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24 意味が分かりませんわ!



テスはその話を聞いてトティータが汚されたような嫌な気分になった。もし本当にあの聖女キーラがトティータの聖騎士…しかも黒銀の聖騎士グリワムを狙っているのだとしたら…許しがたいことだと思ったのだ。


そうして今日、数人の聖女、聖騎士らと外で散策を楽しんでいたその時、遠い草陰に、ちらりと見えてしまったのだ。



聖騎士グリワムと抱き合うあの女を



テスはとっさにわが目を疑った。


だが遠目でもグリワムの長身や逞しい体つきは見間違うことはないし、またキーラの異常に細い姿や特徴的な髪なども見間違うことはなかった。


ーうそでしょ


「聖女テス?どうかされましたか?」


驚きに顔を引きつらせていると横にいた聖騎士がテスの顔を心配そうにのぞき込んできた。

え、とテスは視線を聖騎士に一度向けて「あ、いえ…なにも…」と視線を泳がせると彼はテスの見ていた方向へ視線を向けた。


「あれは…聖騎士グリワム様?」

「え?グリワム様?」


彼も遠目にグリワムの姿を認めたのかそうこぼすと、周りにいた他の聖女や聖騎士らもそちらに視線を向けた。


「あら?ではトティータ様と…?」

「まぁ、お待ちになってあの方、トティータ様ではありませんわ!」

「え?嘘、まさか」


周りの聖女もグリワムと一緒にいるのがトティータではなくキーラだと気がついたその時、二人の姿はすっとかき消えてしまった。


「え、消え…魔術を?何?どういう事ですの?」


「なんと…驚きました。聖騎士グリワムは聖女トティータ様と婚姻を結ぶつもりだと我々は思っていたのですが別の聖女様ともお付き合いをされていたのですね」


その時ひとりの聖騎士の言った言葉に周りの聖女らはぎょっと目を見張った。


「そ、そんなはずありませんわ」


「そうなのですか?遠目には非常に親し気に見えましたが」

「…まさか」


そうざわざわと声が行きかう中突然テスが大声を上げた。


「これは何かの間違いですわ!グリワム様がトティータ様との絆をないがしろにされるなんてこと…あるはがずございません!!」


テスの大声に側にいた聖騎士は驚き「聖女テス?」とその顔を覗き込んだ。しかしテスは顔を赤くして「あの方が…聖女キーラ様がきっとなにか卑怯な手を使ったのです!!グリワム様を貶めるような何かを…!!」と言った。それに周りの聖女らも「まぁ」とか言いながら「きっとそうですわ」と話が一方向へ向かっていく。


その様子に聖騎士らは一瞬戸惑うようにしたが、だがすぐに考えを切り替えて聖騎士グリワムの弱みにつながる話かもしれないとお互い目線を交わしあった。


「なるほど。とはいえ聖女様方ここで騒ぐのはいかがなものでしょうか?どうでしょうあちらのテラスで休憩がてら皆でお茶にでもいたしませんか?」


そういうと彼らは聖女らに優雅な笑みをみせ、奥のテラスへと優しく誘うのだった。




****



1.2.3.4

1.2.3.4

1.2.3.4


キーラはぶつぶつと呪術師のように不気味に数字を呟きながら、いつもの倍以上の速さで聖水を生成し続けていた。


今はイススの2の鐘(午後3時)も回りいつもならおやつを頂きましょうとふらふら祈りの間を出る時間だったがそれもせずにキーラは聖水を作る手を止めなかった。


しかしいつしかその動作は緩慢になり、指先を小さく震わせた。


ーてか

ーてか

ーてかなんですの?!なんなんですのあの方ーーーー!!!


と突然脳内で爆発したように思考が噴火し、キーラは「あーーーー!!!」と大声をだすと生成し終えた薬瓶をケースに押し込み、そのまま顔を覆って「なんなんですのーーーー!!!」とくぐもった叫び声をあげた。


冷静さを保とうと追いやっても追いやっても再生される先ほどの出来事。それがキーラを奇々怪々な世界へ誘おうとする。


ーてか本当なんなんですのあの方!いいいいい意味が意味がわかりませんわ!!!あの方トティータ様の求婚者ではありませんでしたの?!なんなんですの?!あの方わわわわわわたくしにわたくしに口、くちくち、くちずけくちずけしかも舌、舌をした、した


「うをぁーーーーーーーーーーーー!!!」


またしても大きな声で叫ぶとキーラはそのまま机につっぷした。


ーいえ。お待ちになって。キーラさん。あれは求愛の口づけ。聖女と聖騎士の間ではよくあることですのよ。


その時脳内でキーラ(訳知り顔)が訳知り顔でもの申してきた。


ーそうですわ。お父様もお母さまもわたくしたちの前でよくされてましたわ。よくあるあれ。あれあれなんですわ。


そうしてもう一人のキーラ(ピュアっこ)がピュアなまなざしで口をはさんできた。


ーもういやぁ…なんなんですのぉ…よくあるって…そんなのなんの慰めにもなりませんわぁ…

とにかく冷静でいようとしたキーラだったが、脳内で作り出した分身程度ではなんの役にも立たなかった。しかし暴走する脳内は勝手に思考を走らせる。


ーわかりましたわ、では視点を変えて嫌だった、嫌じゃなかったとか、そういう感覚的なところから処理していきませんこと??


その時訳知り顔がいつのまにか装着した眼鏡をくいっと持ち上げて聞いてきた。


ー……嫌とか…嫌じゃないとか…そういう事ではありませんわ……

ーじゃあ怖かった?


ピュアっこが目をうるうるさせて聞いてくるが、それとも違うと…


キーラはゆっくりと顔を上げぽつりと呟いた。


「とても驚きましたわ…」


とにかくびっくりして

それから

それから


聖力がぐるぐると体を巡る感覚がして

なんだか

それが


とても


「あッあーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!いや!!無理ィーーーーーーーーッ!!!!」


キーラは脳内の分身を強引に吹っ飛ばし再びうずくまるようにして頭を抱えた。


口づけの時間はほんのわずかな時間だった。唇を寄せられからめとられるようにして舌先をくすぐられ、上顎をなぞられ、おおきな手で頬をやんわりとおえられて、じんと頭の奥が疼いた気がした。でもすぐにハッとなってキーラは身をよじるとグリワムを引きはがした。そのままグリワムを見ることなくキーラはその場からまさに逃げるようにして聖域へと戻ってきた。


祈りの間に飛び込んで扉に背を預け一人立つキーラの顔は、その時熟れた果実のように真っ赤に染まっていたのだった。



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