表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/43

29 誰?!

今日から再開いたします!

土日は12時と21時の二話投稿で平日は12時の一話投稿を予定しています。




聖女コーラは目覚めるとまずは洗面鏡の前に立ち、コップにこっそりと聖水を作ると神秘的に光るそれをくいっと一気に喉に流し込むのだ。するとなんとなーくむくんでいた肌がぱっと輝き瞳はキラキラ、髪もつやつやになって朝から大変身できるのだった。


「うふ。今日もキレイなわたくし」


顔を洗って髪をとかして鏡に映る自分に満足して部屋に戻ると、もう一つの寝台でもぞりと動く影に気が付いた。


「あら?キーラ様帰っていらっしゃったの」


昨日夕食後どころか寝る前になっても戻ってきていなかったキーラに少し驚いたコーラだったが、先日紹介した金級の聖騎士とうまい事やったのだろうと別段昨夜は気にしなかった。そのままいつもなら自分の用意を済ませてさっさと朝食に向かうコーラだったが、今日はキーラの様子が気になった。昨夜遅くに帰ってきたというのなら間違いなく金級の聖騎士と何か縁を結んだだろうからだ。


あの、聖女キーラが。だ


堅物聖女が今どんな顔をしているのか若干興味のわいたコーラは、軽い足取りでキーラの寝台に近づいた。


「もう朝ですわよキーラ様!」


そう言いながらバッと掛布団を引きはがすと、そこには見知らぬ美女が横たわっていた。


「は?」


ーえ?…誰?


「…う、うぅ…ん…なんですの…?コーラ様?…まだあと五分…」


そう言うとその美女はころりと枕を抱えて向こうをむいた。


差し込む光にキラキラと輝く白金の髪、聖女に支給されている寝着を着たその後ろ姿は艶めかしく服のすそから伸びる四肢もすらりと白く美しい。


「え、ちょっと!あなた誰?!」


見知らぬ女にコーラは目をむいたが、その人物が「はぁ?」とぬけた声を出しながらのそのそと肩越しに振り返った。


「朝からなんですの…?」


「あ、あなた教会員?!ここは一応聖女キーラ様の寝台ですわよ!い、いくらあの方がボロボロのズタボロでも聖女は聖女ですのよ!あれでも!!一応!!」


「…何をおっしゃってるの?コーラ様」

「だ、だから!!」

「わたくしはキーラですわ」

「はぁ?」


「ですから聖女キーラ=ナジェイラですわ。あなた様のルームメイトの聖女で間違いございません」



………はぁ?!!!



***



「まぁ…」


キーラは鏡を覗き込んで自分の顔をぺたぺたと触った。


「さぁ!キーラ様!一体何があったのか白状なさって!!美の秘術!美の秘術を手になさったんでしょう?!さぁ!早く!わたくしにも秘術を!!さぁ!さぁ!!」


「ちょっと落ち着いてくださいましコーラ様」


朝から騒がしいコーラとかみ合わない会話をしたキーラは、自分の見た目が変わっていると言われて洗面鏡で自身の姿を確認したところだった。


ー確かに…いくら櫛を入れてもぼさぼさだった髪が今朝はきれいに波打っておりますし、頬はふっくらしていて…


「太った…?」

「今までが痩せすぎでしたのよ!!」


きぃい!と高音域で叫ぶコーラの勢いに顔をしかめたが、キーラはもう一度鏡の中の自分を確認してみた。


ーこれは…昔の自分ですわ…


それは聖域に入るまでのキーラの顔だった。厳密にいえば聖女となってからもしばらくはこんな感じだったと記憶している。ただいつしかボロボロな見た目になってしまっていたのだ。


ー激務で???


聖水を毎日大量に作らざるを得なかった状況は自身の体を激しく蝕んでいたという事だったのか?と、キーラはそこで初めて思い至った。


ーあら、待って、じゃあどうして突然もとに戻ったのかしら???


隣でコーラは騒がしかったが、キーラはおっとりと頬に手をあてて考えた。


ー昨日祈りの間から出られなくなって、お腹も空いていたしで……そのまま、そう。そういえば…


「わたくし…聖水を作りませんでしたわ!」

「はぁ?」


そう、昨日は空腹で、そのまま眠ってしまいそれ以後聖水を作らなかったのだ。


ー??ということは聖力を自分に使ってしまったという事??……知らないうちに他の聖女様のように美容に活用してしまったと???いえいえいえお待ちになって違いますわ。今までは自分の体を維持するなにかももすべて聖力にして聖水作りに励んでいたという事ではないかしら?だってボロボロになる前はこんな感じで、確かに聖力が溢れる感覚はあったけれど…クーマちゃん三連ぶれすれっとが問題なく吸ってくれてましたし……


「…あっ…とコーラ様、わたくしちょっとお花摘みに…」


キーラはそう言いながら騒いでいるコーラを押しのけ個室に入った。鍵をかけてすぐに肌身離さず身に着けているクーマちゃん三連ぶれすれっと入り小袋を取り出し確認した。


するとそれは近年見たこともないほど激烈に、三連クーマヘッドがビカビカと光り輝いていたのだった。


ーまぁやっぱりこの輝き…お久しぶりですわ…


キーラは下品なまでに輝くそれから視線をそらしつつそっと小袋に連れ戻した。小袋はぶ厚い生地で3重にしているのでクーマちゃんビカビカ光線も外に漏れ出ることはない安心設計だ。


ーえっと…とにかく聖水を作らなかったことで体は昔の状態に戻り、クーマちゃんに蓄えられる聖力も満タン状態でございます。と。あら?そういえばわたくし昨日は聖水をいくつ作って終わったのかしら?午前中だけだから200本くらい??てことはいつもより3,400本くらい少ないってことですわよね??


「…」


いつも一日で納めていた聖水約680本の内半分以上が昨日は納められていないという事に気が付いてキーラは徐々に青くなった。聖水はすべての人を癒し支え、無くてはならない大切な物だ。それが昨日は半分以上も納められる数が減ってしまったとなれば困ってしまった人がいたかもしれない……。例えば、一日一本、毎朝聖水を飲む腰が悪いおじいさん?とか?…???。


だが、過ぎてしまったことはもう仕方がない…と、キーラは妄想のおじいさんに脳内で謝りつつ顔を上げた。


ー大丈夫!今日は元気いっぱいですもの!昨日の分も頑張れば問題ございませんわよね!


「とりあえずは朝ごはんですわ!」

「ちょお待てーい!!」


元気に個室から出てきたキーラにコーラが聖女にあるまじき激しさで突っ込んできた。


「なんですのコーラ様」


「なんですの?ではありませんわ!!その姿で食堂などに行ったらどうして昨日までボロボロのズタズタ聖女だったキーラ様がそんな風になったのかと大騒ぎになって、わたくしだけが聞ける美の秘術の特権が霧散してしまいますわ!!馬鹿ですの?!ちょっと奇麗になっても中身は全然変わっておられませんのね!!」


「…流石に…ズタズタなどではありませんでしたでしょ?」


”ボロボロ聖女”と”ズタズタ聖女”では言葉から受けるイメージに大きな乖離があるとキーラは口を尖らせた。


「そこではありませんわ!!いいから秘密を!美の秘術をお出しになって!わたくしにだけ!さぁ!早く!!」


キーラは目を血走らせるコーラに半眼になった。


ーこれは元にも戻っただけだと言っても納得してくださりそうにありませんわね…


「えーっと…これは毎日の規則正しい生活が…」


「はぁあん?」


「いえなんでもございませんわ。その、これは変わったというか元に戻っただけ…だと思いますわ」


恐ろしい形相で目を剝いたコーラがちょっと怖かったので、キーラはすぐに観念して思い当たる本当の事を言った。


「はぁ???」


「あの、わたくしは元々こういう顔でしたし。最近聖水を作るのが大変で、無理をしていたためにあのようにボロボロの姿になっていたようですの。ほら、覚えておられません?コーラ様が入教してこられた当初はまだわたくしこんな顔でしたでしょ?」


「は?え?…そ??」


キーラに言われてコーラは少し視線を過去に持ち上げた


「いえ。騙されませんわ!確かに当時はそこまでボロボロではなかったように思いますが流石にそこまでそんな風ではありませんでしたわよ!!」


そう言うとコーラはズビシとキーラを指さした。


「その白金に光る髪!つややかな肌!そして薄紫に金と青まで混じる信じられないほど美しい瞳!!なんですのそれ!!それじゃあまるで…ッ」


そこまで言ってからコーラは一度ハッとしたように目を見開いて、そのまま急に勢いをなくしたかのように何か言葉を飲み込んだ。


「…?コーラ様?」


突然黙り込んだコーラにキーラは首をかしげながら覗き込んだが「いえ、なんでもございませんわ」とコーラは腕を下した。


キーラはそのまま大人しくなってしまったコーラに戸惑ったが、腹がキューと小さく鳴ってしまい、「とにかく朝ごはんにいたしましょうコーラ様」と、食堂に行くために身支度を急いだのだった。



***



コーラは食堂の隅でトレーに載せたサラダをつつきながら手前に座る聖女キーラの様子をうかがっていた。


キーラはいつものようにフードを目深にかぶり黙々とトレーに山盛りにした肉や野菜を口に運んでいる。今現在食堂には聖女や働いている教会員が大勢いるが、キーラの変貌ぶりに気が付いている者はいなかった。


ーこれはいったいどういう事なのかしら…


コーラはキーラを見ながら目を細める。その視線の先にはキーラの白い貌、フードからわずかにこぼれる艶やかな白金の髪、紫の瞳が見えていた。


確かにキーラの言う通り、自分が15歳のころ初めて挨拶したあたりのキーラの姿だと言われればそうかもしれないが、そのころの記憶のキーラと比べても圧倒的に美しい。髪は確かに白に近い金だったと言われればそうだったかもしれないし、瞳の色も濃い紫ではあったが…輝きが違う。


ー聖女らしく控えめな美しさは確かに当時お持ちだったように思いますけど流石にこんなではありませんでしたわよキーラ様。


…自覚は無いようですけど今の姿はまるで…話に聞く…


大聖女様のようですわ




今日からまた毎日投稿頑張ります!よかったらポイントや評価、感想、リアクションもらえたら励みになります!よろしくお願いします!

挿絵(By みてみん)

ボロボロでなくなってから描くのもあれなんですけど、ボロボロ状態のキーラビジュアルです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ