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25 ジークライト



「なんですって?」


トティータは相手の言った言葉の意味がよく理解できずにそう問いただした。


すると彼、聖騎士シーリクはおっとりとした雰囲気はそのままにわずかに眉を寄せるトティータの側に片膝をついて「聖騎士グリワムが他の聖女様の求愛を受けられたそうです。と、そう申し上げました。トティータ様」と優し気にトティータを見上げた。


彼、シーリクはハポナ国の聖騎士スカビナが下ろされて新たにトティータの取り巻きとなった序列4位サシャム共和国黄級の聖騎士だ。


「な」


シーリクの言葉にトティータは絶句した。が、すぐにシーリクから視線を外し、側にいたグリワムと同じコカソリュン帝国の聖騎士オローワに説明を求めるようにキッと顔を向けた。しかしオローワは「誤解ですトティータ様」と笑みを見せた。


「聖騎士グリワムのトティータ様への想いは神代も裂けぬほど強いもの。一日千秋の思いでトティータ様が成人され求婚の儀を受けていただける日を待ちわびている男が今そのような心変わりをするなどありえません。」


そのはっきりとした言葉にトティータはわずかに目元の怒気を緩めた。


「だが、何人もの聖騎士や聖女様方も見たそうですよ?トティータ様以外の聖女様と抱き合って逢瀬を重ねておられるグリワム殿を。実際今日の午後から今までもグリワム殿はここにおられないではないですか?これはいったいどういう事か、同じ銀級の聖騎士としてももう少し説明があってしかるべきでは?」


シーリクはオローワを見ながら立ち上がりどこか得意げに首を回して見せた。


「グリワムは先ほど喫緊にとアリミア教国上層部からのお召があり、花園から出る途中たまたま行き交った聖女様と接触したと、ただそれだけの事。急だった為トティータ様へ一言もなく立ち去ったことはわたしからもお詫びさせていただきます。しかしちょうど先ほどグリワムからトティータ様へと、謝意を示すこちらの文とカーネラの首飾りを預かりましてございます。」


そういってオローワが自国の影子に持ってこさせた手紙と美しい首飾りを目にすると、トティータは「まぁ」とほほを緩めてそれらを受け取った。、


それを見ながらオローワは「とはいえ…」とトティータに近づきその手を取るとそっと口づけ「グリワムは確かに強くトティータ様を想っておりますが、わたしとてその気持ちで負けているなどとは思っておりません」とトティータの目を見た。


「オローワ様」


満足げにオローワを見つめ目を細めるトティータの様子を見ながら、もうひとり側に控えていた銅級の聖騎士ジークライトは、如才ないことだと内心でコカソリュン帝国聖騎士の仕事ぶりに肩をすくめていた。

しかしそんな感情はおくびにも出さずに新しくここの輪に加わった聖騎士シーリクを眺める。


大聖女候補トティータ=シュールベルトを手に入れる最も近い位置にいる聖騎士、グリワム=オーダナイブの降ってわいた醜聞を利用して自身の地位を上げ、できるならここにいるもう一人の銀級の聖騎士もあわせて始末しようとの浅い目論見が見事に不発に終わったことを悟り、彼は苦々しい顔を晒してしまっていた。


グリワムが先ほどトティータ以外の聖女と物陰で抱き合っていたというのは当然ジークライトもすでに自国の影子から急ぎの情報として耳に入れていた。しかしこれをどう扱うか。正確に言えばどう使えば効果的に自分と自国の利益になるのかを見定めようとしていた矢先、新参で功を焦った新人が無駄に飛びついて結局銀級のてのひらでいいように納められてしまったということだ。


ーまったく情報の出し方もしらぬ子どもが…


せっかく攻撃力の高い情報の鮮度が無駄に傷つけられてしまったではないかとジークライトは目を細めた。


しかし

まぁそれはそれでかまわないかと頭の隅で思考を巡らせる。


ここ一週間ほど前からグリワムがとある聖女を気にかけている。という話はジークライトを含めある程度上位の聖騎士らは皆つかんでいた。


実際ジークライトも件の聖女とは偶然挨拶を交わしている。


彼女は聖女というにはひどく変わり種だった。美しさこそ聖女である証左といわんばかりに皆美に磨きをかけているだろうなか、まるで老婆のようなその見た目には正直ジークライトも面食らっていた。


彼女の名前はキーラ=ナジェイラ。23歳。


この歳まで聖域で暮らし花園には一切降りてこなかった聖女なのだという。彼女が突然花園に降りてきたことにより、現在聖域で暮らす聖女の人数は67人だと思われていたのが、実は68人目の聖女が存在したと言うわけだった。


その話を確認したとき、ジークライトはわずかな興味を抱いた。


存在を知られていなかった68番目の聖女。


20歳になっても聖騎士へ求婚もせず、23歳になるこの年まで聖域に留まっていた聖女。確かに聖女の聖力は20歳から衰え、25歳頃までには消えると言われているが、実はジークライトの出身国ボナロアン王国では、聖力の衰えについては聖域から出た聖女に適応される事で、聖域に留まっていれば聖力の衰えはもう少し緩やかなのではないか?という報告が存在するのだ。


といのも数百年ほど前ボナロアン王国では、あと数か月で22歳になるという聖女としては高齢と言われる年齢の女性たちを複数人国に迎え入れたことがあった。その時期はなぜか聖域にいる聖女の数が常より一割ほど少なく適齢期を迎えても求婚の儀を先伸ばしした聖女が何人かいたというのだ。


それは聖女の数が足りなかったため聖水の生成数を確保する必要のあったアルミア教国側の意図に沿ったものだったのだとは思う。


しかし聖騎士制度に浴している13国には知った話ではない。自国には一日でも若く、聖力の強い聖女を得たいのだと、年嵩となった聖女はやんわりと忌避されていた。だが当時今ほど序列の高くなかったボナロアン王国では質より量で構わないと、行き遅れと囁かれていた年かさの聖女らすべてへ求婚し国へと連れ帰ったのだ。


だが、ふたを開けてみればその行き遅れと囁かれた聖女らは20歳で王国へとやってきた聖女とほとんど変わらない働きをしてみせたのだ。それどころかむしろ国で生成した聖水生成数は20歳の聖女よりも総数で言えば多かったのだ。


なぜなら彼女らは20歳で聖域を出た聖女よりも5年以上も長生きをし、25歳を超えてもわずかな数ではあったが聖水を生成したと言われているのだ。


国が得た聖水の数は、そのまま国力に比例する。


一本の聖水がどれだけの民や国を潤すのか。その事があってボナロアン王国は国力を伸ばし今や13国の内の序列三位の銅級にまでのしあがったのだとジークライトは聞かされている。


しかしこの話は口伝でしか残されておらず王国内でも限られた上級貴族と数名の聖騎士にしか明かされておらず、一般にはまったく広まっていない。


だがそれも当然だろうとジークライトは考える。下手をすればほとんど情報のない聖域と聖女の根幹にかかわるかもしれない話だとも推察される内容だ。自分が王国国王でも他国にかぎつけられる可能性はなるべく排除していたいし、アルミア教国へも報告してやる義理もない。


そう


アルミア教国内でもこの聖域と聖女の力や寿命について一体どこまで理解しているのかはジークライトからみても怪しいところだった。


ーとはいえ下手に藪をつついて大蛇に吞まれてもたまらないからな…ー


上手く、そつなく立ち回り、最終的には王国の実権を握る位置についている事を目標としているジークライトは、いまだオローワと楽し気に会話しているトティータを眺めた。


アルミア教国大公家の娘、トティータ=シュールベルト。


もうすぐ20歳を迎え、婚姻をし、そのまま大聖女となる予定の聖女。


彼女からのほどほどの求愛を受け自身の魔力はここに来た時と比べて2倍ほどに膨れている。大聖女となる彼女との顔つなぎも、いまや十分果たされているといえるだろう。


ジークライトはトティータが求婚するのはグリワムでゆるぎないだろうことは理解している。その時まで彼女の取り巻きとしての地位に居座り、彼女らが聖域を出た際には適当な聖女に求婚して自国に戻るつもりだったが…


ー28番目の聖女か…


以前挨拶をした時の老婆のような姿に、いくら聖域で他より長く過ごしていた聖女だとはいえ、流石に聖力が豊富だとは感じとれなかった為食指を動かす気もなかったが、あのグリワムが動いているというならまた別かとそっと顎先に指をかけた。




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