上げた。四方に伸びていた魔力はそのままにそれ以上の魔力の檻がグリワムに絡みつきその動きを完全に封じているようだった。


「グリワム!!」


タルスルや銀級の聖騎士らの声が聞こえグリワムを助けようと魔力が放たれるが、どれも大聖女には届かずにかき消された。


そうしている間にも大聖女は魔力で拘束した聖女らを自身の側に引きずり出した。


「ん、うぅ!」

「う、う」


聖女らは口元まで魔力の触手で押さえられていて、数人は恐怖で呻いていたが、ほとんどの聖女はもはや意識を失いぐったりとしていた。


「…どれも違うわね」


その聖女らの顔を眺めながら大聖女は目を細めた。


「ここにいない聖女?という事は聖域でちゃあんと聖水を作っている子なのかしら?そうね、そうじゃないとこんなには輝かない……?」


大聖女は小さく呟くような声でそう言うと、魔力に縛られガタガタと震えている聖女トティータの頭をガッと掴んだ。


「!!」

「お前、聖域に戻ってこの色の聖女をここに連れてきてちょうだい。」

「ん、うぅ!うぅ」

「なぁに?」


呻くのとは違う、震えながらも何かを伝えようとしているトティータに気が付いて大聖女は拘束を解き首を傾げた。


「お、恐れながら…だ、大聖女様…なぜ、なぜこのような事を…」


「…?」


「わ、わたくしは、わたくしこそ次期大聖女候補だと…そうおっしゃって、お、おられたではないですか…それなのにこのわたくしにもこ、このような…」


「あぁ、お前。そうね。そういえばお前が大聖女候補だったわね。でも今変わったのよ。他に有力な候補が見つかったの。だから今からその聖女をここに連れてきて欲しいのよ」


そうにこやかに微笑んだ大聖女にトティータは激しい衝撃を受けた。


「か、変わった?な、なにをおっしゃて…」


「?だから新しい大聖女候補の話よ?ほら、早く行ってちょうだい。」


「あたらしいだいせいじょこうほ…?」


大聖女の言葉を呆然と繰り返し、動こうとしないトティータに大聖女は苛立ちを覚えた。


「さっさと」


そう言って大聖女の手に魔力が迸りトティータに向けられた。


しかし瞬間その光は後方で縛られていたグリワムから放たれた魔力によって霧散させられた。


「…お前」

「聖女を…傷付けるな」


グリワムはぎりぎり動かすことの出来た左手で魔力を放ち絞り出すようにそう言うと大聖女の意識を自分に引き付けた。



すでに周りの聖騎士らはほとんどが大聖女の黒い触手の魔力によって倒されていた。それでもうめき声がちらほら聞こえるため全滅はしていないだろうとは推測できたが、それだけだった。捕らえられた聖女らもぐったりとしていて、今この場で明確に意識を失っていないのは大聖女とトティータ、そして拘束されているグリワム他数名だけの状態だった。


とはいえもう直接的に大聖女に対抗できる手段はグリワムにもほとんど残されていなかった。


ーこの大聖女は他者を傷付けることに何の痛痒も感じてはいない。聖女ですら感情が高ぶれば容易に排除しようとしてしまっている…。


グリワムにとって、聖女は心の奥底では胡散臭い存在だと思っていたが、だからと言って決して害されていい存在などではない。現在この大陸中が聖女の作る聖水に依存しているのだ。それを生み出す聖女を傷つけさせていいわけもない。


ー今頃それぞれの国の影子がこの緊急事態を自国の館に知らせに走っているだろうが、応援が投入されたとしても…この場で上手く動くことが出来るかは疑わしい。しかもこの存在を前にすれば、例え訓練された国の兵士だろうとその力を発揮することは叶わないだろう。



考えろ

なにか手を



「…取引をしないか」

「何?」


「お前の求める聖女はこの聖紋を印した聖女なのだろう?ならばその聖女を俺がここへお連れする。だからこれ以上ここにいる聖女達には手を出さないでもらいたい」



とりあえず解放され時間を稼ぐつもりでグリワムがそう提案すると、大聖女は一瞬目を丸くして「まぁ」とコロコロと笑った。


「わたくしが聖女を殺してしまうと思っているの?今のはちょっと驚ろかせただけ。この子達には聖域に戻って聖水を作ってもらわないといけないのよ?そんな事するわけないわ。それにお前たちだって、わたくしの邪魔さえしなければ好きなようにしてていいのよ?」


先ほどまでの雰囲気を引っ込めて優し気にほほ笑む大聖女は優しい笑顔のまま周りを見まわした


「ちゃぁんと仕事をしていればここで幸せに暮らせるようにしてあげているわ。そうでしょう?」


大聖女のその言葉にグリワムは目を見開き、そしてぞっと背筋を凍らせた。



ここでの暮らし

聖女の在り方

大聖女の姿



突然、バラバラだったパズルがひとりでに組みあがっていくような…それはそんな不気味さを伴ってグリワムを満たした。そこにおぞましい絵が浮かび上がっていくのをただ眺めている事しか出来ないような、言い知れぬ不安感と虚無感に体が冷えていくような…


そんな感覚にグリワムが襲われたその時、



バンッと

唐突にその霧を晴らす衝撃が走り、その瞬間グリワムに纏わりついていた魔力の檻がはじけ飛んだ。



「何?!」


空を覆っていた黒い魔力の膜も、聖女らを拘束していたものも同時にその全てが消え失せ、大聖女も驚きに顔を上げた。


「なんだ…!?聖力?」


大聖女はそう呟きながらあたりに舐めるような険しい視線を向けたあと、すぐに聖域の方向に意識を向け「こざかしい」と右手をかざし黒い魔力をそこに握り込んだ。



「きゃあ!!」

「いやぁあああああ!何?!!なんなんですのぉー!!!!」



するとその瞬間、二人の聖女が突然空中から降って来たのだった。



*****



聖女トティータの聖騎士ジークライトは物陰から一部始終を観察していた。


いつものように聖女トティータを出迎えていたら、聖騎士グリワムに印されていた見知らぬ聖紋。聖女トティータと聖騎士グリワムとの衝突。そして突然の大聖女降臨に襲撃。猫の目のように変わる状況にジークライトはせわしなく対応した。当然聖騎士として周りにいた聖女を守る為に戦いもしたが結果は胴や腕を深く切りつけられ聖女は奪われた。


ーこれはどうにもならんな


そこまででそう冷静に判断したジークライトは携帯していた回復薬を飲み物陰に隠れた。


そうしている間に聖女はすべて大聖女の周りに集められ、あのグリワム=オーダナイブですら拘束されてしまったようだった。このまま事態が悪化するなら一度離脱もやむ得ないかと考えていたその時、突然あたりを覆っていた禍禍しい魔力が晴れ、それと引き換えに大聖女の側に新たな聖女が現れたのをジークライトは確認した。


それは2人の聖女だった。


一人は聖女コーラ。平民出身の取り立てて言う事もない凡庸な聖女だ。だがもう一人の聖女にジークライトは息をのんだ。


その聖女はジークライトの記憶の中には存在していない聖女だった。ただ離れていてもわかる輝くようなその美しさに、状況も忘れてジークライトは圧倒された。


豊かな白金の髪がふわりと風に靡く美しい姿。聖女服でなければ女神が降臨したのかと、そう思ってしまうようなそんな姿。


ーな…誰だ?!あれは


ジークライトはもっとよく見ようと体を乗り出した。


「はぁ、驚きましたわ」


その時、その女神の声が風に乗って聞こえてきた


「えっと、花薗?ですわよね?ここ。あ、皆さん良かったご無事ですか?」


ー???


「あの、コーラ様が皆さんはもう死んでおられるなんておっしゃるのでわたくしびっくりして…様子を見に来ようとしてましたの…ですけど…えっと…倒れておられる方がたくさんいらっしゃるようですわね…、その、あのとりあえず…」


「ちょ、ちょっとお待ちになって!キーラ様!それは語弊がありますわ!わたくしは死んでおられるかもしれないとちょっとおも…心配をしただけで、本当にそうだとは言っておりませんでしたわよ!!風評被害ですわ!!」


「あら?そうでした?」

「そうでしたわ!!」


突然始まった緊張感のない会話に場の空気が急速に緩んでいく。しかし、それを聞いたジークライトは一呼吸おいて見知らぬ聖女を凝視した。




ー聖女キーラ…だと?!!




いつの間にか漫才コンビみたいになってきちゃったね


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ