表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/43

31 聖紋



聖女テスらは食堂のいつもの席で朝食代わりのショコラを飲みながら朝のおしゃべりに花を咲かせていた。


「結局あれってどうなったのかしら?」

「あれ?あぁあの方?…存じませんわ」

「でも昨日は花園であの方をお見掛けしませんでしたわ。効果があったのではなくて?」

「あら、わたくしもそう思いますわ。あの方、夕食の時も食堂にいらっしゃいませんでしたもの」

「まぁ」


そう言いながら聖女らはクスクスと皆で笑いあった。


昨日聖女テスらは朝、祈りの間で聖水を生成した後ある事を試してみたのだ。


それは一人の聖女を祈りの間に閉じ込めるというもの。


テスらと一緒にいた他の聖女が、聖教会に入教した当時たまたまなにかの話の流れで先輩聖女から聞いていた不思議な話を元にした実験のようなものだった。


それは祈りの間をあかずの間にする方法で、なんでも多くの聖女が祈りの間を閉ざしたいと一度に強く祈ればそうなるのだという話だった。昔、災害が発生したときに多くの聖女が祈ってそういったことが起きたというのだ。


それを聞いて聖女らは祈りの間に一人でいる聖女キーラをそこに閉じ込めてしまおうと思いついたのだ。話は半信半疑だったが、本当に閉じ込めることが出来たら面白いと思ったし、仮に聖女キーラが閉じ込められてしまっても、あとから皆であかずの間を解除したいと祈れば祈りの間は開かれると聞いていたので大きな問題にはならないだろうとも思っていた。


「今日はどうされます?というかあの方まだ祈りの間にいらっしゃったりして?」

「そうねぇ、そうだとしたら祈りの間が開かれるように、皆で祈って差し上げないといけませんわね」


そう言って一人が大げさに祈りの仕草を取るとまたクスクスと笑いあった。


「ねぇ、ちょっと、あれ、あの方ではなくて?」

「え?あら?もしかして聖女コーラ様と一緒にいらっしゃるの?珍しいことね」


一人の聖女が食堂の隅でフードを被ったままもくもくと食事をとる聖女を見つけ、その手前に座る聖女コーラに気が付いた。


「祈りの間の封印は解かれてしまったのね、世界に魔女が解き放たれてしまったわ」


つまらなさそうに呟いた一人に側にいたもう一人がぷっと吹き出した。


「ちょっと、そんな風におっしゃらないでくださる?笑ってしまいますわ」


皆で笑いあっていると大聖堂へと向かう時間になった。


朝の礼拝の場でいつもの場所に聖女テスらが膝をつくと、たおやかな笑みを浮かべてゆっくりと聖女トティータが大聖堂に入ってくるのが見えた。そのいつもと同じ様子に皆も笑顔になった。


ーよかった。トティータ様お元気そうだわ


聖女テスはトティータの変わらぬ美しい雰囲気に安堵した。


そうして朝の礼拝を終え、いつものように祈りの間では聖女トティータを囲み皆で聖水を数本生成すると花園へと向かったのだった。



***



テスは聖女トティータと行動を共にしていると、ここ数日感じていたざわざわとした胸の内が落ちついてくるのを感じていた。


ーそうよ、トティータ様は神の愛娘、次期大聖女候補。あんなボロボロの聖女に煩わされるような存在ではないのよ。


花園へと続く階段を皆で下りていくと、その下に聖女らを迎えるために待機していた聖騎士らの姿が見えた。


「おはようございます聖女トティータ。」


トティータの聖騎士らが先頭でトティータを出迎えるのをテスは笑みを浮かべて眺めていたが、聖騎士グリワムの姿がないことに気が付いて眉を寄せた。


ーグリワム様はどうされたのかしら


そう思った時、後ろにいた聖女がわっと華やいだ声を上げた。それに視線を移動させると奥からこちらに向かって近づいてくる聖騎士グリワムの姿がみえた。


「グリワム様よ」

「今日も麗しいわ…」


ほぅっとため息をつく聖女の横で、しかしテスはその姿に違和感を覚えた。



ーなにかしら?いつもとなにか違うような…



「まぁ!ごらんになって!」

「グリワム様の左手に…!」


その時後ろにいた聖女の息をのむ呟きに聖女テスは目を見開いた。グリワムの左手。その甲には美しく輝く聖紋が印されていたのだ。


「今朝はグリワム様にトティータ様の聖紋が…!」

「白金に薄紫…!なんて美しいのかしら…!」


聖女トティータの聖紋はグリワム以外の取り巻きの聖騎士には常に印されている。しかし今まで聖騎士グリワムにはほとんどそれが印されていなかった。


聖女トティータの聖力は絶大だが、それでも聖騎士グリワムの類まれな魔力を前に長く聖紋を印すことが難しいのだときく。実際トティータ以外の聖女が求愛の口づけを聖騎士グリワムに施したとき、その手に浮かび上がる聖紋は鐘一刻も持たずに消えてしまうのだという。そんな中聖女トティータの聖紋はそれでもグリワムに一日以上も印されていたというのだから、やはり聖女トティータは別格の存在なのだと皆が思っていた。


そのため周りはグリワムの手に聖紋が無くとも、お互いを想いあっている深い絆を感じ、すでに二人には印など必要としない存在なのだと、自然と誰もが思うようになっていた。


しかし今、聖騎士グリワムの手には聖女トティータの白金と薄紫に輝く聖紋が印されている。


そのあまりの美しさにテスは目を奪われていた。


真なる聖女と真に心を通わせた聖騎士との結びつきはこれほどの輝きを放つのかと…、それはもう聖女トティータの他の聖騎士に印されている聖紋とも違って見えるほどだった。



「流石トティータ様ですわ」



特別な聖女

神の愛娘

次期大聖女候補



そう呟いてうっとりと目を細めトティータを見やったテスの視線の先、


そこには驚愕に目を見開くトティータの姿があった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ