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22 壁にドンとか



「え、えと…あの…なんですの…?グリワム様??なにかわたくしに御用が…?」


キーラは至近距離で自分を見下ろす美貌に変な汗をかきながらそう問いかけた。


「あなたは…何を考えていらっしゃるのですか?」


「は?」


「タルスルら銀級の聖騎士ではお気に召しませんでしたか?」


そういわれてキーラはグリワムに紹介された彼らの事を思った。


「は?え?あ…いえ、そんな、お気に召さないとかそういうわけでは…」


「なるほど。序列としては銀級よりも金級の聖騎士の方が上になる。そういうことでしょうか?」


「え?いえ、そんな…」


答えながらキーラは自分が一体何を問い詰められているのかわけがわからなかった。


グリワムは両腕を伸ばし、キーラの両肩の横に手をつけてこちらを完全に包囲している。絶対に逃がさないという強い意志を感じる。こわい。


というかここは一体どこなのだろうか?自分は聖域に戻るべく外を歩いていたはずだ。あの道は両側に庭が広がっていて、一番近い建物は花の宮だけだったはず。ということは今キーラが背にしている壁?は花の宮という事なのだろうか???だが一瞬でそんな距離を戻ることが可能なのだろうか??とキーラがこの状況をなんとか飲み込もうとぐるぐる考えを巡らせていると、


「余裕ですね」


そう呟いたグリワムは伸ばしていた左腕をするりと手首からひざまで、キーラの横壁に沿わせるようにしてもたれかかってきた。そうするとグリワムの重心がずれてキーラの右頬にグリワムの顔面がさらに近づけられる。


ーひょえェ…


「あなたは彼らの求愛も一切受けようとはされなかった。なぜです?銀級では魅力を感じられなかった?そういう事でしょうか?」


「魅力を感じないだなんて…皆様素敵な方々でしたわそれは…でも…」


「聖女コーラがあなたは序列にこだわりがあり金級の聖騎士をこそ望んでいるのだと言っておられたそうなのですが、それは本当ですか?」


「え?あ、ええ…そう?えっと…そうですわね…?」


聖騎士が聖女を国に連れ帰ることを目的として婚姻していると聞いて、それなら実家があるこの国に留まることを前提としている自分と、他国の聖騎士へ偽装結婚を持ち掛けるのは忍びないと考えての事だったが、なんとなく明確な意図が相手に伝わっていないような気がしてキーラは言葉尻を不自然に持ち上げた。



「なるほど」



***


聖女キーラが花園に降りてくるようになって数日がたっていた。グリワムはタルスルら銀級の聖騎士3名を彼女につけて様子を見ることにしたが、何も進展がないことにわずかに苛立ちを感じていた。


これが他の聖女ならばタルスルらを侍らせたその日のうちに聖紋を印しただろうにこれだけ日にちがたってもそういった接触は起こっていないという。


ー彼女が他の聖女らと同じような行動をするとは思っていなかったが…それでもあの3人の内誰かしらを選びはするだろうと考えていたのだが……


タルスルをはじめ3人の聖騎士はみな優秀だ。見た目、態度、教養。すべて申し分ない振る舞いが身についている。


ー彼女をおとすにはそれだけでは足りないのか…?


グリワムは自室の窓から外を眺めながら思案した。


聖女はみな画一的だ。あの聖女トティータであっても結局は収まる場所がある。欲望の形。それを望むように刺激してやればいい。


ー聖女キーラの望むもの…


聖域から出ることを目的とした聖騎士との契約結婚…


それならなおのこと手あたり次第求愛し相性を確かめるくらいはするはずだとグリワムは思考を深めた。それに今まで面と向かって聖女の方から言われたことはないが、聖騎士と聖女の結婚、求婚とは、契約結婚のことだというのは聖騎士の誰もが理解している常識だった。


聖女から求婚を受けて聖女と婚姻した聖騎士は国に聖女を連れ帰りはするが、世間一般でいわれるような家庭生活を送ることはない。どこの国でも聖女は各国がそれぞれに用意している聖女宮という場所にいれられそこで暮らしながら聖水を作るのだ。もちろん求婚契約をした聖騎士は立場上その聖女の夫となっていて、妻である聖女のもとへ通いその宮で夫婦としての交流は続けるが、聖女は短命で子供もできない為、聖女を国へ連れ帰った聖騎士は別に妻を娶り家庭を持つことが許されているほどだ。例外はアルミア教国に存在する大聖女だけと言っていいだろう。


とにかく聖域から出るにはまず聖騎士を選ばなければならない。


実家に戻るというような事も言ってはいたが、聖女が生家に戻されることはない。残り少ない聖女の命は有効に使われねばならないというのは聖騎士制度に浴している13国の総意だ。だが、コカソリュン帝国では他国と違い聖女個人の望みはできうる限り叶えるべきという法も整備されている。そのため彼女が望むのならば生家を年に一度程度なら訪れることが出来るように取り計らうことは可能だ。そういった観点から我がコカソリュン帝国の聖騎士を候補にしたのかと思っていたのだが…


ーなぜ選ぶことすらしないのか……


聖騎士ソリティオからの直接的な求愛は断ったと報告があった。ソリティオが好みの男ではないというのなら代わりの者を付けたいところだが、あいにく銀級の聖騎士はあの三名以外今は全員聖紋が記されている。


ーいや、あと1名…求愛を受けることが出来る者はいるな…


ふとそう思い至りグリワムは自身の手の甲に指をやった。


聖女トティータ=シュールベルト。次期大聖女と目されている聖女の求婚相手としてこの国に入り込む。それはグリワムが聖騎士としてここに送り込まれてきた主目的だ。


教国で大聖女の代替わりが行われるようだという情報がコカソリュン帝国にもたらされたのが5年前。それから調査を重ね皇帝アシーラから直々に命じられたその任は『時期大聖女の夫となり教国のその内側へ入り込み。その秘密を暴き持ち帰れ』というものだった。本来大聖女の夫となる聖騎士はアルミア教国の者がほとんどだったが一度だけ他国の聖騎士が夫となったという文献がみつかりそれならばとグリワムへ命令が下されたのだ。


教国の大聖女という存在はいまだ謎に包まれている。そもそも聖女の存在自体も聖騎士制度を許されている13国以外では幻のようなものといえるかもしれないが、それ以上に大聖女という存在は教国の奥深くに秘されていて、決して表に出てこないのだ。大聖女の代替わりが行われるという情報でさえほとんど公にされることはなかった。


しかし今回はこの情報を掴むことが出来、そこに隠されているものに近づくには決して逃すことの出来ない大きなチャンスだといえた。聖騎士として花園に入り込み、トティータという大聖女候補にも接触しその求婚相手としての地位もほぼ手にした。



それでも


グリワムは聖女キーラという不確実な存在を無視することが出来なかった。



ー大聖女候補トティータ=シュールベルトの寵を天秤ばかりに乗せてまですることか?


聖女トティータからの関心は十分に引き出せている自信がある。だがあと数か月で20歳を迎える彼女がここでグリワムに見切りをつけるようなことが全くないとはいえない。大公家出身の聖女にして唯一の大聖女候補トティータ=シュールベルト。何ごとかがあれば彼女は高位貴族の高慢さによってグリワムへの寵愛をたやすく翻してみせるだろう。


今まではあえてそれを刺激しながら状況をコントロールしてきたし、初めてキーラと出会った馬場で彼女の聖紋を得ようと画策もしたが、いさかかトティータを刺激しすぎた感がある。


聖女キーラと会った次の日、トティータよりもキーラを優先したことがひどく気に障ったようだった。他の聖女の茶会にグリワムが顔を出しても余裕のある態度でいたトティータとは思えないほど不愉快さを隠さなかった。


それも結局はこちらに強く執着している表れとうまく対応してみせたが、さすがにもうキーラに求愛し、彼女の聖紋を印すのは流石にまずいだろうとは思えた。たとえ実際にこの手にそれが浮き出る時間がごくわずかな時間であったとしてもあの聖女トティータなら気が付くだろう。


そう思案していた翌日、トティータの側で談笑していたグリワムの元に影子の報告が上がってきた。


ー聖女キーラは銀級の聖騎士に見切りをつけ金級の聖騎士を選んだ


と。




「なるほど」


そう低く呟く声が耳をかすめてキーラは顔を上げた。


「聖女であるあなたが金級を選ばれるというのならそれは仕方がない。ー…と、そういう物わかりのいい聖騎士ばかりではないのですよ?聖女キーラ?」


「は?」


「この箱庭で立ち回るのなら強引な手段も時には行使される。序列の通り金級よりも我々が劣っているのか…その唇で確かめて見られては?」


「ちょ…っ」


グリワムから吐き出された言葉が吐息とともにキーラの唇に触れて、重なった。


「んっ!?」


突然他者の熱い唇が触れて、その舌がキーラの咥内に浸食し優しくそこを冒していく


「む、ン」


いつの間にか頬を包み込むようにして添えられたグリワムの手が、キーラのわずかな動きすら封じた。



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